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第一章 音色が繋ぐその先は
17.焦燥
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気付かれた……? 俺だと確信して手を振った?
「は……? まさか、こっちを見て……」
すると、女子たちも不思議そうに見上げてくるのが分かったので俺は慌てて窓を閉めて身体を屈めて隠れた。
一体何のつもりだよアイツ。
確かに第二音楽室の位置は分かるだろうけど、わざわざ見上げるとは思わなかった。
「なんで俺が隠れないといけないんだよ」
一人でツッコミを入れたが、心臓が妙にざわついていた。
いきなり目が合ったみたいになったから、驚いただけだ。なのに、ざわつきがおさまらない。
「なんだってんだよ、クソ」
俺は苛立ちながら、ピアノに向かう。
もやもやする気持ちを振り払うように、鍵盤の上で手を滑らせた。
こういう時は激しめの曲がいい。月光の第三楽章にしよう。
第一楽章とは違い、速いテンポで登っていく曲調は気分をスカッとさせる。
俺の個人的感想だから人によって違うだろうが、俺にとってはストレス解消の意味もある。
というと、偉人に怒られそうだけどな。
「……ホント、意味不明だっての」
落ち着く曲調の一瞬の時に呟いて、また軽やかに弾いていく。
別の部類だが、アップテンポな感じは子犬のワルツとも通じるものがあるのかもしれない。
月光の方がより激しく暗めの曲なのは間違いないが。
最後まで弾ききると、少し落ち着きを取り戻すことができた。
「俺が悪いことをしている訳でもなんでもないのに。これもアイツが全部いけない」
藤川のせいと決めつけて、俺は何もなかったことにした。
最近アイツと普通に話していたから、アイツがモテ男なことを忘れていただけだ。
気持ちを切り替えて、俺はまた別の曲を気晴らしに弾き始めた。
+++
普段より没頭して弾いていたせいか、またギリギリの時間まで残っていることに気付く。
急いで片付けをしていると、急に音楽室の扉が開いた。
そこには部活上がりらしい藤川が息を切らせて立っていた。
「よ、良かった……まだいた……」
「藤川、なんでここに?」
「オレが手を振ったのに無視したでしょう?」
「いや、無視したっていうか……あの後女子が見上げて来てたし。面倒ごとに巻き込まれたくないんだよ」
俺が言い放つと、藤川はツカツカと俺の側に歩み寄ってきた。
そしていつもの馬鹿力で俺の両腕を掴む。
「風見くん、やっぱりオレのこと嫌い?」
「別に、そういう訳じゃ……」
「じゃあ、オレから逃げないで。やっと、近づけたのに離れたくない」
藤川は勢いよく迫ってきたくせに、今度は自信をなくしたように俯いた。
言っていることは相変わらず気持ち悪いはずなのに、俺はどうも勢いに押され始めた。
「……嫌いって訳じゃねえよ。言ってるだろ、お前が頑張っているところを見るのは嫌いじゃない」
「……ホント?」
「だから、離せって。早くしないと校門閉まっち……」
俺が言いかけたところで、思いっきり抱きつかれた。それもぎゅうぎゅうに、だ。
一瞬反応するのが遅れたが、俺が上を向いて睨みつけると藤川はごめんと言いながら俺の身体を解放した。
「さっさと帰るぞ」
不機嫌な声色で言い切ると、藤川も無言で頷く。やりすぎたことは反省しているらしい。
男でも抱きつくくらいはするかもしれないが、どこか違和感を覚える。
「は……? まさか、こっちを見て……」
すると、女子たちも不思議そうに見上げてくるのが分かったので俺は慌てて窓を閉めて身体を屈めて隠れた。
一体何のつもりだよアイツ。
確かに第二音楽室の位置は分かるだろうけど、わざわざ見上げるとは思わなかった。
「なんで俺が隠れないといけないんだよ」
一人でツッコミを入れたが、心臓が妙にざわついていた。
いきなり目が合ったみたいになったから、驚いただけだ。なのに、ざわつきがおさまらない。
「なんだってんだよ、クソ」
俺は苛立ちながら、ピアノに向かう。
もやもやする気持ちを振り払うように、鍵盤の上で手を滑らせた。
こういう時は激しめの曲がいい。月光の第三楽章にしよう。
第一楽章とは違い、速いテンポで登っていく曲調は気分をスカッとさせる。
俺の個人的感想だから人によって違うだろうが、俺にとってはストレス解消の意味もある。
というと、偉人に怒られそうだけどな。
「……ホント、意味不明だっての」
落ち着く曲調の一瞬の時に呟いて、また軽やかに弾いていく。
別の部類だが、アップテンポな感じは子犬のワルツとも通じるものがあるのかもしれない。
月光の方がより激しく暗めの曲なのは間違いないが。
最後まで弾ききると、少し落ち着きを取り戻すことができた。
「俺が悪いことをしている訳でもなんでもないのに。これもアイツが全部いけない」
藤川のせいと決めつけて、俺は何もなかったことにした。
最近アイツと普通に話していたから、アイツがモテ男なことを忘れていただけだ。
気持ちを切り替えて、俺はまた別の曲を気晴らしに弾き始めた。
+++
普段より没頭して弾いていたせいか、またギリギリの時間まで残っていることに気付く。
急いで片付けをしていると、急に音楽室の扉が開いた。
そこには部活上がりらしい藤川が息を切らせて立っていた。
「よ、良かった……まだいた……」
「藤川、なんでここに?」
「オレが手を振ったのに無視したでしょう?」
「いや、無視したっていうか……あの後女子が見上げて来てたし。面倒ごとに巻き込まれたくないんだよ」
俺が言い放つと、藤川はツカツカと俺の側に歩み寄ってきた。
そしていつもの馬鹿力で俺の両腕を掴む。
「風見くん、やっぱりオレのこと嫌い?」
「別に、そういう訳じゃ……」
「じゃあ、オレから逃げないで。やっと、近づけたのに離れたくない」
藤川は勢いよく迫ってきたくせに、今度は自信をなくしたように俯いた。
言っていることは相変わらず気持ち悪いはずなのに、俺はどうも勢いに押され始めた。
「……嫌いって訳じゃねえよ。言ってるだろ、お前が頑張っているところを見るのは嫌いじゃない」
「……ホント?」
「だから、離せって。早くしないと校門閉まっち……」
俺が言いかけたところで、思いっきり抱きつかれた。それもぎゅうぎゅうに、だ。
一瞬反応するのが遅れたが、俺が上を向いて睨みつけると藤川はごめんと言いながら俺の身体を解放した。
「さっさと帰るぞ」
不機嫌な声色で言い切ると、藤川も無言で頷く。やりすぎたことは反省しているらしい。
男でも抱きつくくらいはするかもしれないが、どこか違和感を覚える。
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