彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

文字の大きさ
上 下
66 / 94
第七章 心を焦がすモノ

61.白い世界の中で<アリィ→リューSide>

しおりを挟む
 暫く耐えると何とか収まった気配はするが、とても息苦しい。
 リューがゆっくりと目を開いて、そのまま、と言うので、大人しくゆっくりと深呼吸だけする。

 何とか呼吸する空間は確保できているのが幸いだった。
 リューがゆっくりと雪を掻き分けていく。

「リュー……」
「いいから、動くな。ゆっくりと溶かして退かす」

 リューがはめているグローブにも熱が出る魔石が付いているので、慎重に雪を溶かしていく。
 溶かしている間、僕は冷たい空気を吸いすぎないように静かにする。

 その作業を続けていると、何とか外へと繋がる穴が広がってきた。
 それを見て安心したら、なんだか眠くなってくる。
 寝てはいけない気はするが、どうしても睡魔に勝てない。

「よし、これで少しずつ……」

 (リュー……ごめん。ダメかも……)

 僕はリューの手を握りしめたまま、だんだんと視界が白で埋め尽くされていく気がした。

 +++

 作業に集中していて、アルヴァーノの変化に気づけなかった。
 気づくと繋がれていた手が解けていく。

「アルヴァーノ? 寝るな、起きろ!」

 慌てて頬を叩くがその頬も大分冷えてきている。
 自分の手も感覚はとっくになくなっているが、急ぎ脱出しなければならない。

 無心で外へ続く穴を広げると、雪崩が止まっていることを確認して足を何とか踏ん張り身体を少しずつ外へと出していく。

 何とか表面から顔を出して、辺りの様子を確認する。
 雪崩で魔物も人も流されたのか、静かな銀世界だけが広がっていた。

 まずは自分の身体を引きずり出してから、無理矢理手に力を込めてアルヴァーノも何とか引っ張り上げていく。

「――ック」

 寒冷地仕様の装備でなければ凍傷になって、身体が使い物にならなくなっていただろう。
 それでも冷たいものは冷たく、力を容赦なく奪っていく。

 こんなところで死ぬわけにはいかない。
 俺はいつ死んでも構わないと思っていたが、アルヴァーノを死なせてはいけないと心の奥がジリジリと焦げるような感覚に襲われて、身体が勝手に突き動かされる。

 焦燥感? それとも?

 今はゆっくりと考えている暇はない。
 他のヤツらが全滅したとしても、それは自らの行いの愚かさの結果だ。

 漸く身体を引っ張り上げたアルヴァーノの身体はかなり冷え切っていた。
 意識も戻らない。
 自分の身体も暖かくないが、アルヴァーノを背負って歩を進める。

 記憶が確かならば、この先に小屋があったはず。

 一歩、また一歩。
 不安定な雪の上を探りながら、必死に歩き続ける。

 +++

「……はぁっ、はぁっ……」

 目が霞んできた。
 息もしているのか、していないのか分からない。

 それでも足だけは止めずに進んでいると、漸く茶色が目に飛び込んできた。
 ――避難小屋だ。

 ふらつく足で木の階段をのぼり、片手を伸ばしてなんとか木の支えを外す。

 カラン、と乾いた音がした。
 扉を慎重に開ける。

 中は本当に大したものは何もなかったが、暖炉があるのが見えた。
 後ろ手で扉を閉めて室内へと進み、暖炉の前にアルヴァーノを寝かす。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...