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第七章 エルフにも動じない魔塔主とたじろぐ弟子(と騎士二人)
197.日常への願いとエルフたちの焦燥
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「テオ、ブレスレット、当たってるから……」
「ん? あぁ。そうか、手繋いだからか」
「もう、大丈夫ですから。離しても」
このくらいのことで照れるレイヴンに笑いながら素直に手を離そうとしたが、レイヴンの方が最後にキュッと握り込んでから名残惜しげに離す。
「別に誰も何とも思わねぇよ、これくらいで」
「思いますって。でも……今回はテオと一緒だから。安心してます」
照れながら嬉しそうに微笑したレイヴンを見ていると、その場で色々したくなる。
緊迫してようが関係ねぇ。
レイヴンに触れて、溶け合って、腕の中に閉じ込めて。
後は一日怠惰に過ごす。
それだけで構わねぇんだがな。
いつものように頭にポンと手を置いて何とか自分を押し留める。
+++
暫く歩みを進めているとレクシェルの言葉通り、何か違和感を感じる場所に辿り着く。
見た目では分かりづらいが、肌に感じる違和感は空間魔法を展開した時と同じようなものを感じる。
それは魔法使いではなくても、気持ち悪いという感覚で共有できるものだった。
エルフさんはこういう魔法は得意そうだからな。
器用さで言えば人間より上かもしれねぇし。
「一つ目の歪みを抜けます。皆さん、気をつけて」
数歩先を進んでいるハーリオンの背中を見ながら、景色は森の中のままの空間を抜けていく。
ディーとウルガーは、なんとも言えない感覚にやはり気持ち悪さを覚えているせいか案の定、眉間に皺を寄せている。
俺とレイヴンは魔法の感覚には慣れてるし、違和感だとは思うががそこまで気持ち悪さは感じずに普通に抜けてしまう。
この辺りは慣れもあるから仕方ねぇな。
違和感にすら気づかないのがそもそも普通だしな。
気づけるっていうヤツは魔法の才能があるか、感覚が鋭敏なヤツか、そんなところだろ。
「……おかしい。もうこの辺りでも奴らがいていいはずだ。なぜ、なぜ何もいない?」
ハーリオンが歪みを抜けきったところで森を見回す。
この辺りでは生き物の気配が感じられない。
乱暴に草木を掻き分けようと、何者も現れる気配がないな。
焦ったエルフがさらに奥へと小走りで進んでいく。
「もう、二つ目まで攻められているのかもしれない。急ぎましょう」
同じく焦っていそうなレクシェルが、何とか冷静な声色で皆を次の地点へと案内しようと早足で歩き始めた。
さらに奥深く、似たような森を抜けていくとエルフたちの言うに二つ目の歪みの付近にやってくる。
すると――何か焦げたような、腐ったような臭いが鼻をツンと刺激する。
「何だ、この臭い……あんまり良い予感はしないけど、団長どう思います?」
「争った後の臭い。これは……血の臭いも混ざっているようだ」
一層厳しい表情になったディーが、伸びる枝を掻き分け道を作っていく。
その後でウルガーが後方及び前方に注意を向けて気配を探り、身体を回して左右から飛び出してくるかもしれない敵襲に備える。
俺も身構えると、レイヴンも同じく戦闘態勢に切り替わる。
「ん? あぁ。そうか、手繋いだからか」
「もう、大丈夫ですから。離しても」
このくらいのことで照れるレイヴンに笑いながら素直に手を離そうとしたが、レイヴンの方が最後にキュッと握り込んでから名残惜しげに離す。
「別に誰も何とも思わねぇよ、これくらいで」
「思いますって。でも……今回はテオと一緒だから。安心してます」
照れながら嬉しそうに微笑したレイヴンを見ていると、その場で色々したくなる。
緊迫してようが関係ねぇ。
レイヴンに触れて、溶け合って、腕の中に閉じ込めて。
後は一日怠惰に過ごす。
それだけで構わねぇんだがな。
いつものように頭にポンと手を置いて何とか自分を押し留める。
+++
暫く歩みを進めているとレクシェルの言葉通り、何か違和感を感じる場所に辿り着く。
見た目では分かりづらいが、肌に感じる違和感は空間魔法を展開した時と同じようなものを感じる。
それは魔法使いではなくても、気持ち悪いという感覚で共有できるものだった。
エルフさんはこういう魔法は得意そうだからな。
器用さで言えば人間より上かもしれねぇし。
「一つ目の歪みを抜けます。皆さん、気をつけて」
数歩先を進んでいるハーリオンの背中を見ながら、景色は森の中のままの空間を抜けていく。
ディーとウルガーは、なんとも言えない感覚にやはり気持ち悪さを覚えているせいか案の定、眉間に皺を寄せている。
俺とレイヴンは魔法の感覚には慣れてるし、違和感だとは思うががそこまで気持ち悪さは感じずに普通に抜けてしまう。
この辺りは慣れもあるから仕方ねぇな。
違和感にすら気づかないのがそもそも普通だしな。
気づけるっていうヤツは魔法の才能があるか、感覚が鋭敏なヤツか、そんなところだろ。
「……おかしい。もうこの辺りでも奴らがいていいはずだ。なぜ、なぜ何もいない?」
ハーリオンが歪みを抜けきったところで森を見回す。
この辺りでは生き物の気配が感じられない。
乱暴に草木を掻き分けようと、何者も現れる気配がないな。
焦ったエルフがさらに奥へと小走りで進んでいく。
「もう、二つ目まで攻められているのかもしれない。急ぎましょう」
同じく焦っていそうなレクシェルが、何とか冷静な声色で皆を次の地点へと案内しようと早足で歩き始めた。
さらに奥深く、似たような森を抜けていくとエルフたちの言うに二つ目の歪みの付近にやってくる。
すると――何か焦げたような、腐ったような臭いが鼻をツンと刺激する。
「何だ、この臭い……あんまり良い予感はしないけど、団長どう思います?」
「争った後の臭い。これは……血の臭いも混ざっているようだ」
一層厳しい表情になったディーが、伸びる枝を掻き分け道を作っていく。
その後でウルガーが後方及び前方に注意を向けて気配を探り、身体を回して左右から飛び出してくるかもしれない敵襲に備える。
俺も身構えると、レイヴンも同じく戦闘態勢に切り替わる。
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