【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

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第十一章 強気な魔塔主と心配性の弟子

312.静かな夜に<レイヴン視点>

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「珍しく引き下がったな……いつもなら強引に迫ってくるくせに」

 早めにお風呂を済ませて、濡れた髪をタオルで拭きながら窓際へと向かう。
 森の中のせいか普段見ている景色とは違って、窓から見える外の世界は静寂と暗闇に包まれている。
 魔塔のテラスからの展望は、空が近く感じるし遠目にポツポツと城下町の明かりも見えていた。
 曇っているせいなのか結界が張られているから見えないのか、いつもなら近くに感じる月明かりも今日は見ることができない。

「そういえば、ここに座れるんだったな」

 円形の窓には腰掛けられるような縁があって、寄りかかりながら窓の側で考え事もできそうな気がする。
 不安なことだらけだし、俺ができることを考えてまとめてみよう。
 前に父さんが自室の窓際で腰かけて祈っていたのを思い出す。
 
 エルフの父さんは、俺が言うのも恥ずかしいけれど厳かな雰囲気で綺麗だ。
 レクシェルさんも勿論綺麗だけど、可愛らしさと活発さがある。
 ハーリオンさんは、人間が考えるエルフまんまでカッコイイし。
 
 俺はハーフエルフだから、やっぱり中途半端な気がする。
 黒髪なのも気にしていないし、みんな容姿を褒めてくれるからそれは素直に嬉しいんだけど。
 やっぱり、エルフとは違うなっていうのが少しだけ寂しい。
 
 考えながら窓際へ腰かけて、窓をそっと開けてみる。
 何気なく外を見ると、ポツリと明かりと煙が立ち上っているのが見えた。
 明かりと煙といえば確実に煙草だし、吸う人なんて一人しかありえない。

「……外で吸っていることを褒めるべきなのか、ここでも吸うのかと注意するべきなのか……」

 俺の声を耳聡く聞きつけたのか、明かりの主は窓の側まで近寄ってきた。
 吐き出した煙はこの場の雰囲気と全く似つかわしくないし、迷惑極まりないけどこの人にとって雰囲気なんて関係ないから言うだけ無駄だ。

「お、風呂上がりか? いいねぇ」
「何がいいんですか、何が。テオは……見れば何をしているのかは分かりますけど、まだ休まないんですか?」
「ガキじゃあるまいしそんなに早くから眠くなんてなるかよ。こんなことなら寝酒も頼んでおけば良かったな。こういう雰囲気はやっぱり落ち着かねぇし」

 テオは壁に背を当てて、いつもの人の悪い笑みを浮かべて煙を燻らせて一服しているし。
 あー……大人しく別の部屋に行ってくれたっていうのに、嫌な予感がする。

「早く休めと言ったのはテオもですからね。俺も、もう少ししたらベッドに入りますから」
「だから外で一服して落ち着いてたんだろうが。ま、今日はレイちゃんが添い寝してくれねぇから。なかなか寝付けないかもな」
「またしょうもないことを言って。毎日一緒に寝ている訳じゃないでしょう?」
「冷たいことで。でもどっちかっつーとくっつきたがるのは……」

 意地悪くニィと笑んで顔を寄せてくるので、負けじと睨み返す。
 この先の言葉は言われなくたって分かりきっている。
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