【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

第五章 漸くモノにした魔塔主と少し素直になれた弟子

139.笑っている顔が見たい

「師匠……？」
「そうじゃねぇんだって。ツンツンしても構わねぇから、もっと素のレイが見たいんだよ。もっと言えば、できれば笑顔がいい。年相応に笑ってるレイが見たい」
「そ、そんなこと言われても……そんなに、俺。師匠に冷たくしてます？」
「素っ気ねぇ。甘えてくんのはいつもシテる時ばっかだし？　いつも周りの目ばっかり気にして、俺を見てねぇ」
「……その例えが恥ずかしいのでやめてください。それにどちらかと言うと一番一緒にいるはずなんですけど」

　レイヴンは恥ずかしくて身じろいで、言葉が上手く出てこないみたいだったが、俺の子どもじみた態度を鑑みて色々思案したのか、俺が顔を上げると自然と笑っていた。

「俺だけじゃなくて、テオだったら皆さんも何を言っても許してくれるって思っているから、邪険にしちゃうんですよ。それも好かれてる証拠じゃないですか」
「それは別に気にしてねぇけどよ。レイはどうなんだよ。そんなに俺に笑いかけるのが嫌か？　そこまで俺はろくでなしだとでも言いたいのか？」

　俺と目線が合うと、困った表情を返してくる。
　どうしてそんなに困るんだよ。
　いくら俺が適当だからって、お前のことは適当にしてるつもりはねぇのに。

「それは……」

　レイヴンの言葉がまた出てこなくなる。
　やっぱり、素で俺に接するのは無理なのか？
　他のヤツらにはあんなに可愛く笑える癖に、俺の前だと笑うことも遠慮するのか？

　そんなに意固地になるほど、俺とレイヴンの前には壁があると思いたくねぇんだが。
　俺は素直に笑って、素直に甘えてくるレイを側で見たいんだよ。

　伝わらねぇか？　コレも？
　
　いつも真面目じゃなくていい。
　ツンツンしてくるのもいいが、お前の笑顔も本当は独り占めしたい。
　
　そんなことは不可能だろうが、せめて俺の前でも普通に笑って欲しいってのに。
　アイツらに向けられるなら、俺にも向けられるはずだろ？

　ああ、クソ。
　こんな格好悪いことグダグダ考えてる時点で、悪酔いしてんだよ。
　
　自問自答している間に、レイヴンが困り顔でボソボソと訴えてくる。

「テオはどっちかって言うと、ろくでな……じゃなくて。そういう訳じゃありませんけど……無理ですよ、そんな急に言われても。この状況ですら恥ずかしいのに。無茶言わないでください。演技ならともかく……」
「じゃあ、演技でも今日は許してやるから。もうちょっと素直で可愛いレイを頼む」
「……ビールで頭がやられてるとしか思えないですけど、このままだと周囲に被害が出そうなのでやってみます」

　レイヴンが自分に暗示をかけるように、素直、素直、と何度も唱えると。
　俺をそっと見上げた。