彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

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第七章 心を焦がすモノ

63.自然と溢れてくるモノ

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「どうした? 大丈夫?」
「……」

 リューが小刻みに身体を震わせたかと思うと、何も喋らなくなった。
 それはいつものことだから気にしてはいないけれど、僕の肩が温かいもので湿って……。

 (え、まさか、僕が泣く前に泣いている?)

 慌ててリューの肩を掴んで少し身体から離すと、確かにリューの両目から涙が流れていた。
 しかも、ボロボロと泣いているみたいだ。

「待って、僕が泣く前に泣いて……」
「分からない……が、急に目頭が熱くなって、止まらなくなって……」

 次々と溢れてくる涙に僕の方が動揺していたのだけれど、何だかもらい泣きしてしまって僕の目からも涙が流れてきた。

「さ、先に泣くなよ……何か、つられる……」
「悪い……だが、止まらなくて、こんなことは、初めてだ。どうすればいいか……どうしたらいい?」
「どうもしなくても、そのまま泣いていていいよ? 別に止めなくても、いいから。僕に何かあったらって、思ってくれたとか?」
「……それは」

 困った顔をして目を伏せているが、相変わらず涙は止まらない。
 どうやら本当に心配してくれていたようだ。
 あんなに無関心だったのに、僕のことを気にしてくれていたことが凄く嬉しかった。

「何となくでも、なんでもいい。そう思ってくれたのなら、嬉しい」
「良く分からない、分からない……が、お前をこんなところで死なせたくなかった。俺はいつ死んでも別に構わないが、お前は……」

 とんでもないことを言うので、その口を塞ぐようにキスをした。
 リューは困惑したままだったが、抵抗はしてこない。

 唇を離して、リューの瞳を真っ直ぐに見つめる。

「そんなこと、言うなよ。リューが死んだら困る。僕も、たぶんギルド長も」
「アリィ……」
「リューがそう思ってくれたのと同じように、それ以上に、リューも生きてくれないと困る」

 甘えるようにギュッとリューに抱きつくと、リューもゆっくりと、だけどしっかりと抱き返してくれた。

「リューが少しでもそう思ってくれることが、本当に嬉しいから」
「そうか……」

 リューは漸く泣き止んだみたいだ。
 珍しく潤んだ瞳は赤くなっていて、普段では考えられないようなどこか不安げな表情をしていた。

 僕があやすように目尻にキスをすると、擽ったそうに目を瞑る。

「リュー……どうしよう、今凄くリューを可愛がりたい」
「お前、また何を言い出して……」
「泣いたり、不安そうにしているリューを安心させてあげるから。大丈夫、僕は生きてる」
「あぁ。そうだな。取り乱して、悪かった」

 何故か謝ってくるリューがおかしくて、フフっと笑ってしまう。
 怪訝そうな面持ちをしているリューに甘えるように頬を擦り寄せた。
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