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第六章 バグる距離感

43.夢うつつ

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 俺が黙っていると会話も特に続かない。一体何をしに来たんだか。
 俺たちが沈黙していると、バードが困ったように机の上をウロウロと歩き始めた。

「あの、俺は別に大丈夫です。少し疲れて昼寝はしてましたけど、特に問題ありません」
「そう」
「ウィン様はいつも言葉が足りなくて、悪い方ではないのですが……」
「それは気にしてません。ただ、用事が終わったならお帰りいただいても……?」

 帰れなんて言いづらいけど、このままじゃ休むこともできなさそうだ。
 すると、ウィンドライはじっと俺のことを見つめてくる。

「……なんでしょうか?」
「オレとは……仲良しではない?」
「は?」

 ウィンドライは何を言ってるんだ?
 俺は困ってバードに助けを求める。するとバードはパタパタと羽をはばたかせながら、ウィン様ファイト! と応援し始めた。
 バードの応援に頷いたウィンドライは俺の方を見ながら口を開く。
 
「兄さんのことをイアリスって呼ぶなら、オレのこともウィンでいい」
「ええと、お言葉ですが。俺とウィンドライ様は仲良しというほどではないですし、お互いのこともよく知りませんよね?」

 要は兄とおそろいにしてほしいってことか?
 兄弟だから? よく分かんないけど、また厄介なことになってきた予感がする。
 俺は距離を置こうとしているのに、なんでみんな距離を縮めてくるんだ?
 
「俺に愛称呼びを許す理由は、イアリスが俺に愛称呼びを許したからですか?」
「そう」

 あっさり肯定された。
 正直よく分からないけど、イアリスと同じくベタベタしてくるタイプではなさそうだしな。

「分かりました。では、ウィン。今日の用事は以上でしょうか」
「以上。それだけ言いに来た」
「ハルさん、ウィン様共々これからもよろしくお願いします」
「はあ……よろしくお願いします」

 用事が済んだらしい二人を見送ってから、バードが用意してくれた夕食を食べ始める。

「この世界って精霊より下級精霊の方が話が通じるってこと?」

 バードも俺とウィンの様子を気にしながら話してくれてたし、ウルフは俺の立ち位置を理解してくれた気遣いをしてくれた。
 モグは常にラウディのことを最優先して一生懸命だし、ユニコはいつもイアリスの手伝いをしている。

「フェアリーはよく分からないけど、カラスは寡黙で良い人そうだったな」

 そもそも、俺がこんなに登場人物たちのことを考える必要もないんだけど……気づけば考えてしまう。

「俺、この世界に愛着が湧いてきたのかな」

 考えながらご飯を食べ終え、ごろんとベッドに横になる。
 シャワーに入るつもりが結局眠気に勝てず、次第に意識が遠のいていった。

 +++

「お兄様!」
「〇〇! もう、部屋に来るなと言っただろう」

 あれ? もしかしてまた夢を見てる?
 目の前の女の子は可愛らしい服を着ている。まるで貴族の令嬢みたいな……。
 この前の夢の続きか?
 名前を呼んだはずなのに、名前の部分が聞き取れない。
 
「いいえ、お兄様。言わせていただきたいことがあります。お兄様は何も悪くありません。ですから、一人で抱え込まないでください」
「……俺のことはいい。それより、お前は父上の道具にされる前にこの家から出るんだ。お前ならきっと良い方が見つかるはずだ」

 目の前にいるのは妹なのか。ということは、ライバルの妹?
 妹に対してはライバルも癇癪かんしゃくをおこしたりしないし、むしろ心から心配してる。
 俺にはそれがよく分かる。

「わたくしのことはいいのです。わたくしは嫁ぐしか能のない女の身。お兄様はこの家に必要な当主になられる……」
「当主だって? 笑わせるな! 俺には才能がないんだ。未だに精霊使いの能力だって目覚める気配もない。精霊の存在なんて何も感じない!」

 嫁ぐことしか能がないだなんて、現代で言ったら大変な差別用語だ。
 俺は妹の言葉を聞いて激しく叫び、バッと腕を横に払って花瓶をなぎ倒す。
 床に落ちた花瓶がパリンっと割れると、妹が悲しそうに瞳を潤ませた。

「お兄様……お兄様なら大丈夫です、わたくしはお兄様のことを信じています」

 妹は俺に駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きしめてくる。
 俺はそんな妹を見捨てることはできず、抱きしめながら涙を流していた――
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