音色が繋ぐその先は

楓乃めーぷる

文字の大きさ
21 / 42
第一章 音色が繋ぐその先は

20.音色が繋ぐその先は

しおりを挟む
 俺はあの頃の気持ちを思い出していた。ただ、ピアノを弾くことが嬉しくてたまらなかったあの時を。
 正直、そんな気持ちにはもうならないだろうと思っていた。

 だけど、藤川と今一緒に弾いてみて。これも悪くないと思えた。
 俺は結局藤川へ教えることも嫌じゃなくなっていたし、むしろ楽しさを思い出させてくれたのは藤川だと気づいてしまった。
 だから、確かめたかった。

 俺は想いを込めて弾いてみた。あっという間の時間だったが、藤川はじっと聞き入っていた。
 最後の一音を丁寧に弾ききると、辺りを静寂が包む。

「おい、何とか言えよ。やっぱり運命の音色じゃ……」

 俺が藤川を見上げると、藤川は今まで見た中で一番嬉しそうに笑っていた。
 ただ……どちらかというと音に酔っているような、熱に浮かされているような……そんな表情だ。

「……オレ、我慢してたのに。こんなのもう我慢できない」
「は?」

 藤川はうっとりとした表情のまま、俺に身体を寄せてきた。そして、俺の手を優しく持ち上げると指先にやんわりとしたものを押し付けてくる。
 これは……キス? 指先にキスされてる?

「ちょ、お前……」
「オレ、気付いたんだ。風見くんの運命の音色にずっとあこがれていたけど……そうじゃない。オレは風見くんの全てが好きなんだ。この細くて綺麗な指もピアノに向かう真剣な眼差しも、時々見せる迷うような視線も……全部全部……」

 藤川の言葉は今までの俺ならキモイの一言で全て終わらせていたはずだ。
 それなのに、今度は俺が雰囲気に飲まれてしまって声が出ない。

「会えば会うほど、どんどん風見くんにハマっていくのが分かって。でもキモイって拒絶されるのが怖くて……だから離れたらいいって思ったのに……」
「ふ、藤川……」
「風見くんから、オレのところへ来てくれると思わなかった。ねえ、風見くん。やっぱり、オレのことは嫌い?」

 これはつまり、俺は……藤川に告白されてるのか?
 結構ドン引きなことも混ぜて言われているのは気のせいじゃなさそうだが……どう反応すればいいんだコレ?

「お前の言ってること、正直半分くらい気持ち悪いと思う。けど……お前といると俺はピアノが楽しかった頃に戻れた。だから……お前のことは、嫌いじゃない」

 嫌いじゃないって返事としてどうなんだって話だが、正直俺も混乱している。
 藤川の視線が熱すぎるし、俺の手はずっと藤川が握ってなでてるし。
 振り払いたいのに、藤川と離れるのも腹立たしいってどうすればいいんだよ?

「風見くんは正直だよね。拒否するときはハッキリ拒否してくれるし、本当は優しいし今も照れているだけだ。オレの顔も気に入ってくれてるみたいだし?」
「お前な、そうやって調子に乗るなって……おいっ、コラ! 指ごと頬にこすりつけるな!」
「だって、こうして我慢してないと……風見くんが可愛すぎて、オレ襲いそう」

 コイツ、笑顔でサラッと恐ろしいことを言い始めた。
 受け入れない方が良かったかと後悔しても、もう遅い。
 藤川が暴走しないように、うまくコントロールするしかなさそうだ。

「襲うとか物騒なこと言うんじゃねぇよ! いいから、ピアノの続きだ続き」
「オレも正直に言っただけなのに、赤くなってくれたってことは……少しはオレのこと意識してくれた?」
「してない。俺は昔の感覚を取り戻すためにお前を利用してやろうってだけで……おい、聞いてるのか?」

 藤川は俺の話を聞かずにやたらと擦り寄ってくる。
 コイツは爽やかなイケメンの皮を被っているだけで、実際はかなりしつこいヤツなのがよく分かる。
 俺たちを繋いだ運命の音色のせいで、どうやら厄介な絆で結ばれてしまったらしい。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

処理中です...