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第四章 黙々と育成からのお手伝いループ

23.光の精霊の警戒態勢

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 さっき会ったばかりだから余計に気まずい空気が流れる。
 俺はもう用も済んだし、ここから退出したいんだけど……アウレリオルが唯一の出入り口を塞いでいるせいで身動きができない。

「お前が図書館に何の用かと思えば。手伝いだと?」
「はい。でも、もう済みましたのでこれで」

 話すこともないから、速やかに出て行こうと思って挨拶をしてみる。
 軽く頭を下げて一歩踏み出すと、待てと言われてしまった。
 仕方なくその場で踏みとどまる。

「そなた、記憶喪失だと言っていたな。しかし……ここ数日の報告をまとめると、記憶喪失どころか別人のようだ」
「……」

 俺の行動は見張られている? って訳じゃないかもだけど……光の精霊は精霊たちのまとめ役だからな。
 元々真面目な性格だって人物紹介に書いてあったし、俺の様子を見るために情報収集でもしているのかもしれない。
 
 俺は……本当に別人だし。当たっているので何も言えない。
 だけど、ここはゲームの世界で俺はゲームの外から来ました!
 なんて言ったところで、通じる訳もない。
 嘘だと思われるとしても、真実を明かすわけにはいかないよな。

「すみません。本当に記憶がないもので。俺からお伝えできることはありません」
「記憶がないと人というのはここまで変わるものなのか? それとも……記憶がないフリをして我らを油断させるつもりか」

 アウレリオルの視線が鋭く俺を射抜いてくる。
 自然とゴクリと喉が鳴ってしまうが、うまい切り抜け方が浮かばない。
 フェアリーたちは心配そうに状況を見守っているけど、室内には緊張した空気が流れる。

「俺がご迷惑をおかけしていたことは聞きましたが、今は本当に嫌がらせをする気も、使命を放棄する気もありません。なので、失礼させていただきたいのですが……」

 俺が訴えても、アウレリオルは美しい銀の双眸そうぼうを潜めて俺のことを観察してくるばかりでどいてくれない。
 これ以上何を言えばいいのか、これじゃあ膠着こうちゃく状態だ。
 フェアリーたちも困っているのか、くるくると何度もアウレリオルの側を飛んでいたその時――

「……」
「ん? グラウディか」

 ぬっと灰緑の頭が図書館の中へ入り込んできた。
 グラウディの方がアウレリオルより身長が高いので俺にも入ってきたのは見えたけど……本でも借りに来たのか?

「アウレリオル様、こんにちはぁ! それにフェアリーのみなさんも! あれ……ハルさん? よくお会いしますねぇー」

 グラウディの肩の上からモグがひょこっと顔を出して、手を振っているのが見えた。
 モグの妙な話し方にもだいぶ慣れたせいか、会えて内心安心してしまう。

「グラウディが直接ここへくるのは珍しいな。本でも取りに来たか」

 グラウディは直接答えずにモグへ耳打ちする。グラウディは精霊同士で話す時も声を出そうとしないんだな。

「え? ……ええとですねぇ。ラウディ様はハルさんに用事があるそうです。ハルさんは今、何をしていらっしゃいますかー?」
「俺は本の片付けが終わって、アウレリオル様とお話をしていたところで……」

 俺がアウレリオルに視線を流すと、アウレリオルは一瞬考える仕草をしてからフウと息を吐き出した。
 そして、もうよい。と言って身体をズラしてくれる。

「ご用事は終わったんですねー? では、ハルさん。すみませんがご一緒に来てくださぁい」
「分かった」

 俺は今度こそ図書室から出ることができた。
 最後までじっとアウレリオルに観察されていたのは気になるけど……別に今は何も危害を加えるつもりもないのにな。
 しっかし手伝いをしたくらいで……ここまで警戒されることか?

 俺を連れ出してくれたグラウディとモグとは今朝別れたばっかりだけど……用事ってなんだろう?
 俺は土の精霊にも警戒されてるってことかな。
 図書館を後にしてしばらく無言で歩いていると、モグがきょろきょろと周りを見回す。

「はい、この辺りまでくれば大丈夫そうですねぇ。良かったぁ」
「大丈夫そうって……どういうこと?」

 俺が首を傾げると、モグがそれはですねぇと言ってパッと手をあげた。
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