18 / 483
第一章 積極的な魔塔主と翻弄される弟子
17.弟子の独り言
しおりを挟む
俺が自室に戻るとレイヴンが動いている気配がした。
驚かせてやろうかと鍵を外し扉を少しだけ開いて、中を覗き込む。
レイヴンは俺に見られていることなど気づかずに部屋の片付けをしていた。
服を何枚か拾うと、その足は風呂場の方向へ向かう。
「……何か冴えねぇ顔してんだよな。師匠として励ましてやるか」
俺は気配を消して扉を開き、レイヴンの後をつける。
考え事をしているせいか、俺には気づかない。
風呂場に入って服を洗おうとしているが、全く手が動いてねぇし。
どれだけ油断してんだか。
まぁ、俺の部屋は安全だからいいけどな。
「魔法でもいいけど、ダルくて集中力が持たない。かと言って、転がってるままは耐えられない……。はぁ、流されるんじゃなかった。今までもちょっかい掛けられることはあったけど、身体を合わせたことはなかったのにな。やっぱり、俺も慰めて欲しかった……とか?」
物凄い独り言を言って、溜め息を漏らす。
レイヴンは昨日、魔塔に下された命をこなして帰還したばかりだった。
俺がいない状態でこなしに行くのは初めてだったから緊張してたな。
レイヴンは魔塔主の俺にとっての補佐官で、魔塔の中でも2番目の地位で実力もある。
そりゃあ俺の弟子なんだからな。
だが魔塔でもどうでもいいヤツらは、俺が押し付けたものだと思い込んで納得しねぇ。
あからさまに俺たちに敵対心を抱き、レイヴンが自身の美貌と身体で俺を丸めこんだなどと、あることないこと吹聴してやがる。
まぁ、ある意味間違ってもいねぇが。
俺が可愛がってるのは別にそれだけが理由じゃねぇ。
真面目なレイヴンはいつも努力してるしな。
「師匠のせいで、ある意味嘘じゃなくなったし。あの人たちよりは実力はあると思ってるけど……ますます面倒になりそうだ」
討伐の命も全て丸く収まった訳ではなく、怪我人も多数出ている。
そんなのは戦いに出れば普通のことだ。
だがレイヴンはそのことをやたらと気にしていた。
予想外の魔獣が出現したせいで、驚いた修行中の魔法使いが何名か隊列を崩してしまい保護魔法が間に合わなかったと聞いた。
それは修行中の魔法使いでも良いだろうと言った俺にも責任はある。
ただこの事実を嗅ぎつければ、煩ぇヤツらが文句を付けてくるに違いない。
まぁ、そういう古株たちを黙らせるには色々と方法はあるから問題はねぇが面倒臭ぇのは変わらない。
どうせレイヴンは色々と1人で考え込んでいるんだろうが。
「騎士たちがフォローしてくれたから良かったものの、一歩間違えれば死者が出てもおかしくなかった。やはり、俺だけでは……」
やっぱりウジウジと悩んでるな。
俺はたった今来ましたと言わんばかりに扉の音を派手に立ててレイヴンを振り向かせる。
「なぁーに感傷に浸ってんだよ。まだ落ち込んでんのか? あのなぁ、最初っから全て上手くいく訳ねぇって言ったろ? 実力と経験は別物だ。誰も死なねぇだけで良かったじゃねぇか」
「……開けるなら静かに開けて下さいよ。分かってますけど、落ち込むのは落ち込むんです。放っておいてください」
「ったく。最初っから完璧にやられたら、俺の立場がねぇだろうが。それに、お前だったから死者が出ずに済んだんだって言ったよな? これ以上ウジウジするんじゃねぇよ」
レイヴンの手から洗い途中の濡れた服をひったくり、手を翳す。
淡い光と共に、服が綺麗になって渇いていく。
驚かせてやろうかと鍵を外し扉を少しだけ開いて、中を覗き込む。
レイヴンは俺に見られていることなど気づかずに部屋の片付けをしていた。
服を何枚か拾うと、その足は風呂場の方向へ向かう。
「……何か冴えねぇ顔してんだよな。師匠として励ましてやるか」
俺は気配を消して扉を開き、レイヴンの後をつける。
考え事をしているせいか、俺には気づかない。
風呂場に入って服を洗おうとしているが、全く手が動いてねぇし。
どれだけ油断してんだか。
まぁ、俺の部屋は安全だからいいけどな。
「魔法でもいいけど、ダルくて集中力が持たない。かと言って、転がってるままは耐えられない……。はぁ、流されるんじゃなかった。今までもちょっかい掛けられることはあったけど、身体を合わせたことはなかったのにな。やっぱり、俺も慰めて欲しかった……とか?」
物凄い独り言を言って、溜め息を漏らす。
レイヴンは昨日、魔塔に下された命をこなして帰還したばかりだった。
俺がいない状態でこなしに行くのは初めてだったから緊張してたな。
レイヴンは魔塔主の俺にとっての補佐官で、魔塔の中でも2番目の地位で実力もある。
そりゃあ俺の弟子なんだからな。
だが魔塔でもどうでもいいヤツらは、俺が押し付けたものだと思い込んで納得しねぇ。
あからさまに俺たちに敵対心を抱き、レイヴンが自身の美貌と身体で俺を丸めこんだなどと、あることないこと吹聴してやがる。
まぁ、ある意味間違ってもいねぇが。
俺が可愛がってるのは別にそれだけが理由じゃねぇ。
真面目なレイヴンはいつも努力してるしな。
「師匠のせいで、ある意味嘘じゃなくなったし。あの人たちよりは実力はあると思ってるけど……ますます面倒になりそうだ」
討伐の命も全て丸く収まった訳ではなく、怪我人も多数出ている。
そんなのは戦いに出れば普通のことだ。
だがレイヴンはそのことをやたらと気にしていた。
予想外の魔獣が出現したせいで、驚いた修行中の魔法使いが何名か隊列を崩してしまい保護魔法が間に合わなかったと聞いた。
それは修行中の魔法使いでも良いだろうと言った俺にも責任はある。
ただこの事実を嗅ぎつければ、煩ぇヤツらが文句を付けてくるに違いない。
まぁ、そういう古株たちを黙らせるには色々と方法はあるから問題はねぇが面倒臭ぇのは変わらない。
どうせレイヴンは色々と1人で考え込んでいるんだろうが。
「騎士たちがフォローしてくれたから良かったものの、一歩間違えれば死者が出てもおかしくなかった。やはり、俺だけでは……」
やっぱりウジウジと悩んでるな。
俺はたった今来ましたと言わんばかりに扉の音を派手に立ててレイヴンを振り向かせる。
「なぁーに感傷に浸ってんだよ。まだ落ち込んでんのか? あのなぁ、最初っから全て上手くいく訳ねぇって言ったろ? 実力と経験は別物だ。誰も死なねぇだけで良かったじゃねぇか」
「……開けるなら静かに開けて下さいよ。分かってますけど、落ち込むのは落ち込むんです。放っておいてください」
「ったく。最初っから完璧にやられたら、俺の立場がねぇだろうが。それに、お前だったから死者が出ずに済んだんだって言ったよな? これ以上ウジウジするんじゃねぇよ」
レイヴンの手から洗い途中の濡れた服をひったくり、手を翳す。
淡い光と共に、服が綺麗になって渇いていく。
1
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜
ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。
恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。
※猫と話せる店主等、特殊設定あり
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
俺は魔法使いの息子らしい。
高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。
ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。
「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」
と、親友の父から衝撃の告白。
なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。
母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。
「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」
と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。
でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。
同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。
「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」
「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」
腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡
※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
暁にもう一度
伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。
ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。
ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。
けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。
『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる