彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

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第八章 僕の素顔は彼しか知らない

85.早い決着

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 勢いよく伸びた鞭は、手甲の繋ぎ目の留め具部分にぶち当たる。
 装備する際にガッチリと固定するのものだが、リューは相手の動きを読んで振り払うときに確実に金具部分へ銃弾が触れるように撃っていた。
 相手の体格と腕の振るう角度を瞬時に察しての行動だったのだろう。

(常人にはできないことだよな。大男と少しの時間、対峙しただけなのに……しかも装備の弱点をさらすようなやり口を選ぶところがリューらしい)

 僕は心の中でリューを褒め称えながら、自分の振るった鞭の軌道を目で追っていく。

「貴方とは力と体格差がありますから鞭を振るったところで私を止めることは……なっ!」
「おい、何故立ち止まる? さっさとアイツを始末しに……は? な、ななな……」

 二人は驚いて固まってしまった。
 僕はリューの指示通りのところへ鞭を当てることができ、衝撃で留め具が緩みバラバラと分解されて地面へと落下した。
 今は大男の利き手の右側だけだが、やろうと思えば左側も外すことができるだろう。
 リューの正確無比な射撃があってこそ、僕は言われた場所へ当てることさえできればいいというお膳立てをしてもらった訳だ。

「最新型の手甲も、使い方によっては防御が甘くなって分解するみたいだな。兄さん、この結果もしっかりと伝えた方がいいと思いますよ」
「バカな! そんな狂人が……」
「きっと何か不備があったのでしょう。私の武器はこれだけではありません! こちらのナイフも……」

 大男は気を取り直して、今度はナイフを振りかざして僕へと襲い掛かってくる。
 すると、リューがすかさず僕と大男への間へ入って懐から出したナイフと銃で大男のナイフを受け止めながら流す。

「なっ!」
「力はあるが、動きが単調すぎる。体勢を崩されたら、お坊ちゃんを守れないな」

 ギギギッ! と刃が触れ合う嫌な音が響いた後、リューは身体を捻って真上へ蹴り上げる。
 仕込みブーツからの刃が大男へのナイフへ当たり、ナイフは吹き飛んでいく。
 仕方なく両腕で掴みかかろうとした大男の足元へと身体を潜り込ませ、素早く手と手を組むと肘を振り上げて大男の顎へぶち当てた。

「うぐぅっ!」

 まともに食らえば、体格差があろうと意識は保てないだろう。
 大男はぐらりとふらつき、ばったりと地面へと突っ伏してしまった。

「つ、使えないヤツめ! こうなったら僕が!」

 兄さんがまた銃を構えたところをすかさず鞭で横なぎにして叩き払う。
 あわあわしているところに素早く近づいて、口を耳元へ近づけた。

「父さんにいくらでも言いつければいい。僕はもう家とは関係ないし、メルセネールで生きていくと決めた。だから……二度とリューとオレに手を出すなよ、クソ兄貴が」
「なっ……ぐわっ!」

 今までの苛々をぶつけるように、僕も両手を握りしめ兄さんの後頭部へ叩き込んでやった。
 脳震盪を起こしたのか、兄さんもそのまま前のめりになって地面へと倒れていった。

「ふぅ……スッキリした」
「やはり、お前は実力を隠していたな。元々精密な攻撃が得意なことは知っていたが」
「言っておくけど、接近戦はごめんだ。兄さんには色々と思うことがあったし、恨みを晴らしたってヤツかもな」

 僕たちの訓練を見守っていたギルド長も、満足気な表情で豪快に笑い始めた。
 僕たちに近寄ってきて、背中をバンバン叩き出す。

「ガハハハ! お前らは期待以上のバディみたいだな。アルヴァーノにゃ悪いが、ロイル商会のやり口は俺もムカついててな。イイ宣伝だった!」
「痛いですって! というか、ギルド長は僕の事情も全てご存じだったのによく僕を置いておいてくれましたよね。そこは感謝してますよ」
「この人は昔からそういうところがある。気に食わないが、俺も何度も助けられた」

 リューがウザったいと言わんばかりにギルド長の手を掴んで振り払うと、つめてぇなと笑いながらリューの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。
 嫌がられてると分かっているのに、リューのことが可愛くて仕方ないんだろうな。
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