【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

第三章 再確認する魔塔主と距離が近づく弟子

50.一筋の光

「……クソうぜぇな」

　目の前を邪魔する結界が腹立たしい。
　聖女は国の最重要人物だから、侵入者を防ぐためのものだ。

　高ぶる感情と共に、言葉を吐き捨てる。

　レイヴンを片手で抱きかかえたまま結界を魔力マナを込めた拳で思い切り殴りつけた。

　光を放っていた結界をバラバラに破壊する。
　バリン！　と割れたような音とともに、ガラスのようにパラパラと砕けていく。
　邪魔な結界は目の前から消えた。

　悲鳴も怒号も、全てどうでもいい。
　一刻を争う事態だ。

　結界の奥にある扉が見える。
　ココにいるはずだ。

　扉を開けるのも面倒で、思い切り魔力マナを込めた足で蹴破る。
　目的の聖女は驚いて部屋の中で立ち上がったのが見えた。

　部屋に入って一直線に聖女の側へと寄る。

「なっ……何事！？　って、テオドール！　貴方、一体何をして……」
「いいから、早くレイヴンを！」
「レイヴンちゃんがどうしたって言うのよ！」
「見りゃ分かんだろ！」

　説明する時間すら惜しい。
　俺じゃレイヴンを助けられない。

　腹が立つが、コイツに頼むしかない。

　俺の声に怯むこともなく、聖女はレイヴンの顔を覗き込んだ。
　事態を即理解し、俺を見て叫ぶ。

「……ベッドへ寝かせて！」

　言う通りにレイヴンをベッドへと寝かせる。
　聖女はベッドへと寝かせたレイヴンの側で跪くと、レイヴンに向かって祈りを捧げた。

　俺が見守る中、神々しい光が聖女を包み込んでいく。

「聖なる浄化ホーリーピュリファイ」

　光に包まれた聖女がレイヴンの額に手を当てると、光がレイヴンの身体の中へとスッと溶け込んでいく。

　俺も屈み込んでレイヴンの顔を覗き込むと、血の気のなかった顔にほんのりとだが色が戻り、口元から静かな呼吸音が聞こえてきた。

「……この子、応急処置で自分から仮死状態になったみたいね。毒がもっと全身に回っていたら危なかったわ」
「……ったく、焦らせるんじゃねぇよ。この馬鹿弟子が……」

　息を吐いて呼吸を整える。
　レイヴンの髪を梳いてやると少し気分が落ち着いてきた。

　長く息を吐き出して、レイヴンの頬に手を当てると体温を感じることができた。
　どうやら大丈夫そうだ。

　聖女が立ち上がったので、名残惜しいがレイヴンから手を離して仕方なく立ち上がる。

「それで？　テオドール。レイヴンちゃんが危険な状態だったことは分かったけど。この壊した扉と、貴方が壊した結界。吹き飛ばした神官たちはどうするつもり？」
「ま、全く……貴方という人は……！　聖女様を、何だと、思っているのですか！」

　ギャーギャーうるせぇな。
　緊急事態だったんだから、細かいことくらいどうでもいいだろうが。
　クッソ、なんなんだよ……。

　一気に面倒臭くなってきた。