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第十章 たまには真面目な魔塔主といつも真面目な弟子

281.街中で不意打ち

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「……って、い、今。街で……外で。明るくって!」
「そんなに慌てなくても、誰も見てねぇし。というか、見えねぇし」

 そんなに慌てなくっても、さっさと結界を施したからな。
 よく見ればレイヴンにも不可視の膜が見えるはずだ。
 認識妨害は便利だからなぁ。
 俺も通行人に見せびらかすほど暇でもなんでもねぇし、恥ずかしがるレイヴンを眺めるのは俺だけでいいからな。

 突然視界から俺たちが消えたと思われるのも面倒だし、ついでにミラージュで俺らの幻も出しといたから、何も問題はねぇだろ。
 二人で仲睦まじくおしゃべりしてる姿を、カフェの店先に映し出している。
 適当に作り上げた割には良くできてるんじゃねぇか?
 触れようとすると触れねぇから気が付くだろうが、邪魔にならないところでくっちゃべってるだけだし、いちいち触ろうとするヤツなんていねぇだろ。

「またそういうことを……。こういう方向に無駄遣いしないでくださいよ。凄い、偉い、もう天才! ですから!」
「おいおい、雑すぎるなぁー。もうちょっと褒め方ってもんがあるだろが。ま、ココで遊ぶのはこれくらいにしてやるか」

 言って、レイヴンの頬を左の手のひらでひと撫でする。
 空いてる右手で指をパチンと鳴らして、いつものテレポートを発動させた。
 景色はガラリと変わって、俺の自室へと切り替わる。
 
 レイヴンは観念したのか、身につけていたローブとベルトを外して衣紋かけへと丁寧にかけていく。
 装備を全て外して身軽になると、ぽすんとソファーへ腰を落とした。

「なんだ、ケーキをあれだけ食ったくせにもう不機嫌か?」
「不機嫌ではないですけど……そこまで言わせたいかなと思っただけです」
「気になるから聞きたいんだよなァ?」
「大したことないですよ。言うほどでもないし、違うって分かってることですからその……」

 レイヴンが話している間に、俺も適当にローブを脱ぎ捨てる。
 わざわざローブを拾おうとしたレイヴンの手を掴んで、手の甲に唇を押し当てた。
 慌てて見上げたレイヴンに追撃の意味を込めて、じっと見つめながら、ちゅう、と音を立て吸う。
 照れたレイヴンが、かあっと分かりやすく顔を赤くしたのを確認してから、やんわりと手を離して開放する。
 
「そ、そういうこと、よく素でできますよね!」
「別に大したことしてねぇだろ? さっきは唇だったしな。ま、過剰に意識してくれるのは悪くねぇな」

 ニィっと笑ってやると、レイヴンが悔しそうな顔をしてソファーにボスン、と、座り直した。
 床を見ながら、はぁーっと、ため息を吐きだす。
 俺は邪魔な装備もろもろを全て床へ置いて、シャツの胸元にある革紐の結び目を寛げる。
 そのままソファーへと乗り上げて、レイヴンに反論する間も与えずに身体を押し倒した。
 ギシ、という音が耳に届く。

 レイヴンは俺が覆いかぶさると逃げられねぇのを散々思い知らされてるせいか、身動きせずに黒い瞳をじっと向けて、俺を睨みつけてきた。
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