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第八章 真のハッピーエンディングを目指して
87.勝負の結果は
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結果は――圧倒的だった。
王様も含めて、年齢が上の人たちと女性は左手を挙げていた。
右手を挙げているのは、子どもたちと若い男性のみだ。
「え……どうして? ハルの実は特別な感じもない普通の果物みたいな味だったのに……」
カティは呆然としているけど、王様は一つ頷いて皆に手を下ろすようにジェスチャーをする。
皆はゆっくりと手を下ろした。
「そうだな……そこの者、お前はカティを選んでいたな。理由は?」
「はい、王様。私はこの者の変わった味がとても刺激的で忘れられません。常にこの味が食べられたらいいなと思いました」
「ふむ……なるほど。では、そちらの者は? ハルを選んでいたな。理由は?」
「はい、私も変わった実を食べたときはとても珍しくていいなと思ったんです。だけど……この実を毎日食べるとしたら? お料理に使うと思うと……どうしたらよいのかと」
そう、理由は簡単だ。俺が推測していた通り、もの珍しいものを食べるのは特別感があってとても美味しい。
だけど、恵みの樹の実はこの土地に根付くもの。
常にこの実を使って、料理をして食べていくものになるはずだ。
だとしたら……特別感がありすぎると食べ方はそのまま食べるだけになってしまうだろう。
そして、いつか飽きられてしまうはずだ。
「えー? でもこっちのお兄ちゃんの実の方がカッコよくて良かったなー」
「ふむ、それも一つの意見だ。私もハルの実を選んだ理由は一つ。長く愛される実というものは日常に溶け込まねばならない。特別であって、特別ではない。それが重要なのだ」
「王様のおっしゃる通りです。私たち兵士も疲れた時には刺激的なものではなく、普通のものをサッと食べて寝てしまいたいものです。もちろん、特別な味のする実も素敵だと思います」
色々な意見を聞くうちに、カティはどんどんシュンとなっていく。
ここにいるのが全員貴族だったなら、確実にカティの実が選ばれたはずだ。
彼らは、普通の物なんて食べ飽きているだろうからな。
「そっか……ボクは食べる人たちのことを考えきれていなかったんだね。特別感のある実こそ、荒れた土地に希望をもたらしてくれると思ったんだ」
「ああ、それも間違いじゃない。ただ……俺はこの土地でこれから暮らす人たちにとって、いつでも食べられる手軽な実があったらいいなと思っただけだ」
俺の説明を聞きながら、カティは初めて嘘泣きではなく本当の悔し涙を流し始めた。
その涙は、いつものようにイラついたりなどしないキレイな涙だった。
「あーあ……負けちゃったかぁ。結局ハルに勝てなかったな。これで……ルカンともお別れか」
「あ……」
そうだった。最後の収穫祭で負けた方は、記憶を消されて元の生活に戻ることになっている。
というのも、精霊界エーテルヴェールは特別なところであり精霊使いとなるのは任期を終えるまでに一人きりと決まっているからだ。
「カティ……」
「ちょっと、勝った方が負けたみたいな顔しないでくれる? ハル、おめでとう」
「ありがとう、カティ」
「では、アビスヘイブンの食と幸福を司る恵みの樹は、ハルミリオン・エヴァーグレイブの恵みの樹としよう!」
王様の声で皆立ち上がり、祝福の拍手をしてくれる。
カティも泣きながら、俺に拍手を送ってくれた。
「では、ハルよ。改めてこのアビスヘイヴンを導くため、真の精霊使いとなって精霊と人間の架け橋になってくれ」
そうだ、この台詞だ。この王様の台詞でエンディングのルートが決まってしまう。
はいと答えれば、アビスヘイヴンに残って精霊の力を受けてこの土地に更なる富をもたらす精霊使いとして暮らすノーマルエンド。いいえと答えれば――
「いいえ、王様。俺は精霊界エーテルヴェールに残り、精霊界からアビスヘイヴンを見守っていきたいと思います」
「何? ハルは……精霊と絆を結んだというのか? 確かに精霊使いとして精霊に好かれることは使命であり幸福だという。精霊様のご好意を我々人間が拒むことはできん」
絆を結んだ精霊、つまり好感度が一番高い精霊との恋愛エンディングになる。
王様も含めて、年齢が上の人たちと女性は左手を挙げていた。
右手を挙げているのは、子どもたちと若い男性のみだ。
「え……どうして? ハルの実は特別な感じもない普通の果物みたいな味だったのに……」
カティは呆然としているけど、王様は一つ頷いて皆に手を下ろすようにジェスチャーをする。
皆はゆっくりと手を下ろした。
「そうだな……そこの者、お前はカティを選んでいたな。理由は?」
「はい、王様。私はこの者の変わった味がとても刺激的で忘れられません。常にこの味が食べられたらいいなと思いました」
「ふむ……なるほど。では、そちらの者は? ハルを選んでいたな。理由は?」
「はい、私も変わった実を食べたときはとても珍しくていいなと思ったんです。だけど……この実を毎日食べるとしたら? お料理に使うと思うと……どうしたらよいのかと」
そう、理由は簡単だ。俺が推測していた通り、もの珍しいものを食べるのは特別感があってとても美味しい。
だけど、恵みの樹の実はこの土地に根付くもの。
常にこの実を使って、料理をして食べていくものになるはずだ。
だとしたら……特別感がありすぎると食べ方はそのまま食べるだけになってしまうだろう。
そして、いつか飽きられてしまうはずだ。
「えー? でもこっちのお兄ちゃんの実の方がカッコよくて良かったなー」
「ふむ、それも一つの意見だ。私もハルの実を選んだ理由は一つ。長く愛される実というものは日常に溶け込まねばならない。特別であって、特別ではない。それが重要なのだ」
「王様のおっしゃる通りです。私たち兵士も疲れた時には刺激的なものではなく、普通のものをサッと食べて寝てしまいたいものです。もちろん、特別な味のする実も素敵だと思います」
色々な意見を聞くうちに、カティはどんどんシュンとなっていく。
ここにいるのが全員貴族だったなら、確実にカティの実が選ばれたはずだ。
彼らは、普通の物なんて食べ飽きているだろうからな。
「そっか……ボクは食べる人たちのことを考えきれていなかったんだね。特別感のある実こそ、荒れた土地に希望をもたらしてくれると思ったんだ」
「ああ、それも間違いじゃない。ただ……俺はこの土地でこれから暮らす人たちにとって、いつでも食べられる手軽な実があったらいいなと思っただけだ」
俺の説明を聞きながら、カティは初めて嘘泣きではなく本当の悔し涙を流し始めた。
その涙は、いつものようにイラついたりなどしないキレイな涙だった。
「あーあ……負けちゃったかぁ。結局ハルに勝てなかったな。これで……ルカンともお別れか」
「あ……」
そうだった。最後の収穫祭で負けた方は、記憶を消されて元の生活に戻ることになっている。
というのも、精霊界エーテルヴェールは特別なところであり精霊使いとなるのは任期を終えるまでに一人きりと決まっているからだ。
「カティ……」
「ちょっと、勝った方が負けたみたいな顔しないでくれる? ハル、おめでとう」
「ありがとう、カティ」
「では、アビスヘイブンの食と幸福を司る恵みの樹は、ハルミリオン・エヴァーグレイブの恵みの樹としよう!」
王様の声で皆立ち上がり、祝福の拍手をしてくれる。
カティも泣きながら、俺に拍手を送ってくれた。
「では、ハルよ。改めてこのアビスヘイヴンを導くため、真の精霊使いとなって精霊と人間の架け橋になってくれ」
そうだ、この台詞だ。この王様の台詞でエンディングのルートが決まってしまう。
はいと答えれば、アビスヘイヴンに残って精霊の力を受けてこの土地に更なる富をもたらす精霊使いとして暮らすノーマルエンド。いいえと答えれば――
「いいえ、王様。俺は精霊界エーテルヴェールに残り、精霊界からアビスヘイヴンを見守っていきたいと思います」
「何? ハルは……精霊と絆を結んだというのか? 確かに精霊使いとして精霊に好かれることは使命であり幸福だという。精霊様のご好意を我々人間が拒むことはできん」
絆を結んだ精霊、つまり好感度が一番高い精霊との恋愛エンディングになる。
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