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第十一章 強気な魔塔主と心配性の弟子
310.神殿にてお茶を嗜む
しおりを挟む神殿に足を踏み入れ、廊下を進んでいく。
レクシェルに謁見室ではなく自室にいると聞いたが、今は寛ぎ中ってことか。
俺とレイヴン、レクシェルの三人で謁見室よりも更に奥に続く扉の前までやってきた。
レクシェルが扉を叩くと同時に扉が開かれて、ローブ姿ではないシンプルな白のシャツとパンツを身に着けたクレインが姿を現した。
「あぁ、すまない。少し休んでいたものだから。よく来たな、レイヴン、テオドール」
「お休みのところすみません、お父さん。少し心配なことがあって……」
「へぇー。そういう服も着るのかよ。まぁ、上から被るローブってのは俺も好きじゃねぇし」
俺が指摘したことは意外だったのか、クレインに微笑される。
まあ、洋服なんぞ気にするようには見えねぇよな。
俺らを部屋へと招き、礼をするレクシェルに頷きを返し扉をしめた。
「レイヴンが中に入ったことはすぐに気づいたのだが、精霊と会話をしていてな。このような格好のままで客人を向かい入れることを許して欲しい」
「気にすんなって。俺らも戦闘後にそのまま押しかけてるしな。それより、精霊と話ができるようになったっていうなら、もしかして付近で巻き起こる異変も分かるのか?」
室内にある木製の椅子を勧めてくるから、遠慮なく腰を下ろして足を組む。
クレインはレクシェルと同じようにお茶の準備をし始めた。
エルフも客人が来たら、まずはお茶を淹れる習慣でもあるのか?
支度している姿を見ていると、いつも茶を淹れているレイヴンと重なる。
おかしくなっちまって笑うと、レイヴンが横目で俺を見て眉を潜めた。
「何笑ってるんですか? しかもいい笑い方じゃないほうですし」
「別に。エルフってのはお茶を淹れるのが好きなのかって思ってな。人間ももてなしはするが、必須ではないだろ? 切羽詰まった話をしようとしたら茶なんか飲まねぇし」
「いつも自然にしていたから気づかなかったが、そういうものなのか。レクシェルとも話をしたようだから、その時も茶を振る舞われたということか」
気にした様子もなく、にこやかに慣れた手付きで俺らの前にカップを並べる。
レクシェルのところで飲んだお茶ともまた違い、花びらが浮かんだお茶は甘い香りがして鼻孔を擽る。
「焦らず一旦落ち着くことも大事だと、先程教えていただいたばかりですから。それにしても、とても甘い香りがします」
「これは花の蜜をたっぷりと淹れたお茶で、名を蜜茶という。口に合うと良いが」
「ぁー……俺はそこまで得意でもねぇが。寛ぐには良さそうだ」
見るからに甘そうな香りで、嫌な予感がするんだよな。
行為を無にできねぇし、用心して少しだけ口付けた。
「甘っ!」
予想より甘すぎる。
ここまで甘いと飲むのはキツイ。
カップの中を覗き込むと、確かにトロリとした蜜が見えた。
「テオは甘いのが得意じゃありませんから。俺は好きですよ」
花開くように笑うレイヴンを見てると文句も言えねぇ。
ホント甘いものが好きだよなぁ。
「そうかよ。それは良かったな」
毒気が抜かれちまう。
こうなりゃ、甘すぎる蜜茶をちびちび飲むしかねぇ。
「別に無理して飲むものでもないからな。それで、二人が来た理由は子どもの連れ去りのことだな。こちらでも調べてはいるが、付近には怪しい気配はない」
近くに怪しい気配がないなら、里が直接襲われるってことはなさそうだな。
頷いて、クレインを見遣る。
「精霊でも気づけないような異変であればまた精霊と会話もできなくなってしまうから、この里の近くではないだろう」
「良かった……少し安心しました」
クレインが告げた言葉に、レイヴンがホッとした表情を見せる。
隣で足を組み直し、少々考え込んでから口を開く。
「それなら何よりだ。方角的にコッチの方で魔力の流れがあったから来てみたんだが、召喚陣がこの辺りにまた描かれている形跡は?」
「それはない。以前あったところも念入りに見回っているが、我々の目の届く範囲ではない。ただ、加護が届かない場所では精霊も力を発揮できない」
「加護、ねぇ……届かねぇとしたら、俗に言うアレか」
「あぁ。魔の森。魔族がいるとされる場所だ。魔族も常に多種族と対立して戦争をしたい訳ではないので、我々とも基本は不可侵だが。ヤツらは気まぐれ。約束などあってもないようなものだ」
魔族という言葉にレイヴンの表情が引き締まっていき、カップをテーブルに置くとそのまま俯いて考え込んじまった。
確かに厄介で面倒な連中だからな。
前々から予感はあるが、魔の森まで関係してくるといよいよ魔族の存在の真実味を帯びてくるな。
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