気付いた時には君しか見えなくて

めーぷる

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第一章 近所のお兄さんとオレ

2.何となく楽しい

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「……そのまま立って教えるつもり?」
「気にしないで。大丈夫だから」

 オレは息を吐いてもう一度立ち上がると、参考書とノートを手に取って床においてあるローテーブルへと下ろした。

「コッチなら座って教えられるだろ。クッションならあるから。適当に座って」
「あ……うん。ありがとう。じゃあそうさせてもらおうかな」

 オレも放ってあるクッションを引き寄せてその上に座る。
 下にはラグが敷いてあるしそこまで冷えたりもしないと思うけど。
 湊兄は我慢しそうだから、時々確認したほうがいいかもしれない。

「就活とかどうしてんの?」
「僕は院生になるから。大丈夫」
「そっか」

 いくつか簡単な質問をしながら、勉強もとどこおりなく進んでいく。

 +++

「はい、じゃあ今日はここまでにしようか」
「……ありがとうございました」
「そんなに改まらなくてもいいよ。僕も勉強してるみたいで楽しいから」

 ニッコリと笑う湊兄を見ていると、オレも癒される気がして。
 両腕を上に高く上げて身体を解すように伸びをする。

「母さん、もしかしてタダでお願いしてる?」
「報酬なんてもらえないよ。いいよいいよ。可愛い絢くんのためだったら。少しでも同じところに通えたら嬉しいし」

 ニコニコと笑ったままの湊兄は本当に嬉しそうにしてるけど。
 そんなに?

「……嬉しいんだ?」
「嬉しい」

 即答された。
 よく分からないけど、悪い気はしない。

「今度はいつくる予定?」
「また講義がない日に来ようかな。忘れないうちに」
「無理しなくてもいいけど」

 オレがそう言うと、ふわっと笑って。
 またポンと頭を撫でられた。

「平気。じゃあ、また連絡するね」
「分かった。気をつけて」

 玄関まで湊兄を見送ると、笑顔のまま手を振って帰っていく。
 なんだろ……久しぶりに見たせいか、ホント綺麗に見えた。

「なんか、楽しい、かも」

 気づいたら一人で呟いてた。

 そんな風に思ったのは久しぶりかもしれない。
 いつも部屋にこもってパソコンと向き合って過ごすだけだったから、人と喋るのも何か久しぶりだった。

 別に話しかけられたら喋るけど、特に自分から話したりもしないし。
 周りがどう思ってるのか知らないし、騒がしくバカやれるのも今のうちだとか言われるけど。

 なんだろう……興味がわかない。
 だから、クラスの奴らはオレに向かってジジくさいだとか適当なことを言ってくる。

 それすらも別に何も思わないし、好きに言えば? くらいしか思わない。

 その後の夕食の時間に母さんに根掘り葉掘り聞かれたけど、適当に誤魔化した。

「うまく教えてもらえたならいいけど、頑張って」
「父さんも応援しているからな」
「お兄は何でもできちゃうからズルい。しかも湊兄と勉強とか! あたしも教えて欲しい!」
「はいはい、どうも。お前は勉強しないんだから大人しくしてろよ。じゃあ、風呂はいるから」

 ウチの家族はいちいち絡んでくるから面倒臭い。
 こういう時はさっさと退散してしまうのが一番だ。
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