彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

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第六章 二人の距離感

56.無意識の行動

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「顔色悪いか?」
「いや、そんなことはない」
「弱っている方が魅力的とか?」

 僕がふざけたことを言うと嫌そうな顔をした。
 この反応はいつも通りみたいだ。

 だが、それでも僕を眺めたまま視線を外さないのはどういうことなのだろう?

「僕としては嬉しいのだけれど、どういう風の吹き回し?」
「少し観察させてもらっているだけだ。嫌ならばやめる」
「そんなことはないよ。僕に興味を持ってくれるのは嬉しい」

 何気なく言うと、リューは今度こそ眉を寄せて妙な顔をした。
 不機嫌ではなく、混乱しているという感じだろうか?

「リュー……?」
「やはり……いや、いい」
「言いかけてやめられると気になるな」
「説明できない。今の状態では難しい。説明するには時間がかかりそうだ」

 リューは本当に混乱しているらしい。
 一体何があったのかは知らないが、ずっと僕を見たままだから僕のことなのだろうか?

「それって、僕に関係あること?」
「関係あるとも言えるし、ないとも言える。答えが出るかどうかは分からないことだ」
「ふぅん。よく分からないけれど……何か気になるなら遠慮せずに聞いてくれ」
「分かった。今は……」

 リューは僕に手を伸ばしてきた。
 そして、僕の頭を撫でるような動きをする。

 したところで自分の行動に驚いたのか、その手を引っ込めてしまった。

「ん? 撫でたくなった?」
「撫で……撫でたい? いや……」
「でも今、撫でただろう?」
「……」

 リューは自分の手と俺の頭を交互に見て、分からない、という顔をしていた。

 (無意識で僕に興味を持ち始めた……とか?)

 もしそうなら、凄い一歩だ。
 僕自身の反応が気になったのかもしれない。

 その後は無言で考え込んでしまったので、僕は微笑して逆にリューを撫でた。

「別に追求するつもりじゃない。好きにして構わない。僕も好きにしているのだから」
「……あぁ」

 答えたが、リューは上の空だった。
 自分の手を見たままずっと考えているようだ。

「そんなに考え込まなくても……リューは僕のことを心配してくれたから、でしょう?」
「それは、そうなんだが。俺は……」

 こんなにキレが悪いのは珍しい。
 しかも黙らないで口に出してくれているから分かりやすいし。

 リューは多分、自分の行動に戸惑っている。
 そして何故行動したのかが分からないんだと思う。

 (何か感じてくれているんだろうけど、きっかけが良く分からないな……。何にせよ、リューは俺のことを心配して、無意識で撫でたくなった。そういうことだ)

「リュー、ありがとう」
「別に礼を言われるようなことはしていないが」
「こうして側にいてくれるだけで嬉しいから」
「嬉しい? 今、寝転んでいるだけなのにか?」

 眉間に皺を寄せて考え込むリューの額に指先を当てて皺を伸ばす。
 腑に落ちないという表情をしているリューに少しだけ助言になればと口を開く。
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