気付いた時には君しか見えなくて

めーぷる

文字の大きさ
上 下
4 / 20
第一章 近所のお兄さんとオレ

4.自分の気持ち

しおりを挟む
「ごめんね」

 湊兄は謝ってからスマホを取り出して、内容を確認する。
 やっぱりその表情が凄く優しい。

「……いいよ、もう」
「え? 何が?」
「オレに勉強、教えなくても。あとは一人でもできるから。その人、湊兄の彼女なんでしょ? 構ってあげたら」

 オレが言い切ると、湊兄はそのまま固まった。
 もやもやするものを吐き出すように、そのまま勢いで口を開く。

「もうすぐクリスマスだし、彼女を大切にしてあげなよ。オレみたいなのに構わないでさ。別に勉強くらいできるから」
「絢くん……」
「母さんには適当に言っておくよ。オレの我儘だって、言っておくから……」

 オレはそこまで言ってから恐る恐る湊兄の顔を見た。
 湊兄は……とても悲しそうに微笑んでいた。

「絢くんは……僕が教えると、迷惑?」
「迷惑っていうか……スマホ見る時嬉しそうにしてるのに、こんなつまらないことしなくてよくない? 時間の無駄だよ。オレ、元々一人でやるつもりだったけど母さんが勝手に……」

 ここでハッキリ言わないと、湊兄は遠慮する。
 彼女と、幸せになって欲しいし。

 そう、幸せに……。

「……そっか。そうだね。絢くんは僕が教えなくても大丈夫なくらいにできる子だよね。気を遣わせてごめんね。大丈夫。僕の都合で、ってきちんとお話しておくから」
「今までありがとう。必ず合格するから」

 オレが言い切ると、湊兄がゆっくりと立ち上がった。
 その姿を目線だけで追う。

「こちらこそ、勉強を教えてたのに……すごく楽しかった。ありがとう、絢くん。頑張ってね」

 優しい微笑みを残して、湊兄は部屋を出ていった。
 楽しかったって……そんなの、オレも楽しかった、気がする。

「大丈夫、オレ器用だし。勉強くらいどうとでも、なるだろ」

 自分に言い聞かせるように呟く。
 今までだって適当にやってこれたんだから、たぶん何とかなると思うし。

 思っていたことを吐き出すように長く長く息を吐き出した。

 ごちゃごちゃした感情が胸の中でぐるぐるとしている感じだ。
 こんな気持ちになることはなかったから、今感じているものが何か良く分からない。
 オレは湊兄がいなくなってからも、扉を見ながらぼんやりとしていた。

 どれくらいそうしていたんだろう?
 暫くぼんやりとしていると、ふいに何か流れてくることに気付いた。

「は……?」

 指でソレに触れる。
 いや、触れなくても分かってはいたけど泣いてる、よな。
 自分で自分に動揺し始める。

 何でだろ?
 その時同時に、気が付いた。

 あぁ、オレ。
 湊兄のこと、好きだったんだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

偽りの愛

いちみやりょう
BL
昔は俺の名前も呼んでくれていたのにいつからか“若”としか呼ばれなくなった。 いつからか……なんてとぼけてみなくても分かってる。 俺が14歳、憲史が19歳の時、俺がこいつに告白したからだ。 弟のように可愛がっていた人間から突然告白されて憲史はさぞ気持ち悪かったに違いない。 だが、憲史は優しく微笑んで初恋を拗らせていた俺を残酷なまでに木っ端微塵に振った。 『俺がマサをそういう意味で好きになることなんて一生ないよ。マサが大きくなれば俺はマサの舎弟になるんだ。大丈夫。身近に俺しかいなかったからマサは勘違いしてしまったんだね。マサにはきっといい女の子がお嫁さんに来てくれるよ』

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...