【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

文字の大きさ
上 下
209 / 483
第八章 解こうとした魔塔主と何も知らない弟子とエルフの里の長

206.里長との出会い

しおりを挟む
 廊下を進んでいくと、突き当たりに大きな扉があった。
 ここがいわゆる、謁見室のような部屋みてぇなもんか。

 レクシェルが重々しい扉を両手で開くと、中にはさらに美しいブロンドの長髪のエルフがいた。
 新緑の色をしたローブに身を包み、うるさくない程度に銀地の模様が描かれたローブは品が良く、頭に被っているティアラが静かな黄金でキラリと光る。

 訪問者に挨拶をしようと彼が振り返る。
 口を開いて挨拶をしようとした、正にその時――

「え……?」
「ま、まさか……」

 里長らしきエルフとレイヴンの視線が交わった時――
 レイヴンが固まって動かなくなる。

 な――
 コイツは……

 レイヴンの中で魔力マナが激しく乱れたのが分かる。
 俺が感知すると同時に、苦しそうに身体を折り曲げたレイヴンがフラっと倒れかけるが、何とか踏みとどまる。

 それだけではなく呼吸も乱し、急にこめかみの辺りを押さえ込んで痛みに耐えようとしているが、身体はフラフラと揺れ始める。

「…ぅ、う…っく!? な、何が……」
「おい、レイヴン!」

 急ぎレイヴンを支えるが、レイヴンは頭を抱えて息を乱したまま動けなくなってしまった。

 マズイな。
 何か大きな力がレイヴンの中で渦巻いているのを感じる。
 俺が前に外そうと試みていたモノが解けかけているに違いない。

 チッ。
 まさかこんなところで。
 レイヴンの過去に確実に関係あるモノが――

 ディーが俺に目配せしてくる。
 話を進めろと顎をしゃくると、ディーはレイヴンに駆け寄ろうとしていた身体を抑えて、代表としての役目を先に果たそうと正面に向き直る。

「レイヴン……レイヴンと、言ったのか?」
「そうだが……貴方が里長で間違いないのだな?」

 何故か顔色を変えて動揺しているらしい里長に話しかけるが、里長の方もレイヴンを見ていてどうも様子がおかしい。

 このエルフ、レイヴンの何なんだ?
 俺が解こうとしても解けなかったのは、人語で形成されているモノではなかったからだ。

 しかも、無理やり強行すればレイヴンにどんな負荷がかかるか分からねぇ。
 だからこそ、こっそり慎重に事を進めていたってのに。

 まさか、こんなところで暴走するとは俺にとっても予想外だ。
 だが、間違いねぇ。
 
 かけたのは、この里長と呼ばれたエルフだという確信がある。
 レイヴンと目を合わせた瞬間ってのはどう考えても出来すぎだ。

「……アンタだろう? レイヴンに記憶封印メモリーシールかけたのは。俺も解こうと思ったが、かなり厄介な代物だったから、無理するとレイヴン自体を壊しちまうと思って諦めてたが。だが、この感じ。アンタを見たら勝手に外れそうになったとしか思えねぇ」
「……詳しいことは後で話す。客人よ、こちらに。このままだと記憶が暴走しかねないから、一旦抑える」

 里長がローブを翻し、横にある扉を開いて皆を誘導する。
 レクシェルも何事かと不安そうにコッチを見ているが、大人しく共に着いてくる。

「こちらは里長の居住空間ですが……」
「今はそんなことを言っている場合ではない。彼のことが先決だ。さあ、この部屋に」

 身動き取れないレイヴンを抱き抱えて室内に入ると、奥にあるベッドにレイヴンを寝かせる。
 苦しんでいるレイヴンの額に里長が手を当てると、人間には聞き取れない言葉を紡いでいく。
 淡い光がほんのりと輝くと、苦しがっていたレイヴンが落ち着きを取り戻しそのまま気を失ってしまった。

「……それで、どういうことか説明はしてもらえるのだろうか」
「……説明はするが、客人の中で彼と親しい者だけに伝えてもいいだろうか。私も正直、動揺していて、上手く話せるかどうか自信がない」

 ディーにも歯切れに悪い言葉しか返さない里長に、ディーは苦々しげに顔をしかめるが、ウルガーが肩に手を置いて緩く首を振った。

「気持ちは分かりますが、事情を察していそうなテオドール様にお任せするのが一番いいと思います。俺たちはレイヴンが話してくれることになったら聞きましょう?」
「……分かった。テオドール、頼んだぞ」

頷くと里長と俺を残して皆、室内から出ていった。
勝手に椅子を引っ張ってきてレイヴンの側に陣取り、足を組んでエルフの里長を睨みつける。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...