【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

第九章 我慢していた魔塔主と受け入れる弟子

239.久しぶりの休日＜レイヴン視点＞

　結局次の日の朝までテオと一緒に熟睡してしまった。
　元々休暇だったけど、自分に活を入れるためにシャワーを浴びた。
　気分を一新して、楽なシャツとパンツの部屋着に着替えると何とか気合を入れる。

　まずは腹ごなしに何か作ろうと、室内を見回して物色し始めた。
　テーブルの上に転がっているチーズとパン。
　キッチンの棚の中に保存食がいくつかある。

「そうは言っても、後は余っている保存食とチーズくらいか……あ、パンがあった。今はサンドイッチくらいしかできそうにないかな……」
「今買い出し行くのは面倒だな。とりあえずそれで食っとくか。少し休んだら街に行って何とかするか」

　後ろから急に声が聞こえてきたと思ったら、テオが背後からひょいと俺の側で覗き込んでいた。
　机の上に転がしていたパンを手に取って、匂いを嗅いでいる。
　どうやらカビは生えていなさそうだ。

「そうですね。俺も買い出ししないと。また暫くは外出しませんし、溜まっている書類も片付けないといけないし……あんまり休んでもいられませんね」
「どうせ今日は何もする気も起こらねぇし。別に書類なんてほっぽっておけばいいのによ。それより、レイちゃんは体調平気なのか？」
「相変わらず適当なんですから、もう。万全ではないですけど、歩けないほどじゃないです。その……跡とか隠さないとですけど」
「気にし過ぎだと思うがなぁ。まぁ、いいんだけどよ」

　首筋に付けられていたキスマークにチュッと口付けられる。
　びくっと身体が反応してしまって肩が揺れる。
　ガバリと振り返って睨みつけた。

「もう、ワザとでしょう！」
「いいじゃねぇか。公然の事実だし」
「そういう問題じゃないです。俺の気持ちの問題です」
「分かったって。そんなに睨まなくてもいいのによ。じゃ、まぁ適当に腹ごなししたら買い出し行くか」

　俺の機嫌をとるつもりにしては乱暴に頭をグリグリと撫でられる。
　テオも一緒に軽めの朝食の準備を手伝ってくれることになった。
　ナイフを持たせて、パンを切っておけと指示を出す。
　笑いながら珍しく素直に従ってくれて、硬めのパンを齧りつける程度の大きさに切って皿に並べていく。

　ふざけなければなんでもできる癖に、毎回人にやらせるのがイラっとする。

「ホント挟むだけですから適当に。干し肉はそのままの方がいいかな……テオ、豆食べられましたっけ？」
「別に食えるけど、豆ってあんま味しねぇんだよな。そんなのしかねぇのか」
「味付けするにしても、大したものないですし。これ茹でたものの瓶詰めだから、塩、こしょうしてちょっと炒めれば何とかなるかも。塩気が欲しいなら干し肉齧ってください」
「質素だなぁ……まぁ、いいや。チーズもあるしなんとかなるだろ」

　ああでもない、こうでもないと言いながら、何となく出来上がった不格好なサンドイッチたちを二人で摘む。
　淹れたての紅茶と珈琲は二人で過ごす時の定番のもので、日常を感じられる気がする。

　ふわりと香る優しい香りに帰ってきたんだなと実感が湧いて、心がホッと温まる気がした。