2 / 483
第一章 積極的な魔塔主と翻弄される弟子
1.ほんの気まぐれ
しおりを挟む
俺はいつも通ってる城下町の酒場で、普段以上に酒をガバガバと大量に飲んだ。
酒は大好物だし、飲めばそりゃあ気分も良くなるってもんだろ?
俺の可愛い弟子のレイヴンは、真面目な顔でやたらと反省して落ち込みっぱなしだ。
この前、魔物討伐に行かせたときに自分のせいで怪我人を出しちまったと思い込んでいるんだよな。
んなもんコイツのせいだけでもねぇし、酒でも飲んで忘れてもいいようなことだってのにな。
なのに、ウチの弟子は真面目すぎるところがあるんだよなぁ。
今日は少し飲みすぎたかもしれねぇが、ウジウジ悩む弟子のためだ。
酔って一人じゃ帰れないってことにして、強制的に俺の部屋まで送らせる。
このままレイヴン一人で返したところで、夜も眠らずに一人反省会するだけだからな。
だったら、俺と一緒にいた方が気も紛れるだろ。
「この辺りの階段に転がして放置したい……なんでこんなことになってんだろ……」
「いいから、頑張れよ。俺の可愛い弟子のレイちゃんだろ?」
「うるさいな、この酔っ払い。本当に世話が焼ける師匠ですね!」
レイヴンは歩いている間ずっと文句を言っているが、必死に足を踏み出して進むイイコちゃんだ。
結局、俺を見捨てて放り投げることはできねぇんだよな。
俺は弟子の肩を借りながら、俺たち魔法使いの住む魔塔の階段を一段、また一段と円を描くように登っていく。
レイヴンの師匠でもあるが、こう見えても魔塔主っていうヤツで、このアレーシュ王国に所属している魔法使いたちを束ねてる。
実際やってることは魔法の研究が主だ。
あとは街で不便なことがあれば魔法で解決したり、時々魔物討伐に出かけるくらいだ。
平和なこの国じゃ大してやることもねぇが、いざ何かあった時のための訓練もしてるな。
魔塔は侵入者防止の魔法で厳重に守られているせいで、部屋に行くには何段あるか数える気にもならない階段を登らなくちゃならねぇ。
俺の部屋は魔塔の最上階だし、普段は階段を使わない。
気が遠くなるような高さを登るような面倒なことを、いちいちしてたまるかってんだ。
いつもならひょいっと魔法で最上階までひとっとびするところだが、俺は飲んだくれてることになってるからな。
俺を必死に担いできたレイヴンと一緒に、自室の扉の前まで辿り着く。
俺より身長も低くて可愛いコイツが、でかい師匠様を健気に運んでいる姿は見ていていいもんだ。
疲れ切ったレイヴンが扉を開けると俺を放りこみ、床へ転がした。
自然と目線が床に移る。相変わらず、汚ねぇ部屋だな。
部屋を片付けるのも面倒だから、気づくと何か瓶やら道具やら転がっちまうが俺は片付けない。
今日も変わらず、部屋には酒瓶が何個か転がっているのが見えた。
「この前片づけたばかりなのに……どうしたらここまで散らかすことができるのか、理解できません」
片付けも掃除も弟子の仕事だからと、大体はレイヴンにやらせて俺自身は何もしない。
食事も外で済ませるから食材も置いてねぇし、あるのは酒と煙草くらいだ。
そんな俺のことを人は自堕落だの、ギャンブラーだのと言って騒ぎ立てる。
ギャンブル、酒、煙草。
俺にとっちゃ、手放せねぇもんだ。
それに別にやることやってるから、誰にも文句は言わせねぇし。
文句を言いたいのなら、面と向かって言えばいい話だろ?
自分で言うのも何だが、俺に勝てる魔法使いがいたら見てみたいもんだ。
この国の王ですら俺には文句言わねぇし、俺の好きにしていいって言われてる。
部類は違うが、力が対等なのは腐れ縁の騎士団長くらいか?
口が達者っていう面だけなら、この弟子も俺に説教するくらい気は強いし。
ある意味強いともいえるかもな。
「あぁー重い! 師匠、もう俺帰りますよ? あぁ……疲れた……早く休みたい……」
「ぁー? ねみぃ……ベッドまで連れてってくれよ。あぁぁ、気持ちわる……」
俺が身体を起こして吐くフリをすると、慌てたレイヴンが水を汲んで持ってきた。
そんなにグイグイと、顔に押し付けられてもなァ?
「冷てぇなー? 飲ませてくれよ」
「はぁ? 起きて飲めばいいでしょ、もう」
別に自分で飲みたくねぇから、飲ませてくれてもいいのによ。
いらねぇと手で払うと、水がこぼれてレイヴンに引っかかる。
レイヴンの髪とローブが水で湿り、ぽたりと水滴が服に垂れるのが見えた。
「ちょっ! 何するんですか! あー……面倒……」
レイヴンは濡れた黒髪を掻き上げて、羽織っていたローブを脱いでいく。
俺の視線なんか気にしないでローブの濡れ具合を気にしているみたいだが、コイツの良いところはまさに見た目だ。
レイヴンはまだ幼いところもあるが、艶のある黒髪でまつげも長い。
丸くて綺麗な茶の瞳、色白の肌に添えられた桃色の上品な唇と、ただ見てる分には綺麗なもんだ。
俺にはツンツンしていて可愛げもねぇが、他のヤツらにはニコリと笑いかけたりする。
笑顔も可愛いからもっと笑えばいいのによ。
ツンツンしているのも、ぶつくさ文句を言ってくるのも、子どもみたいな態度を取るのは俺だけだと思えば約得ってヤツか。
考えていることが顔に出ちまったついでに、もう少しからかってやろうと手を伸ばす。
酒は大好物だし、飲めばそりゃあ気分も良くなるってもんだろ?
俺の可愛い弟子のレイヴンは、真面目な顔でやたらと反省して落ち込みっぱなしだ。
この前、魔物討伐に行かせたときに自分のせいで怪我人を出しちまったと思い込んでいるんだよな。
んなもんコイツのせいだけでもねぇし、酒でも飲んで忘れてもいいようなことだってのにな。
なのに、ウチの弟子は真面目すぎるところがあるんだよなぁ。
今日は少し飲みすぎたかもしれねぇが、ウジウジ悩む弟子のためだ。
酔って一人じゃ帰れないってことにして、強制的に俺の部屋まで送らせる。
このままレイヴン一人で返したところで、夜も眠らずに一人反省会するだけだからな。
だったら、俺と一緒にいた方が気も紛れるだろ。
「この辺りの階段に転がして放置したい……なんでこんなことになってんだろ……」
「いいから、頑張れよ。俺の可愛い弟子のレイちゃんだろ?」
「うるさいな、この酔っ払い。本当に世話が焼ける師匠ですね!」
レイヴンは歩いている間ずっと文句を言っているが、必死に足を踏み出して進むイイコちゃんだ。
結局、俺を見捨てて放り投げることはできねぇんだよな。
俺は弟子の肩を借りながら、俺たち魔法使いの住む魔塔の階段を一段、また一段と円を描くように登っていく。
レイヴンの師匠でもあるが、こう見えても魔塔主っていうヤツで、このアレーシュ王国に所属している魔法使いたちを束ねてる。
実際やってることは魔法の研究が主だ。
あとは街で不便なことがあれば魔法で解決したり、時々魔物討伐に出かけるくらいだ。
平和なこの国じゃ大してやることもねぇが、いざ何かあった時のための訓練もしてるな。
魔塔は侵入者防止の魔法で厳重に守られているせいで、部屋に行くには何段あるか数える気にもならない階段を登らなくちゃならねぇ。
俺の部屋は魔塔の最上階だし、普段は階段を使わない。
気が遠くなるような高さを登るような面倒なことを、いちいちしてたまるかってんだ。
いつもならひょいっと魔法で最上階までひとっとびするところだが、俺は飲んだくれてることになってるからな。
俺を必死に担いできたレイヴンと一緒に、自室の扉の前まで辿り着く。
俺より身長も低くて可愛いコイツが、でかい師匠様を健気に運んでいる姿は見ていていいもんだ。
疲れ切ったレイヴンが扉を開けると俺を放りこみ、床へ転がした。
自然と目線が床に移る。相変わらず、汚ねぇ部屋だな。
部屋を片付けるのも面倒だから、気づくと何か瓶やら道具やら転がっちまうが俺は片付けない。
今日も変わらず、部屋には酒瓶が何個か転がっているのが見えた。
「この前片づけたばかりなのに……どうしたらここまで散らかすことができるのか、理解できません」
片付けも掃除も弟子の仕事だからと、大体はレイヴンにやらせて俺自身は何もしない。
食事も外で済ませるから食材も置いてねぇし、あるのは酒と煙草くらいだ。
そんな俺のことを人は自堕落だの、ギャンブラーだのと言って騒ぎ立てる。
ギャンブル、酒、煙草。
俺にとっちゃ、手放せねぇもんだ。
それに別にやることやってるから、誰にも文句は言わせねぇし。
文句を言いたいのなら、面と向かって言えばいい話だろ?
自分で言うのも何だが、俺に勝てる魔法使いがいたら見てみたいもんだ。
この国の王ですら俺には文句言わねぇし、俺の好きにしていいって言われてる。
部類は違うが、力が対等なのは腐れ縁の騎士団長くらいか?
口が達者っていう面だけなら、この弟子も俺に説教するくらい気は強いし。
ある意味強いともいえるかもな。
「あぁー重い! 師匠、もう俺帰りますよ? あぁ……疲れた……早く休みたい……」
「ぁー? ねみぃ……ベッドまで連れてってくれよ。あぁぁ、気持ちわる……」
俺が身体を起こして吐くフリをすると、慌てたレイヴンが水を汲んで持ってきた。
そんなにグイグイと、顔に押し付けられてもなァ?
「冷てぇなー? 飲ませてくれよ」
「はぁ? 起きて飲めばいいでしょ、もう」
別に自分で飲みたくねぇから、飲ませてくれてもいいのによ。
いらねぇと手で払うと、水がこぼれてレイヴンに引っかかる。
レイヴンの髪とローブが水で湿り、ぽたりと水滴が服に垂れるのが見えた。
「ちょっ! 何するんですか! あー……面倒……」
レイヴンは濡れた黒髪を掻き上げて、羽織っていたローブを脱いでいく。
俺の視線なんか気にしないでローブの濡れ具合を気にしているみたいだが、コイツの良いところはまさに見た目だ。
レイヴンはまだ幼いところもあるが、艶のある黒髪でまつげも長い。
丸くて綺麗な茶の瞳、色白の肌に添えられた桃色の上品な唇と、ただ見てる分には綺麗なもんだ。
俺にはツンツンしていて可愛げもねぇが、他のヤツらにはニコリと笑いかけたりする。
笑顔も可愛いからもっと笑えばいいのによ。
ツンツンしているのも、ぶつくさ文句を言ってくるのも、子どもみたいな態度を取るのは俺だけだと思えば約得ってヤツか。
考えていることが顔に出ちまったついでに、もう少しからかってやろうと手を伸ばす。
11
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
手紙
ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。
そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
俺は魔法使いの息子らしい。
高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。
ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。
「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」
と、親友の父から衝撃の告白。
なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。
母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。
「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」
と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。
でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。
同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。
「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」
「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」
腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡
※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
暁にもう一度
伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。
ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。
ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。
けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。
『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる