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第八章 解こうとした魔塔主と何も知らない弟子とエルフの里の長
206.里長との出会い
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廊下を進んでいくと、突き当たりに大きな扉があった。
ここがいわゆる、謁見室のような部屋みてぇなもんか。
レクシェルが重々しい扉を両手で開くと、中にはさらに美しいブロンドの長髪のエルフがいた。
新緑の色をしたローブに身を包み、うるさくない程度に銀地の模様が描かれたローブは品が良く、頭に被っているティアラが静かな黄金でキラリと光る。
訪問者に挨拶をしようと彼が振り返る。
口を開いて挨拶をしようとした、正にその時――
「え……?」
「ま、まさか……」
里長らしきエルフとレイヴンの視線が交わった時――
レイヴンが固まって動かなくなる。
な――
コイツは……
レイヴンの中で魔力が激しく乱れたのが分かる。
俺が感知すると同時に、苦しそうに身体を折り曲げたレイヴンがフラっと倒れかけるが、何とか踏みとどまる。
それだけではなく呼吸も乱し、急にこめかみの辺りを押さえ込んで痛みに耐えようとしているが、身体はフラフラと揺れ始める。
「…ぅ、う…っく!? な、何が……」
「おい、レイヴン!」
急ぎレイヴンを支えるが、レイヴンは頭を抱えて息を乱したまま動けなくなってしまった。
マズイな。
何か大きな力がレイヴンの中で渦巻いているのを感じる。
俺が前に外そうと試みていたモノが解けかけているに違いない。
チッ。
まさかこんなところで。
レイヴンの過去に確実に関係あるモノが――
ディーが俺に目配せしてくる。
話を進めろと顎をしゃくると、ディーはレイヴンに駆け寄ろうとしていた身体を抑えて、代表としての役目を先に果たそうと正面に向き直る。
「レイヴン……レイヴンと、言ったのか?」
「そうだが……貴方が里長で間違いないのだな?」
何故か顔色を変えて動揺しているらしい里長に話しかけるが、里長の方もレイヴンを見ていてどうも様子がおかしい。
このエルフ、レイヴンの何なんだ?
俺が解こうとしても解けなかったのは、人語で形成されているモノではなかったからだ。
しかも、無理やり強行すればレイヴンにどんな負荷がかかるか分からねぇ。
だからこそ、こっそり慎重に事を進めていたってのに。
まさか、こんなところで暴走するとは俺にとっても予想外だ。
だが、間違いねぇ。
かけたのは、この里長と呼ばれたエルフだという確信がある。
レイヴンと目を合わせた瞬間ってのはどう考えても出来すぎだ。
「……アンタだろう? レイヴンに記憶封印かけたのは。俺も解こうと思ったが、かなり厄介な代物だったから、無理するとレイヴン自体を壊しちまうと思って諦めてたが。だが、この感じ。アンタを見たら勝手に外れそうになったとしか思えねぇ」
「……詳しいことは後で話す。客人よ、こちらに。このままだと記憶が暴走しかねないから、一旦抑える」
里長がローブを翻し、横にある扉を開いて皆を誘導する。
レクシェルも何事かと不安そうにコッチを見ているが、大人しく共に着いてくる。
「こちらは里長の居住空間ですが……」
「今はそんなことを言っている場合ではない。彼のことが先決だ。さあ、この部屋に」
身動き取れないレイヴンを抱き抱えて室内に入ると、奥にあるベッドにレイヴンを寝かせる。
苦しんでいるレイヴンの額に里長が手を当てると、人間には聞き取れない言葉を紡いでいく。
淡い光がほんのりと輝くと、苦しがっていたレイヴンが落ち着きを取り戻しそのまま気を失ってしまった。
「……それで、どういうことか説明はしてもらえるのだろうか」
「……説明はするが、客人の中で彼と親しい者だけに伝えてもいいだろうか。私も正直、動揺していて、上手く話せるかどうか自信がない」
ディーにも歯切れに悪い言葉しか返さない里長に、ディーは苦々しげに顔をしかめるが、ウルガーが肩に手を置いて緩く首を振った。
「気持ちは分かりますが、事情を察していそうなテオドール様にお任せするのが一番いいと思います。俺たちはレイヴンが話してくれることになったら聞きましょう?」
「……分かった。テオドール、頼んだぞ」
頷くと里長と俺を残して皆、室内から出ていった。
勝手に椅子を引っ張ってきてレイヴンの側に陣取り、足を組んでエルフの里長を睨みつける。
ここがいわゆる、謁見室のような部屋みてぇなもんか。
レクシェルが重々しい扉を両手で開くと、中にはさらに美しいブロンドの長髪のエルフがいた。
新緑の色をしたローブに身を包み、うるさくない程度に銀地の模様が描かれたローブは品が良く、頭に被っているティアラが静かな黄金でキラリと光る。
訪問者に挨拶をしようと彼が振り返る。
口を開いて挨拶をしようとした、正にその時――
「え……?」
「ま、まさか……」
里長らしきエルフとレイヴンの視線が交わった時――
レイヴンが固まって動かなくなる。
な――
コイツは……
レイヴンの中で魔力が激しく乱れたのが分かる。
俺が感知すると同時に、苦しそうに身体を折り曲げたレイヴンがフラっと倒れかけるが、何とか踏みとどまる。
それだけではなく呼吸も乱し、急にこめかみの辺りを押さえ込んで痛みに耐えようとしているが、身体はフラフラと揺れ始める。
「…ぅ、う…っく!? な、何が……」
「おい、レイヴン!」
急ぎレイヴンを支えるが、レイヴンは頭を抱えて息を乱したまま動けなくなってしまった。
マズイな。
何か大きな力がレイヴンの中で渦巻いているのを感じる。
俺が前に外そうと試みていたモノが解けかけているに違いない。
チッ。
まさかこんなところで。
レイヴンの過去に確実に関係あるモノが――
ディーが俺に目配せしてくる。
話を進めろと顎をしゃくると、ディーはレイヴンに駆け寄ろうとしていた身体を抑えて、代表としての役目を先に果たそうと正面に向き直る。
「レイヴン……レイヴンと、言ったのか?」
「そうだが……貴方が里長で間違いないのだな?」
何故か顔色を変えて動揺しているらしい里長に話しかけるが、里長の方もレイヴンを見ていてどうも様子がおかしい。
このエルフ、レイヴンの何なんだ?
俺が解こうとしても解けなかったのは、人語で形成されているモノではなかったからだ。
しかも、無理やり強行すればレイヴンにどんな負荷がかかるか分からねぇ。
だからこそ、こっそり慎重に事を進めていたってのに。
まさか、こんなところで暴走するとは俺にとっても予想外だ。
だが、間違いねぇ。
かけたのは、この里長と呼ばれたエルフだという確信がある。
レイヴンと目を合わせた瞬間ってのはどう考えても出来すぎだ。
「……アンタだろう? レイヴンに記憶封印かけたのは。俺も解こうと思ったが、かなり厄介な代物だったから、無理するとレイヴン自体を壊しちまうと思って諦めてたが。だが、この感じ。アンタを見たら勝手に外れそうになったとしか思えねぇ」
「……詳しいことは後で話す。客人よ、こちらに。このままだと記憶が暴走しかねないから、一旦抑える」
里長がローブを翻し、横にある扉を開いて皆を誘導する。
レクシェルも何事かと不安そうにコッチを見ているが、大人しく共に着いてくる。
「こちらは里長の居住空間ですが……」
「今はそんなことを言っている場合ではない。彼のことが先決だ。さあ、この部屋に」
身動き取れないレイヴンを抱き抱えて室内に入ると、奥にあるベッドにレイヴンを寝かせる。
苦しんでいるレイヴンの額に里長が手を当てると、人間には聞き取れない言葉を紡いでいく。
淡い光がほんのりと輝くと、苦しがっていたレイヴンが落ち着きを取り戻しそのまま気を失ってしまった。
「……それで、どういうことか説明はしてもらえるのだろうか」
「……説明はするが、客人の中で彼と親しい者だけに伝えてもいいだろうか。私も正直、動揺していて、上手く話せるかどうか自信がない」
ディーにも歯切れに悪い言葉しか返さない里長に、ディーは苦々しげに顔をしかめるが、ウルガーが肩に手を置いて緩く首を振った。
「気持ちは分かりますが、事情を察していそうなテオドール様にお任せするのが一番いいと思います。俺たちはレイヴンが話してくれることになったら聞きましょう?」
「……分かった。テオドール、頼んだぞ」
頷くと里長と俺を残して皆、室内から出ていった。
勝手に椅子を引っ張ってきてレイヴンの側に陣取り、足を組んでエルフの里長を睨みつける。
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