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第一章 音色が繋ぐその先は
10.個人レッスン
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今度こそイケメンは諦めたらしい。俺の側から離れて扉から出て行こうとする。
だが、その前に一度振り返った。
「無茶を言ってすみません。でも……オレ、諦めませんから。風見くんは気晴らしだと言っていたけど、音楽室から聞こえてきたあの音は……」
「いいから、さっさと帰れ」
「明日、レッスン申し込みの書類を持っていきます。お母さま……風見先生にもよろしくお伝えください」
最後にもう一度頭を下げると、イケメンはレッスン室から出て行った。
俺はその背を見ながら、二度と会いたくないのにまた会う予感しかないことを確信してしまった。
+++
次の日――
俺はさっさと家に帰ってきた。
すると、予想通り例のイケメンがレッスンを申し込みに来ていた。
「あ、風見くん」
「マジでレッスン受けるつもりかよ」
俺が嫌そうな顔をすると、俺に気付いた母さんがコラと俺を叱る。
「そういう言い方しないの。きちんと考えて申し込んでくれたんだから。じゃあ、今日から早速レッスンしていく?」
「はい! よろしくお願いします」
イケメンは丁寧に母さんへ頭を下げる。ホント育ちがいいっつーか真面目っつーか。
俺は今すぐ部屋にひきこもりたかったが、母さんの視線はそれを許さなかった。
「分かったよ。いればいいんだろ、いれば」
「よろしい。じゃあ、藤川君。座って?」
「はい!」
イケメンは嬉しそうに微笑む。その微笑みの方が俺の演奏よりもキラキラして見えた。
母さんもニコニコしてるし、つまらないと思っているのは俺だけだろうな。
諦めて椅子を引っ張り出して、昨日と同じようにどかりと座る。
足を組んでスマホを弄り始めると、母さんはため息をついたけどイケメンは笑って大丈夫ですと余裕の一言を呟いた。
「オレ、うまくできるか分かりませんが……」
「最初はみんなそうよ。じゃあ、まずは初歩的なことから始めましょう。昨日の復習からね」
母さんがゆっくりと丁寧に教えていくのが分かる。
昔、俺も教えてもらったからな。母さんはどちらかと言うと褒めて伸ばすタイプだ。
イケメンのたどたどしい音を聞きながら、俺はアプリの周回を消化していく。
別に面白くもないけど、習慣化しているとついやってしまう。
しばらくはレッスンが続いていたけど、遠くからコール音が聞こえてきた。
ドアの向こうから微かだけど、家じゃなくて音楽教室用の電話の音が聞こえてくる。
「俺が出る」
「音楽教室用の電話なら私が出なくちゃ。ごめんなさいね、藤川君。その間……音流、藤川君の側で見ていてあげて」
「なんで俺が……」
「はい! 行ってらっしゃい」
イケメンはさわやかな笑顔で母さんを見送ってるし、母さんは無言で笑顔の圧をかけてくるし。
仕方ない……俺はスマホをポケットに突っ込んで座っているイケメンの側へ立つ。
「で、左手は動くようになってきた?」
「片手ずつなら、なんとか。でも……右手だけでも難しいのに左手もってすごいですね」
「そんなもんだろ。ってか、お前の動き硬すぎ! 力入れすぎなんだよ。ピアノに馬鹿力は必要ない」
「すみません。何だか鍵盤の上に手を置くだけで緊張しちゃって」
イケメンは笑いながら深呼吸をして、そっと鍵盤の上へ手を置いた。
俺より手がデカイせいで鍵盤を捉えにくそうではあるが、指を見ている限り力強い演奏ができそうな指だ。
ただ、さっきから動きが硬い。もしかして意外と不器用なのかコイツ?
だが、その前に一度振り返った。
「無茶を言ってすみません。でも……オレ、諦めませんから。風見くんは気晴らしだと言っていたけど、音楽室から聞こえてきたあの音は……」
「いいから、さっさと帰れ」
「明日、レッスン申し込みの書類を持っていきます。お母さま……風見先生にもよろしくお伝えください」
最後にもう一度頭を下げると、イケメンはレッスン室から出て行った。
俺はその背を見ながら、二度と会いたくないのにまた会う予感しかないことを確信してしまった。
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次の日――
俺はさっさと家に帰ってきた。
すると、予想通り例のイケメンがレッスンを申し込みに来ていた。
「あ、風見くん」
「マジでレッスン受けるつもりかよ」
俺が嫌そうな顔をすると、俺に気付いた母さんがコラと俺を叱る。
「そういう言い方しないの。きちんと考えて申し込んでくれたんだから。じゃあ、今日から早速レッスンしていく?」
「はい! よろしくお願いします」
イケメンは丁寧に母さんへ頭を下げる。ホント育ちがいいっつーか真面目っつーか。
俺は今すぐ部屋にひきこもりたかったが、母さんの視線はそれを許さなかった。
「分かったよ。いればいいんだろ、いれば」
「よろしい。じゃあ、藤川君。座って?」
「はい!」
イケメンは嬉しそうに微笑む。その微笑みの方が俺の演奏よりもキラキラして見えた。
母さんもニコニコしてるし、つまらないと思っているのは俺だけだろうな。
諦めて椅子を引っ張り出して、昨日と同じようにどかりと座る。
足を組んでスマホを弄り始めると、母さんはため息をついたけどイケメンは笑って大丈夫ですと余裕の一言を呟いた。
「オレ、うまくできるか分かりませんが……」
「最初はみんなそうよ。じゃあ、まずは初歩的なことから始めましょう。昨日の復習からね」
母さんがゆっくりと丁寧に教えていくのが分かる。
昔、俺も教えてもらったからな。母さんはどちらかと言うと褒めて伸ばすタイプだ。
イケメンのたどたどしい音を聞きながら、俺はアプリの周回を消化していく。
別に面白くもないけど、習慣化しているとついやってしまう。
しばらくはレッスンが続いていたけど、遠くからコール音が聞こえてきた。
ドアの向こうから微かだけど、家じゃなくて音楽教室用の電話の音が聞こえてくる。
「俺が出る」
「音楽教室用の電話なら私が出なくちゃ。ごめんなさいね、藤川君。その間……音流、藤川君の側で見ていてあげて」
「なんで俺が……」
「はい! 行ってらっしゃい」
イケメンはさわやかな笑顔で母さんを見送ってるし、母さんは無言で笑顔の圧をかけてくるし。
仕方ない……俺はスマホをポケットに突っ込んで座っているイケメンの側へ立つ。
「で、左手は動くようになってきた?」
「片手ずつなら、なんとか。でも……右手だけでも難しいのに左手もってすごいですね」
「そんなもんだろ。ってか、お前の動き硬すぎ! 力入れすぎなんだよ。ピアノに馬鹿力は必要ない」
「すみません。何だか鍵盤の上に手を置くだけで緊張しちゃって」
イケメンは笑いながら深呼吸をして、そっと鍵盤の上へ手を置いた。
俺より手がデカイせいで鍵盤を捉えにくそうではあるが、指を見ている限り力強い演奏ができそうな指だ。
ただ、さっきから動きが硬い。もしかして意外と不器用なのかコイツ?
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