【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

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第五章 漸くモノにした魔塔主と少し素直になれた弟子

143.ちょっとした身の上話

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「テオの子どもの頃ってどんな感じだったんですか? やっぱり、貴族だから勉強とか大変だったとか?」
「ガキの頃から叩き込まれるもんだからな。教養全般は。一日中何かしら教え込まれてたんじゃねぇか? 俺は大体サボってたがな」
「子どもの頃からテオはテオだったんですか……。でも、確か弟さんがいるんですよね?」
「魔塔に行った俺の代わりに家を継いで当主になってるからな。アイツはお前以上に真面目すぎるヤツだから、今も眉間にシワ寄せて書類と向き合ってんだろうな」

 素っ気なく話をしてるつもりだが、どうしても苦い表情が多少でちまうらしい。
 普段とは少し違う表情に気付いたレイヴンも一旦言葉を止める。

 気にすることは全くないし、こんなのはよくある話だ。
 レイヴンの頭にポンと手を乗せる。

「縁は切ったようなもんでも、血は繋がってるからなぁ。弟は弟だ。アイツは俺のこと恨んでると思うがな。兄弟として最後に会話した時も喧嘩別れみたいなもんだったな」
「そう、ですか。俺には計り知れない複雑な事情があるんでしょうね。でもテオは子どもの頃から魔法の才能もあっただろうから、魔塔は目を付けていたんでしょうけど」
「まぁな。俺も今じゃ魔塔主だし、バダンテール家の力を示したっつう意味では他の家を出し抜いたってとこだな。俺について回る二つ名がどう影響しているかまでは知らねぇけど」
「あぁ……傍若無人なオーガとか、魔塔のオーガキングとか?」
「なんでオーガ限定なんだよ。ったく、好きだなその例え。何にしても、誰にも文句は言わせねぇけどな」

 ニィといつものように笑むと、そんなに貴族とは思えないかぁ?
 レイヴンはやたらと神妙な顔して聞いてるが、まぁ貴族なんてそんなもんだろ。

「俺もそちらの分野は未知の世界なので分からないですが、弟さんはきっと苦労なさっているのでしょうね」
「この国のお貴族様の相手をまともな方法でするのはな。貴族なんてもんは食うか食われるかだ。正しくあろうとすればするほど、自身がすり減っていく。そういうとこだ。俺はそういう面倒事を弟に押し付けた兄貴だから、アイツに恨まれるのは当然だろ?」
「俺は普通の家族も貴族の家族も分からないですけど、みんな仲良くできたらいいですよね。そういう家族に憧れていますから。でも、弟さんの気持ちは少しだけ分かります」
「まぁ、レイも振り回されてるもんなァ?」

 そういや家族の話をしたことはなかったか。
 レイヴンは色々また余計なことを色々と考えてるみたいだが、表情をコロコロと変化させるレイヴンを間近で見ているのは満更でもねぇな。
 レイヴンを宥めるように、なるべく頭を優しく撫でる。

「だから、考え過ぎだって。こういう性格だと知ってるのはお前だけじゃねぇんだからよ。アイツはアイツなりに割り切ってるんだよ。前に会った時は貴族式のバカ丁寧な挨拶されたからな。魔塔主様にご挨拶申し上げます、みたいな。まぁ、適当に相手してやったが」
「……弟さんまで邪険に扱わないでくださいね」
「信用ねぇなぁー。こんなに立派な兄貴なのに?」
「言ってることが適当すぎなんですよ。でも……ご家族の話を聞けて嬉しかったです。俺はお会いしたことはありませんが、いつかお会いする機会があれば俺もきちんとご挨拶できればいいんですけど……」

 レイヴンの挨拶を想像したら、ぶっ!と声が出るほどに吹き出しちまった。
 その勢いで笑いながらレイヴンを抱き込む。

「ちょっと!」

 急な体勢に文句を言ってくるが、やんわりと抱き込んでいるせいでジタバタしづらそうだ。
 俺としちゃこのままで構わないんだがな。

「なんだ? 婚約の挨拶でもするつもりか?」
「違いますよ! お世話になってます、の挨拶ですよ! 何で結婚するみたいな流れで言ってるんですか」
「いやぁー。何か場面を想像したらレイちゃんが可愛いなぁって思って我慢できなかったわ。悪ぃ悪ぃ」

 ポンポンとあやすように背中を叩く。
 さらに文句が言いづらそうな顔をしたレイヴンは大人しく抱き込まれたまま、暫く胸元に顔を預けて大人しくなった。
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