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第六章 バグる距離感

49.育成からまたお手伝いへ

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 嫌な予感というものは的中するものだ。予想通りの言葉が耳に飛び込んでくる。
 
「俺様の言った通りだったな。という訳で、俺様のことも遠慮なくシアンと呼んでいいぞ」
「ですよねー」
「なんだよ、不満か?」
「いいえ、別に」
 
 俺が作り笑顔を向けると、思いっきり頭をなでまわされた。
 今度はペット扱いか? あぁ……俺が望んでいない方向へどんどん転がっていく気がする。

「そうやって可愛くないところも含めて、気に入ってるから安心しろ」
「ハイ、トテモコウエイデス。アリガトウゴザイマス」
「ハハハ! 全然心がこもってないな! ま、いいか」

 ケラケラと楽しそうに笑いながら、満足そうにシアンも行ってしまった。
 はあ……疲れる。
 
 +++
 
 光と闇の精霊を見送って、やっと育成ができるようになった。
 リュックを下ろして、前回と同様に道具を使って樹を手入れしていく。
 何も考えずに、黙々と作業するのは元々嫌いじゃない。

「ふう。とりあえず一通りは育成作業ができたな。カティの恵みの樹は、っと……」

 自分の恵みの樹と見比べてみる。俺の恵みの樹は俺の世界でも見かけるような平凡な樹に見えるけど、カティの樹は葉がところどころ尖っていて全体的に赤みを帯びている。
 そして、時々キラキラと葉が輝いていた。

「へえ……精霊の力のバランスによって見た目も変化するんだな。こう見ると、炎と光の影響を受けてるって分かるな」

 炎の色味と光の輝きか。俺のは特に特化する部分がないから、見た目も地味で普通ってことだ。
 なんというか……乙女ゲームらしくないけど、俺らしい恵みの樹に育っている気がした。

「うん。順調だ。次の中間報告がそろそろくるはずだし、俺も頑張り時だな」

 今日のところは道具三回分といういい結果だし、お手伝い育成ループを続けていくしかないな。
 一通り作業をしたところで、誰かのところにお手伝いへ行こうとリュックを背負い直す。
 本当は図書館のフェアリーが一番近いんだけど、さっきアウレリオルにあったばかりであまり行きたくない。

「そういえば、バードのお手伝いってまだしたことなかったな」

 昨日偶然あったけど、あれはウルフのお手伝いだったしな。
 バードはいつも森の中で食事の材料を探してるはずだ。

「さて、バードはどこだったかなっと……」

 恵みの樹から離れて、また森の中へ戻る。
 確か湖の近くだったよなと思いながら、サクサクと森の中を進む。

「イアリスとウィンの住処は近いはずだから、記憶だと確かこの辺りだったような……」

 森の中も往復で大分探索しているけど、景色に大きな違いがないから初めての場所は迷いやすいんだよな。
 俺がキョロキョロしていると、視界の端に青い影が見えた気がした。
 慌てて追いかけようとすると、急に脇から飛び出てきた誰かにぶつかりそうになる。

「わっ! って、あれ?」

 ぶつかったと思ったのに、身体はふわふわした何かに支えられている。
 一体何なのか始めは分からなかったけど、俺がゆっくりと体勢を整えるとふわふわはパッと弾けて消えてしまう。

「すみません、前を見ていなくって……って。ウィン?」
「ハル、そんなに急いでどうしたの?」

 ウィンは平然とした表情のまま、俺を見て首を傾げた。
 ウィンだったらバードの場所は分かるよな。聞いた方が早そうだし、ここは思い切って聞いてしまおう。

「バードのお手伝いをしたことがなかったなと思って、バードを探していたんです」
「バード? バードならそっち。今は夕飯の材料を集めているところ」

 ウィンがスッと指を差した方向に、くちばしに枝を咥えてぱたぱたと忙しなく動いているバードが見えた。
 枝には栗みたいな果物らしきものがぶらさがっているのが見える。

「ありがとう。それと、ぶつからないようにしてくれて助かった」
「それくらいなんてことない」

 ウィンは頷いたけど、まだ何か言いたそうな感じがする。
 最近ラウディで慣れてきたせいか、無言の中の訴えが分かるようになってきてるのかもしれない。
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