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第七章 限界突破のその先は?

62.志半ばで(途中視点切り替わり有)

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 早く終わらせようと焦ってしまうと、余計にうまくいかない。
 そのうちにどんどん嵐は強くなり、雨と風が身体の自由を奪っていく。

「風が、強くなって……くっ」

 風がレインコートをバサバサと煽るせいで、身動きがとりづらい。
 ハシゴごと吹き飛ばされないうちに、なんとか降りようとしたとき――

 強く激しい突風に襲われ、俺はハシゴの上から身体ごと吹き飛ばされる。
 こんな強い風が吹くのは予想外だ。
 自分ではどうすることもできず、身体はそのまま宙に舞い側の木の幹にぶつかってしまった。

「っぐ……」

 身体と頭をぶつけてしまい、ぐらりと意識が揺らぐ。
 まずい、こんなところで倒れてる場合じゃないのに……。
 身体がずるずると地へ倒れていくのが分かる。

 寒さと雨の中、うまく呼吸もできずにそのまま目も閉じていく。
 無理しすぎちゃったか……。
 でも、俺。頑張ったよな?
 妙な達成感の中、プツリと緊張の糸が切れて気が遠くなっていった。

 +++

 一方その頃――
 ハルが外に残って作業を続けていることは、ウルフからアウレリオルへ報告されていた。
 恵みの樹を守ることは精霊使いの卵にとって重要な責務ではあるが、全てを一人で行おうとした人物はアウレリオルにとっても初めて聞くことだった。

「で、ハルはどうすると?」
「嵐が来る前に作業を終わらせると。でも、オレたちの予想より嵐が来るのが早い。あれじゃ、ハルはきっと間に合わないだろう」
「だというのに、一人で作業を?」
「ああ。オレも手伝ってやりたいが、規則は守らないといけない。それにハルが精霊様たちの手は借りないと言っている以上は手の出しようもない。歯がゆい……せめて様子を見に行ってやらないと……」

 ウルフが落ち着かない様子でアウレリオルの側を行ったり来たりしていると、ちょうど見回りを追えたらしいラウディが通りがかる。
 自然災害が起こるときは精霊たちも担当箇所を見回って、精霊界エーテルヴェールの秩序を守る行動をとらなくてはならないのだ。

「ラウディ様、ハルを見ませんでしたか? 家に戻っているといいのだが、恵みの樹を保護すると嵐の中一人で頑張っていて……」
「ウルフ? ええっ、ハルさんがぁ? わぁ、ラウディ様っ! あっしも……」

 ラウディはウルフの言葉を聞いてアウレリオルにモグを託すと、恵みの樹へ向かって走っていく。
 精霊は自然の力を人間より受けづらく、自身の力で解決することが可能なため自然災害中に外へ出ても大事にはならない。
 だが、今回はかなり強い雨のせいか流石のラウディでも行く手を阻まれる。

「ラウディ様! オレが道を切り開く!」

 後を追って出てきたウルフがラウディよりも先に走って、雨を切り裂いていく。
 ラウディもピタリと後ろについて走っていくと、ようやく恵みの樹の広場が見えてきた。

「ハルー! いるか?」

 ウルフが声をあげるが、ハルの姿は恵みの樹の側では見当たらない。
 手分けして探していると、側の木の下で倒れている人影がラウディの視界に飛び込んでくる。

 ラウディが慌てて駆け寄ると、ずぶ濡れになったままの姿のハルが倒れていた。

「なんだってこんなところに? まさか……風に飛ばされたのか?」
「ハル……ハル!」

 ラウディは泥だらけになるのも構わず駆け寄ってハルを抱きかかえ、大きな声でハルの名を何度も呼ぶ。
 ウルフも必死に様子を覗き込みながら声をかけ続けるが、返事はない。

 ハルの身体は冷え切っていて、顔色は白く意識もない。
 倒れてからどれくらい時間が経っているのかは分からないが、危険な状態だろう。

「もしかしたら、頭をぶつけているかもしれない。息はしているようだが、鼓動の音が弱い。一刻も早く身体を温めて治療しよう」

 ラウディは頷き、ウルフは来た時と同じように雨の中を先導して走り抜ける。
 ウルフが雨避けになるおかげで、ラウディは素早く駆け抜けることができた。

 そして、ハルは神殿の中にある治療室へと運び込まれたのだった。
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