【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

第六章 我が道を行く魔塔主と献身的に支える弟子（と騎士二人）

181.納得できない魔塔主と悟り顔の騎士団長＜テオドール・レイヴン視点＞

　なーんか面白くねぇな。
　なんでディーは笑顔で褒め称えてるんだよ。
　俺も昨日きっちりやってやったってのに。

　頭を掻きながら立ち上がった俺は口に煙草を咥えて火を付ける。

「お前は……そういうところがレイヴンに嫌われているんじゃないのか？」
「余計なお世話だ。俺には文句で、なんでディーのことはべた褒めなんだよ。俺も昨日は格好良かったはずなのによ」
「その年で何を言ってるんだ、お前は。そのふざけた態度をどうにかすればいいだけだろうが。それでも、お前たちが仲が良いことは理解した。テオ、レイヴンを悲しませるなよ？」
「はぁ？　説教だけじゃなくて、お前こそ何を言い出してんだよ。そりゃあ、レイヴンと俺は仲良しに決まってるが、その気持ち悪い顔をやめろ。煙草が不味くなる」

　微笑ましげな笑みを湛えた爽やかな表情のディーに余計に腹が立ってきた。
　なんなんだよ、一体。

　急に気持ち悪ぃことを言いやがって。
　俺とレイヴンの何を知ってるってんだか。

　時々悟ったみたいな顔しやがるのは昔からいけ好かねぇんだよな。
　頭の中まで筋肉な癖して、分かってますみたいな態度取ってくんのは何のつもりなんだか。

　ワザと思い切り苦虫を噛み潰したような顔を向けて煙草の煙を吹きかけてやる。
　ゲホゲホと咽るディーが説教の嵐を巻き起こす中、どこ吹く風と離れていくレイヴンの背中を視線で追う。

　いくら安全とはいえ、レイちゃんは何に巻き込まれるか分かんねぇからな。
　もう少ししたら様子を見に行くか。

　+++

　川で顔を洗おうとしたところで道の先に綺麗な泉を見つけ、なんの気なしに近づいていく。
　足跡もないし、誰も踏み込んだ様子もなさそうだ。

「何かキラキラしていて綺麗な泉だ。森の奥にこんなところがあるなんて」

　朝日が差し込んだ泉は光が反射して水面がキラキラと輝いていて、静寂に包まれたこの場所はどこか神秘的だ。

「……どうせなら、水浴びしていこうかな」

　捜索サーチで念の為に周囲を探り安全なことを確認すると、身に着けていたものを順に脱いでいく。
　全て脱ぎさってしまうと、岩の上に一式をまとめて置いてそっと泉の中へと足を踏み入れた。

　少々冷たいが、透明度も高く水浴びには適している水質のようだ。

　ゆっくりと丁寧に身体を水で流していると、ガサ、と小さな物音が耳に届く。
　身構えて音の方へと視線を流すと、近づいてくる人影が遠目に見えた。

　急いであがろうと一歩を踏み出した瞬間――

「――捕まえた」

　気づいた時には抱きすくめられて、唇を塞がれていた。