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第一章 チュートリアル

3.土の精霊

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 ゲーム画面では水の精霊リバイアリスと一緒に施設をまわる序盤のチュートリアルが始まっていた。
 精霊たちは各々お気に入りの場所で過ごしていることが多く、その場所も覚えなくてはならない。

「土の精霊はただ会いに行くだけじゃ嫌われてしまって終わりなんだよな。距離間を保ちながら、彼のトラウマを癒すことができればいいらしいが……」

 土の精霊はトラウマがあるとキャラ紹介に書かれていたが、具体的にそれが何かはもちろん分からない。
 うまく聞き出さないといけないのだが……彼は何かしら大きなショックを受けていて一言も話してくれないという設定だ。
 プレイした人の投稿を見る限り、土の精霊は構いすぎても構わなすぎても嫌われてしまうらしい。

「会話を選択していくのは分かるけど、表情だってロクに見えないってのにどうやって好感度が分かるって言うんだよ……」

 しかも全体的な難易度が高い原因として、好感度の値が隠しパラメーターとして存在している。
 普通は数値化されてステータス画面で見れそうなものだが、それすら見えない状態なのだ。
 好感度は精霊に会って挨拶をしたときの返事で大体察するしかないらしい。
 しかも、土の精霊は喋らないせいで無言の雰囲気と顔の向きで察しろとかいう意味の分からない仕様だ。

「制作チームは何を考えてこのゲームを作ったんだ? 今は簡単サクサクプレイの時代だってのに」

 この会社自体が新進気鋭の新しい会社で、昔の乙女ゲーが大好きだという人たちが集まって作ったという話だ。だから難易度が鬼畜なのだろうか?

 リバイアリスの丁寧な説明を聞きながら、いよいよ土の精霊と出会う場面になった。
 噂の土の精霊の顔を拝んでやろうと、俺はじっとゲーム画面を見つめた。

『こちらが土の精霊のグラウディです。……ラウディ?』

 水の精霊が大きな樹の下で寝転んでいる土の精霊に話しかけるが、返事はない。
 それどころか拒絶するように身体の向きを変えられてそっぽを向かれてしまった。

『また寝たふりをして……。すみません、彼には彼の事情があるのです。そっとしておいてあげてください』

 リバイアリスが申し訳なさそうな表情で説明してくると、チュートリアルだが選択肢が現れる。
 はい大丈夫です。というのと、何があったんですか? という二つだ。

「これ、どっちも違うと思うんだが……まあ、チュートリアルだしどっちでもいいか」

 俺は特に何も気にせず、はい大丈夫です。の選択肢を選ぶ。
 すると、目の前にドンと大きな土壁が地面から飛び出してきた。

『……やはり、起きているじゃないですか。彼は我々と暫く生活を共にするのですから、そのような態度を取ってはいけませんよ』
『……』

 壁の向こう側からは何も返答はない。チュートリアルなのに選択肢をミスってる気がする。
 まさか、ここからもう高難易度が始まっているなんてことはないだろうな?

「……嫌な予感がするから、選択肢は全てメモしておこう」

 一旦スマホを手に取り、メモアプリを起動させて選択肢を打ち込んでいく。
 地道な作業だが、総当たりするには必要な作業だ。

 +++

 三時間くらいプレイしてみた感想だが、ゲーム自体はやり込み系で作業を覚えてしまえばそこまで難しくはない。
 問題は恋愛エンドだ。これは何度も周回してキャラごとの特性をある程度叩き込むしかない。
 彼らが喜ぶ答えを言って、彼らの関係性を知っていく。
 そのうち距離が縮まれば、色々な話を聞くことができてヒントがもらえる。

「はあ……グラウディ。あんたは人間関係も狭すぎる」

 妹の本命のグラウディのトラウマを知っているのは、どうやら水の精霊と闇の精霊だけらしい。
 水と闇の精霊の好感度をあげてグラウディの話題を振ると少し話してくれるのだが、詳しくは言葉を濁して何も言ってくれない。

 だが、グラウディがたまに見せる表情は、俺まで胸の奥がチクリと痛む気がした。
 人間関係で何かトラブルがあったのは間違いないんだが、グラウディに聞く選択は悪手だろうし試す気にもならない。
 それに……攻略が面倒臭い。いつ攻略が終わるのやらだ。

「ふわぁぁ……」

 単純作業が続くと眠気が襲ってくる。大あくびをしてしまった。
 そういや、昨日からあんまり寝てなかったことを忘れてた。
 だんだんとぼやけてくる視界に、今も何をしているのかも分からなくなってくる。

 「ダメだ……限界……」

 俺の手からゲーム機が離れていく感触と共に、あっという間に意識は眠気に飲み込まれていった。
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