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第十二章 準備をする魔塔主と寂しがる弟子
344.常にいるのが当たり前で
しおりを挟む俺が吸っている煙草の煙が室内に広がっていく。
嗅ぎなれた香りを肺へ落として目を瞑り、また思考を巡らせる。
複雑に絡み合う紐を解いてまた結び直していく作業を、頭の中で何度も繰り返す。
「そうか。もっと単純に考えりゃいいんじゃねぇか。これなら、使える」
パッと目を開き、思いついたものを書き進めていく。
俺の字は独特の癖字だし、書かれた文字を仮に誰かが覗き見ても内容が分かるのはレイヴンくらいだろうな。
一気に書き終えると、ふぅっと煙を吐き出した。
「これが出来ちまえば、後はどうとでもなるだろ。俺はこれくらいしかできねぇが、レイヴンは秘めてる才能があるから俺以外のヤツに習えばもっと伸びるはずなんだよな」
俺がレイヴンに指示したことは簡単だ。
エルフの里へ行って、精霊魔法をもっと使いこなせるように父親に教えてもらえと指示をした。
レイヴンを俺の側から離したくはないが、俺は精霊魔法が使えない。
精霊魔法は詳しく分かんねぇし、レイヴンの師匠だからと言って教えられないこともある。
だから、俺は俺でやれることをすると決めた。
「っていうのに、少し離れるだけでもなーんか物足りねぇよな。このイラつきはあの魔族野郎に全部まとめてぶつけてやらねぇと気が済まねぇ」
レイヴンもだいぶ懐いて心を許してくれるようになったってのに、わざわざ遠くに行かせる選択を迫られたんだよなァ。
イライラもするって訳だ。
最近のレイヴンは抱いてる時もより積極的で、可愛らしく甘い声で強請り俺を求めてくる。
愛撫すれば白い肌が桃色に変わって、俺だけを見つめて可愛らしく蕩けた顔を覗かせるのも堪らねぇ。
夜のレイヴンの姿は、俺だけが見ることができる特権だ。
優越感と征服感に浸れる瞬間だってのに、暫くの間お預けなんてよ。
発端が魔族のせいだと改めて思い直すのと同時に、レイヴンを今すぐ押し倒したい衝動に駆られる。
「チッ。今想像するんじゃなかった」
乱暴に煙草を灰皿に押し付けて、火を揉み消した。
頭に浮かんだ欲望を振り払うように、黙々と文字を書き綴っていく。
しかし、文字は更に乱れて俺の頭の中をかき乱す。
「クソ……ぁー仕方ねぇ! 行かせる前にヤる。集中できねぇ」
机に両手をついて立ち上がると、さっさと研究部屋を後にする。
テラスへ出て、レイヴンの自室へと感情の赴くまま移動する。
「……テオ?」
レイヴンは、セルリアンブルーの魔石が付いている一枚葉の金の耳飾りを外しているところだった。
無遠慮にテラスから室内へと入った俺に対して少し驚きながら、首を傾げた。
「明日から行けそうか?」
「はい、大丈夫だそうです。なので、暫く留守にします……けど。テオ、やることがあったんじゃ……」
俺は有無を言わさず、レイヴンを抱きしめる。
身体を屈めてレイヴンの肩に顔を埋めると、程よい暖かさとふわりとした優しい香りが俺の鼻孔を擽る。
「どうしたんですか?」
「行く前に、抱いていいか?」
耳元で囁くと、レイヴンが慌てて少し身体を離して俺の瞳を覗き込んでくる。
「昨日、したばっかりなのに……」
「俺が考えてた魔法の構築は、詰まってたヤツはできたんだけどよ。この後レイちゃんと暫く会えねぇなと考えたら、ヤるしかねぇと」
「だから、言い方! はぁ……弟子離れできない子どもですか?」
「しょうがねぇだろ。したいもんはしたいんだし」
本当は俺の方がレイヴンから離れられなくなっているんだよな。
一度抱いてからは、身体を重ねるごとに依存が増してきて一時も離れたくない気持ちが強い。
俺はレイヴン依存症か?
ったく、ガキじゃあるまいし……。
でも、否定しきれないってのがどうしようもねぇよな。
子どものように駄々をこねると、レイヴンは仕方ないなという表情を俺へ向けてからクスクス笑い始めた。
「俺より寂しがってどうするんですか。でも、テオから離れるのは久しぶりだし俺も同じ気持ちになるはずだから」
いいですよ、とレイヴンは優しく微笑みかけてくる。
なんか、レイヴンの方が珍しく落ち着いてるじゃねぇか。
ニッと笑い返し、チュッと優しくキスを落とした。
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