【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

文字の大きさ
上 下
344 / 483
第十二章 準備をする魔塔主と寂しがる弟子

342.打って変わって穏やかな朝<テオドール・レイヴン視点>

しおりを挟む
 レイヴンは俺が座るのを見届けてから、向かいに腰掛ける。
 真面目な弟子は小声でいただきますと呟いて両手を合わせると、カップを手に取った。

「……テオ、昨日眠れなかったんですか? いつもより眠そうな気が……」
「まぁ、久々に盛り上がったしなァ」

 ニィと笑ってレイヴンを見遣る。
 レイヴンは、かぁっと頬を赤くして分かりやすく反応を返してきた。

「人が真面目に聞いてるのにまたそういうことを……心配した俺がバカでした」
「……バカじゃねぇよ。よくそんな些細なことが分かるよなぁって思っただけだ。しっかし珈琲淹れるのもうまくなったよなぁ」
「毎日のように見てれば何となく分かりますよ。別になんでもないのならいいですけど。珈琲は誰かさんがうるさいので自然と。ほら、ちゃんと野菜も食べてくださいね?」
「あぁ? 野菜は別にいらねぇけど。ぁー、分かったよ。食べさせてくれたら食べてやるから」

 レイヴンは嫌がる俺にニコっと笑いかけると、思い切りフォークにさした葉物を俺の口に押し込んできた。
 可愛くない弟子の優しさの欠片もないやり方に、さすがの俺も少し驚いてむせた。

「おっまえなぁ!」
「はいはい、いい年なんですから好き嫌いせずに食べましょうね。可愛い弟子が作ったご飯が食べられないだなんて、そんなこと師匠は言いませんよね?」
「こういう時だけカワイコぶりっ子するんじゃねぇっての」
「テオー。俺の料理……食べてくれますよね?」

 レイヴンは机に両肘を置いて俺をじっと見つめてくる。
 きゅるんと音が鳴るような可愛らしさを込めた表情を作りやがって。
 クッソ……顔がイイってのは得だよな。

 ワザとだと分かってはいるんだが、レイヴンに可愛い顔をされると言うこと聞くしかねぇ気がしてくる。
 頭を掻きながら仕方なく野菜を噛み砕いて咀嚼した。
 
「ふふ……ほら、食べられるじゃないですか」
「可愛い弟子は師匠を脅したりしないだろうが。普段から可愛く話しかけてくれりゃあ言う事を聞いてやるのによ」
「……嘘つき。俺が頼んだって自分のやりたいことを優先するくせに」
「それは時と場合によるだろ。まぁいいや。折角作ってくれたもんは残したりしねぇよ」

 両手を上にあげて降参の意を示す。
 ここは俺が折れるしかねぇか。
 大人しくサラダにも手を付けて、静かに食べ進めていく。
 
 レイヴンは俺が素直にサラダを食べるのを見てご満悦らしい。
 楽しそうに俺へ笑いかけてから、ゆっくりとスープを飲んでいく。

 +++

 こんな穏やかな朝が毎日迎えられたらいいのに。

 テオは何も言わないけど、たぶん何かあったのだろう。
 ――そんな気がするから。

 今はまだこの小さな幸せを大事にしたいと、心の中で思いながらパンを齧る。

「ったく。お前もすぐ顔にでるよな。心配するなって。後でちゃんと説明してやるから、今はうまいメシを食っちまおうぜ」
「……はい」

 テオの言葉に素直に頷いて、今は俺も深く考えるのをやめた。
 この時間を、楽しく過ごそう。
 テオと一緒にいられることが、何より嬉しいから。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...