【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

文字の大きさ
上 下
57 / 483
第三章 再確認する魔塔主と距離が近づく弟子

56.聞けなかった報告

しおりを挟む
 自室のテラスに着地して、何か言いたげなレイヴンの腕を引っ張って中へと引っ張り込む。
 問答無用でベッドに座らせて、俺も隣に座る。

「ここ、師匠の部屋じゃないですか! 執務室じゃないんですか? それに何でベッドに……」
「どこだろうと一緒だろ? ほら、討伐の経緯を説明しろ。お前が倒れてたから、俺は詳細を何も聞いてないんだからよ」
「それはそうですけど……って。そんなにジロジロ見ないでもらっていいですか?」
「いいから、早く話せ」

 俺が顎で話を促すと、レイヴンも仕方なく、という雰囲気を出して報告を始めた。

 魔物を殲滅したはずなのに、何処からかブラックウルフの子どもたちが現れて対処が遅れてしまった。
 そこで受けた怪我が元でレイヴンは倒れてしまったと。

 どこの誰だか知らねぇが……ただじゃおかねぇ。

 その想いは心の奥底に沈めておく。
 今はレイヴンに触れたくてしょうがねぇからな。

 で、ソイツが現れる前に犬笛のような音が聞こえたらしい。

「……以上の事から、裏に何者かの介入の可能性がありそれが魔物使いであることが推測されますが、師匠はどうお考えですか?」
「犬笛ねぇ……。まぁ、魔物使いなら指示出しに使いそうだよなァ。それで、飼いならされた魔物だっていうことか。しかし、わざわざご丁寧に牙に毒を仕込んだってのがな」

 神殿でも吸わなかったせいか手持ち無沙汰だな。
 ベッドサイドに転がしてある煙草を手に取って火を付けた。

 そういや禁煙しろとか言ってたか。
 レイヴンが嫌そうに顔を顰めてんな。
 まぁ、我慢しねぇと決めたから好き勝手するんだがなァ?

「あの場で魔物の牙が触れたのは俺だけですし、しかもその場で発症するタイプではなく、遅効性だったということですよね? そもそも1日魔力マナの回復の為に休んでましたし」
「まぁ……回復ヒールのせいで毒の成分が身体中に早く回っちまった可能性もあるがな。本来はもう暫く普通に過ごしていて、怪我したことを忘れた頃に突然発症するタイプかも知れねぇし」
「それは、魔獣討伐に選ばれた人間を狙ってということでしょうか?」
「どうだろうな? だが、魔物使いが誰かに雇われてやってたんだって言うなら、辻褄が合うかもな」

 煙を燻らせながら暫し思案し、天井に立ち昇る煙を何気なく目で追う。
 煙草の香りが部屋に満ちていくと、レイヴンが嫌そうに手で煙を払いながら報告を続ける。

「誰かに雇われてというと?」
「外部の人間か、あるいは討伐のことを知っている内部の人間か。どっちにしても、前回負傷したヤツが無事だったのは運が良かったのか? ブラックウルフに毒性があるんなら、前回の時にも仕込まれてそうだがな」
「前回の負傷者は帰還してすぐに神殿に運ばれたので、聖女様が治療にあたられてます。ですので……」
「ババアの神聖力なら、お前の時と一緒で助かったのかもしれねぇな」

 何にせよ、誰かを殺害しようと考えていた可能性が高い。
 コレについてはじっくりと調べねぇとな。

 吸い殻を灰皿へ押し付け火を消して、レイヴンの頭をクシャクシャにかき混ぜてやる。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...