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第十一章 強気な魔塔主と心配性の弟子
322.愉しみを求めてやまぬもの
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目の前に現れたのは長い黒髪を一本に結って流しスラリとした手足と色素の薄い仄白い素肌を持つ、恐ろしい程に美形の男だ。
黒を基調とした貴族が着るような燕尾服はツタのような銀の刺繍模様が施され、首元は白のジャボと呼ばれるひらひらとしたレースで飾られている。
中のシャツは滑らかな素材の黒で似たような薄青のツタ模様で描かれており、品は良いが派手にも見える。
長い足はスッキリとした黒のパンツに覆われて、ムカつく程に似合っているようだ。
「その者が大切か? 確かに黒髪は珍しい。我らとて見目が良い者は贔屓するが」
「美的感覚が人間に近いとは、初めて知ったぜ。で、アンタは何しに来たんだよ。まさか転がってるヤツらを尋問する前に姿を現してくれるとは思ってなかったがな」
スッと細められた血のような紅の瞳に魅入られてしまうと、動けなくなりそうな眼力があった。
危険なヤツだということを改めて思い知らされるようで、あまり気持ちの良いもんじゃねぇな。
「このような暗いところで決着をつけてしまうのも面白くないのでな。もっと良き舞台を用意しようではないか。どうだ?」
「さすがは魔族、自分勝手で気ままな野郎だな。そこに転がっているヤツらは人間側として始末する必要があるんだがなァ」
突然何を言い出すかと思えば、なんだよ良き舞台って。
訳分からねぇヤツだ。
こういうのはビビったら舐められる。
レイヴンを片腕に抱いたまま一歩も引き下がらず、不敵な表情を崩さない。
俺を見た魔族は愉しそうにフワリと笑う。
その愉悦の表情は美しく見えて、寒気がしてきやがる。
「随分と野蛮なことを言う。お前の攻撃的な魔力は嫌いではないが、顔は好みではない。まぁ……愉しませてくれれば別に構わないが」
「ったく、魔族までレイヴン推しかよ。これだから美形は」
「い、今そういうことを言いますか?」
言いたい放題言いやがる、勝手な野郎だ。
レイヴンの美しさは人間以外にも通用するってか?
魔族と対峙している間に、転がっていた男が起き上がろうとする。
余計なことをされる前に俺が魔法を唱えようとすると、会話の邪魔をされたのが気に食わなかったのか魔族が俺より先に転がる人間を覇気で抑えつけていく。
「っぐぅ!」
「お前は本当に可愛げがない……白髪は盲目的だからいいが。今、私が話しているのに邪魔をするな」
「我々を、助けるつもりならば、素直に助け……う、うぅ……」
白髪の男がむせながら訴えるが、その訴えは黙殺される。
魔族は転がっているヤツらよりも、俺とレイヴンに興味があるらしい。
俺はさっさと尋問したいってのによ。
「俺はソイツをぶちのめす理由があるんだよなァ。さっさとコッチによこせよ」
「それは聞けない。大人しく誘いを受けて欲しいのだが。その方が面白い」
後から現れた癖に仕切りやがって。
ここで一発かましてやっても構わねぇんだけどな。
俺と魔族との空気はピリつき、一触即発の様相を呈してきた。
レイヴンが不安そうに俺を見上げてくる。
「このような狭苦しいところでやり合うのは、お互いやりづらいのではないか? お前は見たところ派手な魔法が好きそうだ」
「……当たってる」
「おい、そこに反応している場合じゃねぇだろ」
今、素直に言わなくたっていいのに俺の可愛い弟子ときたら。
魔族は素直な感想を漏らしたレイヴンに気を良くしたらしく、クツクツと愉快そうに笑う。
「怖がっていたかと思えば。不思議なものだ。その人間の傍にいるのは安心か?」
「……」
「心配しなくとも、この場で暴れる気は無い。ただ、興味が湧いただけだ。そうだな……お前たちがこの話に乗るのならば、この人間たちが好き勝手しないよう、誓いをたててもいい」
魔族の意外な提案に、眉がピクリと跳ねた。
危ない輩の提案なんぞ、裏があるにきまってるからな。
魔族の言い分に、地べたの二人組は文句を言いたそうな顔で必死にバタついている。
「……チッ。俺がソイツらを断罪できる場が用意されるのなら、考えてやってもいい。後、面倒だから俺らの国の周りでチョロチョロと汚い真似をするのはやめてもらう」
「テオ! そんな、簡単に……」
「別に暇潰しが出来れば構わない。まぁ、この二人にも機会は与えてやらないとな。この魔法使いを打ち倒すことができれば、お前たちにまた技術を提供してやってもいい。これなら構わないだろう?」
魔族が足元に視線を向けると、不満そうだったが白髪の男も渋々頷いて納得したようだ。
隣の魔物使いも、目を閉じて何も言わなかった。
黒を基調とした貴族が着るような燕尾服はツタのような銀の刺繍模様が施され、首元は白のジャボと呼ばれるひらひらとしたレースで飾られている。
中のシャツは滑らかな素材の黒で似たような薄青のツタ模様で描かれており、品は良いが派手にも見える。
長い足はスッキリとした黒のパンツに覆われて、ムカつく程に似合っているようだ。
「その者が大切か? 確かに黒髪は珍しい。我らとて見目が良い者は贔屓するが」
「美的感覚が人間に近いとは、初めて知ったぜ。で、アンタは何しに来たんだよ。まさか転がってるヤツらを尋問する前に姿を現してくれるとは思ってなかったがな」
スッと細められた血のような紅の瞳に魅入られてしまうと、動けなくなりそうな眼力があった。
危険なヤツだということを改めて思い知らされるようで、あまり気持ちの良いもんじゃねぇな。
「このような暗いところで決着をつけてしまうのも面白くないのでな。もっと良き舞台を用意しようではないか。どうだ?」
「さすがは魔族、自分勝手で気ままな野郎だな。そこに転がっているヤツらは人間側として始末する必要があるんだがなァ」
突然何を言い出すかと思えば、なんだよ良き舞台って。
訳分からねぇヤツだ。
こういうのはビビったら舐められる。
レイヴンを片腕に抱いたまま一歩も引き下がらず、不敵な表情を崩さない。
俺を見た魔族は愉しそうにフワリと笑う。
その愉悦の表情は美しく見えて、寒気がしてきやがる。
「随分と野蛮なことを言う。お前の攻撃的な魔力は嫌いではないが、顔は好みではない。まぁ……愉しませてくれれば別に構わないが」
「ったく、魔族までレイヴン推しかよ。これだから美形は」
「い、今そういうことを言いますか?」
言いたい放題言いやがる、勝手な野郎だ。
レイヴンの美しさは人間以外にも通用するってか?
魔族と対峙している間に、転がっていた男が起き上がろうとする。
余計なことをされる前に俺が魔法を唱えようとすると、会話の邪魔をされたのが気に食わなかったのか魔族が俺より先に転がる人間を覇気で抑えつけていく。
「っぐぅ!」
「お前は本当に可愛げがない……白髪は盲目的だからいいが。今、私が話しているのに邪魔をするな」
「我々を、助けるつもりならば、素直に助け……う、うぅ……」
白髪の男がむせながら訴えるが、その訴えは黙殺される。
魔族は転がっているヤツらよりも、俺とレイヴンに興味があるらしい。
俺はさっさと尋問したいってのによ。
「俺はソイツをぶちのめす理由があるんだよなァ。さっさとコッチによこせよ」
「それは聞けない。大人しく誘いを受けて欲しいのだが。その方が面白い」
後から現れた癖に仕切りやがって。
ここで一発かましてやっても構わねぇんだけどな。
俺と魔族との空気はピリつき、一触即発の様相を呈してきた。
レイヴンが不安そうに俺を見上げてくる。
「このような狭苦しいところでやり合うのは、お互いやりづらいのではないか? お前は見たところ派手な魔法が好きそうだ」
「……当たってる」
「おい、そこに反応している場合じゃねぇだろ」
今、素直に言わなくたっていいのに俺の可愛い弟子ときたら。
魔族は素直な感想を漏らしたレイヴンに気を良くしたらしく、クツクツと愉快そうに笑う。
「怖がっていたかと思えば。不思議なものだ。その人間の傍にいるのは安心か?」
「……」
「心配しなくとも、この場で暴れる気は無い。ただ、興味が湧いただけだ。そうだな……お前たちがこの話に乗るのならば、この人間たちが好き勝手しないよう、誓いをたててもいい」
魔族の意外な提案に、眉がピクリと跳ねた。
危ない輩の提案なんぞ、裏があるにきまってるからな。
魔族の言い分に、地べたの二人組は文句を言いたそうな顔で必死にバタついている。
「……チッ。俺がソイツらを断罪できる場が用意されるのなら、考えてやってもいい。後、面倒だから俺らの国の周りでチョロチョロと汚い真似をするのはやめてもらう」
「テオ! そんな、簡単に……」
「別に暇潰しが出来れば構わない。まぁ、この二人にも機会は与えてやらないとな。この魔法使いを打ち倒すことができれば、お前たちにまた技術を提供してやってもいい。これなら構わないだろう?」
魔族が足元に視線を向けると、不満そうだったが白髪の男も渋々頷いて納得したようだ。
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