上 下
109 / 110
第九章 真ハピエン後の追加エピソード

106.とっておきの秘策

しおりを挟む
 お言葉に甘えて仮眠させてもらった。俺だけなんだか申し訳ないけど、モーングレイも寝るからと説得された。
 騎士の皆さんは慣れているし、順番に見張りと仮眠を交代するのでと乗ってきた馬車の中で仮眠した。

 そして早朝――
 俺たちは緊張しながらその時を待っていた。

「……来ました。侯爵家の紋章を確認しました。間違いありません」
「そうか。じゃあ、頼んだで。ハル、俺らはコイツらが馬車を足止めした後に隙を見て一気に近づいて妹さんをかっさらう」
「分かりました。緊張してきた……」

 騎士の皆さんがいわゆる陽動をしてくれるという作戦だ。
 妹を助けるための陽動だけではなく、この場で侯爵家の悪事も暴露して辺境伯特権を使用し侯爵家を取り締まるらしい。
 もちろん、このことについて王様も知っているそうなので王様の命令ってことにもなるみたいだ。

 騎士の皆さんでアイコンタクトを取ると、一斉に高台から森の道へと降りていく。
 十人くらいだけど、モーングレイさん曰く精鋭さんたちだそうで俺のことを気遣ってくれていたイケメンな人は副団長で、団長さんも来てくれたらしい。
 俺たちは騎士さんたちの一番後方から静かに高台を降りて、近くの木の裏に身を潜めた。

「わ……すごい」
「アイツらは戦い慣れとるからなー。見た目に騙されるとえらい目にあうで」
「カッコイイ……!」
「ハルんとこにはいないんか?」

 俺は余計なことまで言いそうになったので、慌てて口を閉じる。
 俺が見守っている間に騎士さんたちが馬車の前へ立ちはだかり、何か紙を見せている。
 あれが、王様から預かったっていう紙なのかな。
 侯爵家にも護衛なのか何人か馬に乗った騎士っぽい人もいるけど、馬車の側にその騎士が横にいるせいで近づけない。

「あの騎士たちが離れた時がチャンスや」
「分かった」

 フィッツロイ家の騎士が凄むと、侯爵家の騎士が反論するように馬から降りて騎士の方へ近づいていく。
 よし、これなら……!

「ハル、行くで!」
「はい!」

 俺たちも顔を見合わせて、そっと馬車の方へ一気に近づく。
 そして、馬車のドアを勢いよく開けた。

「きゃあっ!」
「な、何者だ!?」

 薄桃の柔らかそうな長い髪と、優しい雰囲気の薄灰の瞳。この子が夢に出てきたハルミリオンの妹か。
 妹がいるのは分かったんだけど、向かい側にいかにもチャラそうな男が座って妹の手を握っていた。
 ……なんだ、コイツ?

「まさか、ご本人が迎えに行ってたんか! コイツは少し想定外やな」
「お前たちは一体?」
「お……お兄様!」

 ハルの妹のリムキヨリアが声を上げたので、俺の正体がすぐにばれてしまう。
 すると、焦った男が妹の手を離していきなり剣を抜いて襲い掛かってきた。

「今更何をしにきた! 出来損ないめ!」
「すみません、妹をっ!」
「わ、分かった!」

 モーングレイに妹のことを頼んで、俺は急いで剣に手をかけた。
 俺じゃダメだけど、きっとアイツなら……!
 使うのは初めてだけど、俺ならできる!

「スイッチ!」

 俺は意思を込めて、精霊神に言われた言葉を叫ぶ。
 すると、すぐに意思がふっと遠のくのが分かった。

「……ったく、呼ぶならもう少し早く呼べ!」

 は、一言文句を言ってから、腰の剣を引き抜いてヤツの剣を受けた。
 しかし、本当にスイッチとやらができるとはな。
 外に出たのは久しぶりだったが、身体がなまっていなくて良かった。

「なっ……」
「フン。残念だが、俺は剣には少々自信があるんだ。お前くらいの腕なら、大したことはない」
「クソっ!」

 剣と剣がぶつかる。ギリっと嫌な音がするが、この程度の力なら勢いで押せる。
 グッと押し出してやると、男はよろりと体勢を崩した。
 
 俺が剣を跳ねのけたところで、騎士が慌ててコッチへ駆けつけてくる。
 もう少し早く気づいてくれれば、俺が表に出る必要はなかったんだがな。

「ハル様、ご無事ですか?」
「問題ない。で、この男が妹の婚約者か」
「ですね。まさか自ら迎えに行っていたとは。調べ不足で申し訳ありません」
「いや、こちらが無理なお願いをしたんだ。あなたたちの協力がなければ成し遂げられなかったこと。改めて俺からも礼を言わせてくれ。心より感謝申し上げる」

 あっちのハルはお礼を言っていたが、俺からは言っていなかったからな。
 俺は男が捕らわれたのを確認して、剣をおさめた。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! 時間有る時にでも読んでください

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話

あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった 親は妹のゆうかばかり愛してた。 理由はゆうかの病気にあった。 出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。 もう愛なんて知らない、愛されたくない そう願って、目を覚ますと_ 異世界で悪役令息に転生していた 1章完結 2章完結(サブタイかえました) 3章連載

囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...