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第二章 様子見の魔塔主と距離を置く弟子
38.禁欲生活から数日
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禁欲宣言から数日後の夜。
レイヴンは本当に何をするにも一歩離れたところから、節度を守った距離感を、と、俺に言い聞かせるように何度も言ってきた。
頭を撫でようと手を伸ばすと、それだけで避けやがる。
ほぼ無意識で手が出て、その度に毎回スカっと空振りするもんだから舌打ちが止まらねぇ。
そんな俺を見て、耐えてくださいね、と、レイヴンが笑顔で注意してくることが何度も何度も繰り返された。
俺のことが嫌いになったとか、そういう訳じゃねぇんだろうが。
反射神経みたいなもんで自然に触れてたことを思い知らされた。
正直、物足りねぇ。
だがアイツに付き合ってやると決めたのも俺だ。
「アイツなりに何か考えてんだろうが、俺を避けて解決するモンか? まぁ……ガキのやる事くらい多めに見てやらねぇとな」
独り言ち、器具を机へと置くと腕をぐるりと回して首を傾けボキボキと音を鳴らす。
薬の改良もあれから何度か続けていたが、納得する効果がなかなか出ない。
ずっと籠もってんのも嫌いじゃねぇが、憂さ晴らしも兼ねて街の裏街道にある地下カジノへと足を伸ばすことにする。
レイヴンも構えねぇ、性欲も満たせねぇなら、それくらいしか思いつかないんだよなぁ。
レイヴンに外出することを告げに行くと、報告書を纏めている作業をしていた。
俺の方を見てやりすぎないようにと釘だけ刺して、すんなり俺を見送った。
何か拍子抜けするんだよな。
+++
「……チッ。ツーペア」
「こちらはフラッシュですね。テオドール様、今日はもうおやめになられたほうが良いのでは?」
薄暗い室内でディーラーと向かい合いポーカーをしていたが、役が伸びない。
普段は勝ったり負けたりの繰り返しで、そこそこ楽しめるんだが。
無情にも今日の分のコインは全てなくなってしまった。
どうも、ツキに見放されている感じがする。
別にいつも儲けている訳でもねぇんだが、面白くない。
「これ以上やると、煩いヤツがいるからな。引き上げるとするわ」
「またのお越しをお待ちしております」
早々と引き上げ、路上で煙草に火を付ける。
煙草に関しても本当は止めてほしいがせめて、自分の前では吸わないようにと、レイヴンが何度も言うから仕方なく一人の時に吸う。
肺に染みる煙も普段より苦い気がして眉間に皺が寄る。
気のせいだと普段通りに吸い終え、吸い殻を路上へと落として足で踏みつけた。
「なーんか面白くねぇな。まぁいいや。飲みに行くか」
からかうものがいないのは、思っていた以上につまらねぇ。
夜の外出じゃあ、やることなんて決まっている。
いつもの酒場に向かい、カウンターへと腰掛けてビールを注文した。
「今日はいつも以上に湿気たツラしてんじゃないか。何だ、あの子と喧嘩でもしたのかい?」
「馬鹿言え。そんな幼稚なことするかよ。ただ、妙なこと言い出したから付き合ってやってるだけだ。……っと、新人の子、雇ったんじゃねぇか。いいケツしてんな」
「きゃぁっ!?」
女将と喋りながら、ビールを運んできたオネェちゃんのお尻をひと撫でする。
触り心地は悪くねぇが、やっぱり違うんだよなぁ。
飛び上がって俺から距離を取るオネェちゃんに、俺の素敵な笑顔を向けたところで、何してんだい! と、女将の鉄拳制裁ならぬ、トレーの制裁が飛んできて、俺の頭を直撃する。
縦に振り下ろされたトレーはゴンと鈍い音を響かせた。
レイヴンは本当に何をするにも一歩離れたところから、節度を守った距離感を、と、俺に言い聞かせるように何度も言ってきた。
頭を撫でようと手を伸ばすと、それだけで避けやがる。
ほぼ無意識で手が出て、その度に毎回スカっと空振りするもんだから舌打ちが止まらねぇ。
そんな俺を見て、耐えてくださいね、と、レイヴンが笑顔で注意してくることが何度も何度も繰り返された。
俺のことが嫌いになったとか、そういう訳じゃねぇんだろうが。
反射神経みたいなもんで自然に触れてたことを思い知らされた。
正直、物足りねぇ。
だがアイツに付き合ってやると決めたのも俺だ。
「アイツなりに何か考えてんだろうが、俺を避けて解決するモンか? まぁ……ガキのやる事くらい多めに見てやらねぇとな」
独り言ち、器具を机へと置くと腕をぐるりと回して首を傾けボキボキと音を鳴らす。
薬の改良もあれから何度か続けていたが、納得する効果がなかなか出ない。
ずっと籠もってんのも嫌いじゃねぇが、憂さ晴らしも兼ねて街の裏街道にある地下カジノへと足を伸ばすことにする。
レイヴンも構えねぇ、性欲も満たせねぇなら、それくらいしか思いつかないんだよなぁ。
レイヴンに外出することを告げに行くと、報告書を纏めている作業をしていた。
俺の方を見てやりすぎないようにと釘だけ刺して、すんなり俺を見送った。
何か拍子抜けするんだよな。
+++
「……チッ。ツーペア」
「こちらはフラッシュですね。テオドール様、今日はもうおやめになられたほうが良いのでは?」
薄暗い室内でディーラーと向かい合いポーカーをしていたが、役が伸びない。
普段は勝ったり負けたりの繰り返しで、そこそこ楽しめるんだが。
無情にも今日の分のコインは全てなくなってしまった。
どうも、ツキに見放されている感じがする。
別にいつも儲けている訳でもねぇんだが、面白くない。
「これ以上やると、煩いヤツがいるからな。引き上げるとするわ」
「またのお越しをお待ちしております」
早々と引き上げ、路上で煙草に火を付ける。
煙草に関しても本当は止めてほしいがせめて、自分の前では吸わないようにと、レイヴンが何度も言うから仕方なく一人の時に吸う。
肺に染みる煙も普段より苦い気がして眉間に皺が寄る。
気のせいだと普段通りに吸い終え、吸い殻を路上へと落として足で踏みつけた。
「なーんか面白くねぇな。まぁいいや。飲みに行くか」
からかうものがいないのは、思っていた以上につまらねぇ。
夜の外出じゃあ、やることなんて決まっている。
いつもの酒場に向かい、カウンターへと腰掛けてビールを注文した。
「今日はいつも以上に湿気たツラしてんじゃないか。何だ、あの子と喧嘩でもしたのかい?」
「馬鹿言え。そんな幼稚なことするかよ。ただ、妙なこと言い出したから付き合ってやってるだけだ。……っと、新人の子、雇ったんじゃねぇか。いいケツしてんな」
「きゃぁっ!?」
女将と喋りながら、ビールを運んできたオネェちゃんのお尻をひと撫でする。
触り心地は悪くねぇが、やっぱり違うんだよなぁ。
飛び上がって俺から距離を取るオネェちゃんに、俺の素敵な笑顔を向けたところで、何してんだい! と、女将の鉄拳制裁ならぬ、トレーの制裁が飛んできて、俺の頭を直撃する。
縦に振り下ろされたトレーはゴンと鈍い音を響かせた。
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