【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

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第一章 積極的な魔塔主と翻弄される弟子

1.ほんの気まぐれ

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 俺はいつも通ってる城下町の酒場で、普段以上に酒をガバガバと大量に飲んだ。
 酒は大好物だし、飲めばそりゃあ気分も良くなるってもんだろ?

 俺の可愛い弟子のレイヴンは、真面目な顔でやたらと反省して落ち込みっぱなしだ。
 この前、魔物討伐に行かせたときに自分のせいで怪我人を出しちまったと思い込んでいるんだよな。
 んなもんコイツのせいだけでもねぇし、酒でも飲んで忘れてもいいようなことだってのにな。
 なのに、ウチの弟子は真面目すぎるところがあるんだよなぁ。

 今日は少し飲みすぎたかもしれねぇが、ウジウジ悩む弟子のためだ。
 酔って一人じゃ帰れないってことにして、強制的に俺の部屋まで送らせる。
 このままレイヴン一人で返したところで、夜も眠らずに一人反省会するだけだからな。
 だったら、俺と一緒にいた方が気も紛れるだろ。

「この辺りの階段に転がして放置したい……なんでこんなことになってんだろ……」
「いいから、頑張れよ。俺の可愛い弟子のレイちゃんだろ?」
「うるさいな、この酔っ払い。本当に世話が焼ける師匠ですね!」

 レイヴンは歩いている間ずっと文句を言っているが、必死に足を踏み出して進むイイコちゃんだ。
 結局、俺を見捨てて放り投げることはできねぇんだよな。
 俺は弟子の肩を借りながら、俺たち魔法使いの住む魔塔の階段を一段、また一段と円を描くように登っていく。

 レイヴンの師匠でもあるが、こう見えても魔塔主っていうヤツで、このアレーシュ王国に所属している魔法使いたちを束ねてる。
 実際やってることは魔法の研究が主だ。
 あとは街で不便なことがあれば魔法で解決したり、時々魔物討伐に出かけるくらいだ。
 平和なこの国じゃ大してやることもねぇが、いざ何かあった時のための訓練もしてるな。

 魔塔は侵入者防止の魔法で厳重に守られているせいで、部屋に行くには何段あるか数える気にもならない階段を登らなくちゃならねぇ。
 俺の部屋は魔塔の最上階だし、普段は階段を使わない。
 気が遠くなるような高さを登るような面倒なことを、いちいちしてたまるかってんだ。
 いつもならひょいっと魔法で最上階までひとっとびするところだが、俺は飲んだくれてることになってるからな。

 俺を必死に担いできたレイヴンと一緒に、自室の扉の前まで辿り着く。
 俺より身長も低くて可愛いコイツが、でかい師匠様を健気に運んでいる姿は見ていていいもんだ。

 疲れ切ったレイヴンが扉を開けると俺を放りこみ、床へ転がした。
 自然と目線が床に移る。相変わらず、汚ねぇ部屋だな。
 部屋を片付けるのも面倒だから、気づくと何か瓶やら道具やら転がっちまうが俺は片付けない。
 今日も変わらず、部屋には酒瓶が何個か転がっているのが見えた。

「この前片づけたばかりなのに……どうしたらここまで散らかすことができるのか、理解できません」

 片付けも掃除も弟子の仕事だからと、大体はレイヴンにやらせて俺自身は何もしない。
 食事も外で済ませるから食材も置いてねぇし、あるのは酒と煙草くらいだ。

 そんな俺のことを人は自堕落だの、ギャンブラーだのと言って騒ぎ立てる。
 ギャンブル、酒、煙草。
 俺にとっちゃ、手放せねぇもんだ。
 それに別にやることやってるから、誰にも文句は言わせねぇし。
 文句を言いたいのなら、面と向かって言えばいい話だろ?

 自分で言うのも何だが、俺に勝てる魔法使いがいたら見てみたいもんだ。
 この国の王ですら俺には文句言わねぇし、俺の好きにしていいって言われてる。
 部類は違うが、力が対等なのは腐れ縁の騎士団長くらいか?
 口が達者っていう面だけなら、この弟子も俺に説教するくらい気は強いし。
 ある意味強いともいえるかもな。

「あぁー重い! 師匠、もう俺帰りますよ? あぁ……疲れた……早く休みたい……」
「ぁー? ねみぃ……ベッドまで連れてってくれよ。あぁぁ、気持ちわる……」

 俺が身体を起こして吐くフリをすると、慌てたレイヴンが水を汲んで持ってきた。
 そんなにグイグイと、顔に押し付けられてもなァ?

「冷てぇなー? 飲ませてくれよ」
「はぁ? 起きて飲めばいいでしょ、もう」

 別に自分で飲みたくねぇから、飲ませてくれてもいいのによ。
 いらねぇと手で払うと、水がこぼれてレイヴンに引っかかる。
 レイヴンの髪とローブが水で湿り、ぽたりと水滴が服に垂れるのが見えた。

「ちょっ! 何するんですか! あー……面倒……」

 レイヴンは濡れた黒髪を掻き上げて、羽織っていたローブを脱いでいく。
 俺の視線なんか気にしないでローブの濡れ具合を気にしているみたいだが、コイツの良いところはまさに見た目だ。

 レイヴンはまだ幼いところもあるが、艶のある黒髪でまつげも長い。
 丸くて綺麗な茶の瞳、色白の肌に添えられた桃色の上品な唇と、ただ見てる分には綺麗なもんだ。

 俺にはツンツンしていて可愛げもねぇが、他のヤツらにはニコリと笑いかけたりする。
 笑顔も可愛いからもっと笑えばいいのによ。
 ツンツンしているのも、ぶつくさ文句を言ってくるのも、子どもみたいな態度を取るのは俺だけだと思えば約得ってヤツか。

 考えていることが顔に出ちまったついでに、もう少しからかってやろうと手を伸ばす。

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