141 / 483
第五章 漸くモノにした魔塔主と少し素直になれた弟子
138.格好悪い本音
しおりを挟む
「そんなのただの八つ当たりじゃないですか! 俺も文句は言ってますし、師匠にはきちんとして欲しいって言ってますけど……俺が何をしたと? 街の人たちと話すのがそんなに気に食わないんですか?」
「無自覚たらしだって言ってんだよ。しょうがねぇだろ、側で見てるとイライラすんだよ」
「普通に話すだけでイライラされても困るんですけど。俺、そこまで師匠を束縛している覚えはありませんし。俺が言ったって聞かないじゃないですか。なのに、俺にはどうしてこんなことをするんですか!」
「俺も目くじら立てるのは小せぇって分かってるよ。だけどなぁ、お前俺の前であんまり笑わねぇし、優しい声色で喋りもしねぇし。なのに、外では愛想良く振る舞いやがって。可愛くねぇ」
この前はあんなに可愛かったのに。
アレが嘘みたいな気がしてくる。
やっぱりコイツは俺のことは面倒な師匠くらいにしか思っていないし、俺のことを男として見ていない。
レイヴンの本当の心が見えなくなったような、妙な気分だ。
考えがまとまらないのは、酔いが回ってるせいもあるかもしれない。
子どものような理屈を並べ立てる俺にレイヴンも最初は怒っていたものの、暫くすると静かになる。
もう一度長く息を吐いて俺を見上げてきた。
「俺のことをいつも子ども扱いする癖に……これじゃあ駄々をこねる子どもと一緒ですよ。分かりましたから、離してください。逃げませんから。師匠の力強いから、痛いんです」
「……悪かった。大人気ねぇし、くだらねぇよな」
ホント、何してんだか。
こんな子どもみてぇな独占欲を出すほど余裕がなかったか?
自分で自分に呆れちまうな。
レイヴンの宥めるような声色につまらないことでムキになっていた心が少し落ち着いてくる。
素直に手を離してレイヴンを開放した。
「……防音はこのままにしておいてください。誰かに聞かれると恥ずかしいから」
レイヴンはそう言うと苦笑する。
怒られ待ちのガキみてぇな顔、してんだろうな。
ダサすぎてやってられねぇ。
俺が落ち着くのを待って、静かに話し出す。
「俺もその、師匠にキツくあたってしまうのは憧れの人の理想を押し付けているのかもしれません。でも、師匠のことを他の人たちに誤解されるのは困るので……。人としてダメなところが多くても、師匠は凄い人ですから。その、小煩く言ってしまうのは性分もあるみたいなのでそれは許してください。補佐官として、そういうこともしなければと思っているので……」
「それは分かってる。俺が言いたいのは――」
俺が言葉を紡ぐ前に遮るように手のひらを向ける。
一旦黙って言葉を切ると、またレイヴンが口を開く。
「俺、嫌われるのが怖いんです。だから、皆の前では愛想良く、イイコでいないとっていつも思ってるんです。でも、師匠は。そんなことをしなくても許してくれるからって、甘えてましたよね。ごめんなさい。やっぱり師匠にも師匠として尊敬の念を込めて接しないと失礼ですよね。すぐには直せないと思いますけど、もう少し丁寧に接しますから……」
そうじゃねぇんだって。
そんなの、分かってんだよ。
そうじゃなくって、俺が欲しいのは――
レイヴンが言い終えるか終えないかの瞬間に、今度は優しく抱き寄せる。
そのまま肩口に顔を埋めて動かずにレイヴンに甘えるように縋る。
「無自覚たらしだって言ってんだよ。しょうがねぇだろ、側で見てるとイライラすんだよ」
「普通に話すだけでイライラされても困るんですけど。俺、そこまで師匠を束縛している覚えはありませんし。俺が言ったって聞かないじゃないですか。なのに、俺にはどうしてこんなことをするんですか!」
「俺も目くじら立てるのは小せぇって分かってるよ。だけどなぁ、お前俺の前であんまり笑わねぇし、優しい声色で喋りもしねぇし。なのに、外では愛想良く振る舞いやがって。可愛くねぇ」
この前はあんなに可愛かったのに。
アレが嘘みたいな気がしてくる。
やっぱりコイツは俺のことは面倒な師匠くらいにしか思っていないし、俺のことを男として見ていない。
レイヴンの本当の心が見えなくなったような、妙な気分だ。
考えがまとまらないのは、酔いが回ってるせいもあるかもしれない。
子どものような理屈を並べ立てる俺にレイヴンも最初は怒っていたものの、暫くすると静かになる。
もう一度長く息を吐いて俺を見上げてきた。
「俺のことをいつも子ども扱いする癖に……これじゃあ駄々をこねる子どもと一緒ですよ。分かりましたから、離してください。逃げませんから。師匠の力強いから、痛いんです」
「……悪かった。大人気ねぇし、くだらねぇよな」
ホント、何してんだか。
こんな子どもみてぇな独占欲を出すほど余裕がなかったか?
自分で自分に呆れちまうな。
レイヴンの宥めるような声色につまらないことでムキになっていた心が少し落ち着いてくる。
素直に手を離してレイヴンを開放した。
「……防音はこのままにしておいてください。誰かに聞かれると恥ずかしいから」
レイヴンはそう言うと苦笑する。
怒られ待ちのガキみてぇな顔、してんだろうな。
ダサすぎてやってられねぇ。
俺が落ち着くのを待って、静かに話し出す。
「俺もその、師匠にキツくあたってしまうのは憧れの人の理想を押し付けているのかもしれません。でも、師匠のことを他の人たちに誤解されるのは困るので……。人としてダメなところが多くても、師匠は凄い人ですから。その、小煩く言ってしまうのは性分もあるみたいなのでそれは許してください。補佐官として、そういうこともしなければと思っているので……」
「それは分かってる。俺が言いたいのは――」
俺が言葉を紡ぐ前に遮るように手のひらを向ける。
一旦黙って言葉を切ると、またレイヴンが口を開く。
「俺、嫌われるのが怖いんです。だから、皆の前では愛想良く、イイコでいないとっていつも思ってるんです。でも、師匠は。そんなことをしなくても許してくれるからって、甘えてましたよね。ごめんなさい。やっぱり師匠にも師匠として尊敬の念を込めて接しないと失礼ですよね。すぐには直せないと思いますけど、もう少し丁寧に接しますから……」
そうじゃねぇんだって。
そんなの、分かってんだよ。
そうじゃなくって、俺が欲しいのは――
レイヴンが言い終えるか終えないかの瞬間に、今度は優しく抱き寄せる。
そのまま肩口に顔を埋めて動かずにレイヴンに甘えるように縋る。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

【完結】元ヤクザの俺が推しの家政夫になってしまった件
深淵歩く猫
BL
元ヤクザの黛 慎矢(まゆずみ しんや)はハウスキーパーとして働く36歳。
ある日黛が務める家政婦事務所に、とある芸能事務所から依頼が来たのだが――
その内容がとても信じられないもので…
bloveさんにも投稿しております。
完結しました。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
俺は魔法使いの息子らしい。
高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。
ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。
「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」
と、親友の父から衝撃の告白。
なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。
母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。
「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」
と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。
でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。
同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。
「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」
「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」
腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡
※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
暁にもう一度
伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。
ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。
ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。
けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。
『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる