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第十二章 準備をする魔塔主と寂しがる弟子
343.たまには瞑想する師匠と神妙な面持ちの弟子
しおりを挟むレイヴンの作った料理を食べきって少しお腹も落ち着いてきたな。
あんまり話したくねぇが、言わなきゃ言わないで不安がるからなぁ。
フゥと息を吐いてから、話しを切り出す。
自然と低い声になっちまうのは、思い出したくもねぇことだから仕方ねぇな。
「昨日な、真夜中に呼んでもねぇ使者ってヤツが来たんだよ」
「使者って……」
「魔族だな。準備が整ったんだってよ」
あっさりと言い切って、コーヒーを啜る。
茶化したような口調って訳にもいかねぇし、先のこと考えたら気怠いよな。
どうにも真剣になっちまって嫌になっちまう。
レイヴンも静かに聞きながら、紅茶のカップを傾ける。
「もう、行かなくてはいけない、そういうことですか?」
「いや、まだ猶予があるらしい。少し焦れさせてやればいいだろ。待つって言ったんだから、待たねぇってことはないはずだ」
「そんな、もし魔族が街に現れたりしたら……」
レイヴンは予想通りの不安そうな表情を向けてくる。
安心させるように腕を伸ばして、ふわふわと頭を撫でた。
「アイツらは約束を破ったりしねぇよ。むしろ自分らの愉しみのためなら、うずうずしながら準備を待つんじゃねぇか? それを利用してだな、お前にはやってほしいことがある」
敢えて真剣な眼差しをレイヴンへ向ける。
レイヴンは俺の意図を組むように、しっかりと視線を受け止めると静かに頷いた。
俺はレイヴンにこれから取り組んで欲しい内容を順に説明していく。
本音を言えば危険なことに巻き込みたくねぇが、レイヴンは魔法使いとしても優秀だからな。
魔族だろうと、十分渡り合える。
今度ばかりはガッチリ対策をするしかねぇし、俺が近くで守ればいい話だ。
「分かりました。俺からもお願いしてみます。テオはどうするんですか?」
「俺は俺で準備しておく。新しい魔法も作ってみるつもりだしな。今の俺で使えるか分からねぇが。本来は俺の師匠が使ってたもんだし、それを自分で使えるように上手く組み直してみようと思ってな」
二人で頷き合い、ゆっくりと立ち上がる。
レイヴンが残った食器の片づけを手伝えと言うから、おとなしく手伝ってやる。
少し話してからお互い戦闘の準備をするために、一旦別行動を取ることになった。
+++
俺は研究部屋に籠り自分で書き綴っている本を何冊も広げ、頭の中で魔法を構築していた。
目を瞑り、瞑想するように集中する。
普段は適当だが、これでも魔法に関しては真摯に向き合う時もある。
魔法について考えることは昔から好きだった。
今の状況は少々切羽詰まっているが、息を長く吐いて心を落ち着かせる。
そして、一から新しく魔法を組み上げていく。
「どうしても、ココで詰まるんだよな。原理の理解が足りていないからか? クッソ、師匠がいたら楽だったのによ」
今はいなくなってしまった人を思い出しても仕方ねぇが、師匠の知識量は今の自分すら凌駕していただろうな。
クソ、なんか腹立ってきた。
自然と舌打ちする。
俺の師匠は知識をひけらかしたりする人間ではなかったが、周りからは変わり者としか思われてなかっただろうな。
俺自身魔法に関しては誰にも負けねぇ自負はあるが、同時に焦りもある。
伸びしろのあるレイヴンと違って、俺が更なる高みってヤツに到達するためには殻を破る必要がある。
「あぁー……一旦ヤメだ! あともうちょいだってのによー」
机の上に転がした煙草の箱を手に取り、素早く一本取り出す。
ったく、情けねぇ。
マッチも見つからねぇし、仕方なくパチンと指先を慣らして小さな炎を生み出して火を付けた。
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