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番外編
番外編 ミューンとシルヴァ4
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盗賊の頭は俺へ剣を向けているが、ここで普通に倒してしまって良いのだろうか?
お嬢さんは強い男が好きなどと言っているが、俺たちが依頼を成功させるためにはお嬢さんを納得させる必要がある。
「コイツは縛られるのは嫌いなんだ。それに、つまらない男に興味はねえ。その点俺ならいつでも刺激を与えてやれる」
「私はこの身分にも飽き飽きしていました。ですから、未知の世界へ飛び込んで貴方と一緒に過ごした。それに盗賊稼業を行うのはあくまで悪人からのみ。か弱い者からは搾取していないのです」
頭の言っていることが事実かどうかは分からない。
ただ、認めてしまえば彼女は街から姿を消してしまうだろう。
どうしたものかと様子を窺っていると、三日月の耳飾りから相棒の声が聞こえてくる。
『シルヴァ、そいつは嘘を吐いている。ヤツの手にはめられている指輪は、ある高貴なご婦人が命の代わりに差し出したものだ。依頼書で確認したから間違いない』
ミューンのヤツ、別の依頼も同時に受けていたという訳か。
ならば、迷うこともない。
ミューンが逃さないようにこの場へ留めている間に、俺はすべきことを実行するのみだ。
「残念だが、ソイツの手にはめられている指輪は罪のないご婦人から掠め取ったものだ。お嬢さん、あんたは悪事に身を染めてまでその男と添い遂げるつもりか?」
「そんな、貴方……私を騙したの? 盗みをするのは孤児たちにパンを配るためだと言ったじゃない!」
「ま、まさか。俺よりこの男の言うことを信じるってのか? なら俺にも考えが……」
俺は問答無用で頭との距離を詰めると、お嬢さんを掴もうとした手を剣の柄で叩き落とす。
「ぐあっ!」
失礼と小声で断りながら剣を仕舞い、お嬢さんを抱き上げてすぐさまその場を離れた。
ミューンにお嬢さんを託し、再度駆ける。
「え、え?」
「心配いらない。疾風は仕事が早い。貴方もここで安心して見ているといい」
ミューンの声を耳で受けながら、武器を拾おうとしていた頭へ追撃の一撃を食らわせ鎮圧する。
同時に魔法を解いたミューンが、魔法の縄で頭を縛り上げた。
「大したことなかったな」
「シルヴァが迅速に処理をしたからだ。俺が表に立たずとも解決できただろう?」
「それはそうなんだが……お嬢さんは?」
俺が訪ねると、物陰に隠れていたお嬢さんは俺をじっと見つめてきた。
何か粗相があったのだろうか?
「シルヴァ様と仰るのですか? お強いのですね。銀の髪が揺れるお姿も……素敵でした」
「は?」
「さすがシルヴァ。これで素直に言うことを聞いてくれそうだな。おっと、お嬢様をお送りして自警団に奴らを引き渡そうか。シルヴァに惚れているうちにな」
「なんだと? ミューン……お前、どこまで予想していたんだ。しかし、惚れっぽいお嬢さんだ。俺みたいなのにまで好意を抱くとは……」
お嬢さんに聞こえないように小声でやり取りしていると、帰りましょうと楽しそうに促してくる。
俺たちはさっさと依頼を終わらせてしまうことにした。
+++
人騒がせなお嬢さんの依頼は無事終えることができ、ミューンが受けていた依頼の報酬をまとめてもらうことができた。
お嬢さんを引き剥がすのに少し苦労したが、身分不相応だと辞退させてもらい何とか宿まで戻ってきた。
ベッドへ腰かけ、装備を下ろしながら一息つく。
「貴族のお嬢さんってのは変わり者が多いのか? 思考がさっぱり分からん」
「いや、分かりやすく恋に落ちていただろう。それを利用したまでだ。シルヴァがいたからこそ無事終わらせることができた」
ミューンは笑いながら俺の隣へと腰かけて馴れ馴れしく肩を組んでくる。
俺のおかげなどと言うが、全ては計算づくで動いていたミューンがいたからこそだ。
正直俺は身体を動かしただけで、深く考えてもいなかった。
俺が俯いて考えこんでいると、両肩を掴まれじっと瞳を覗き込まれた。
「だからお前はうじうじと考えるな。迷わず動け。お前の道は必ず照らされるのだから」
「そうだな、相棒。俺は照らされた道を突き進む。それでいいよな。って、また適当なことを言って……全く仕方のないヤツだな」
ミューンの言葉は時々真っ直ぐに俺の心を捉えてくる。
普段はくどい言い回しをするというのに、俺が立ち止まると俺を導くように心強い言葉を紡ぎ出す。
その言葉一つで、俺はいつも頭の中にかかった靄が晴れていく。
月の光は、闇を照らす聡明な光だ。
「その言葉遣いが盗賊と間違えられるのではないか? もっと丁寧に受け答えをした方がいい」
「お前こそ、長ったらしく上から物を言う癖を直したらどうだ? 可愛いお嬢さんに好意を抱かれたかったらな」
「フン。調子にのるなよ? 今回は私の綿密な計画がシルヴァの持つ能力を存分に生かして……」
話はまだ続くらしい。俺はミューンの涼やかな声を聞きながら、ベッドへ身体を倒して瞳を閉じた。
お嬢さんは強い男が好きなどと言っているが、俺たちが依頼を成功させるためにはお嬢さんを納得させる必要がある。
「コイツは縛られるのは嫌いなんだ。それに、つまらない男に興味はねえ。その点俺ならいつでも刺激を与えてやれる」
「私はこの身分にも飽き飽きしていました。ですから、未知の世界へ飛び込んで貴方と一緒に過ごした。それに盗賊稼業を行うのはあくまで悪人からのみ。か弱い者からは搾取していないのです」
頭の言っていることが事実かどうかは分からない。
ただ、認めてしまえば彼女は街から姿を消してしまうだろう。
どうしたものかと様子を窺っていると、三日月の耳飾りから相棒の声が聞こえてくる。
『シルヴァ、そいつは嘘を吐いている。ヤツの手にはめられている指輪は、ある高貴なご婦人が命の代わりに差し出したものだ。依頼書で確認したから間違いない』
ミューンのヤツ、別の依頼も同時に受けていたという訳か。
ならば、迷うこともない。
ミューンが逃さないようにこの場へ留めている間に、俺はすべきことを実行するのみだ。
「残念だが、ソイツの手にはめられている指輪は罪のないご婦人から掠め取ったものだ。お嬢さん、あんたは悪事に身を染めてまでその男と添い遂げるつもりか?」
「そんな、貴方……私を騙したの? 盗みをするのは孤児たちにパンを配るためだと言ったじゃない!」
「ま、まさか。俺よりこの男の言うことを信じるってのか? なら俺にも考えが……」
俺は問答無用で頭との距離を詰めると、お嬢さんを掴もうとした手を剣の柄で叩き落とす。
「ぐあっ!」
失礼と小声で断りながら剣を仕舞い、お嬢さんを抱き上げてすぐさまその場を離れた。
ミューンにお嬢さんを託し、再度駆ける。
「え、え?」
「心配いらない。疾風は仕事が早い。貴方もここで安心して見ているといい」
ミューンの声を耳で受けながら、武器を拾おうとしていた頭へ追撃の一撃を食らわせ鎮圧する。
同時に魔法を解いたミューンが、魔法の縄で頭を縛り上げた。
「大したことなかったな」
「シルヴァが迅速に処理をしたからだ。俺が表に立たずとも解決できただろう?」
「それはそうなんだが……お嬢さんは?」
俺が訪ねると、物陰に隠れていたお嬢さんは俺をじっと見つめてきた。
何か粗相があったのだろうか?
「シルヴァ様と仰るのですか? お強いのですね。銀の髪が揺れるお姿も……素敵でした」
「は?」
「さすがシルヴァ。これで素直に言うことを聞いてくれそうだな。おっと、お嬢様をお送りして自警団に奴らを引き渡そうか。シルヴァに惚れているうちにな」
「なんだと? ミューン……お前、どこまで予想していたんだ。しかし、惚れっぽいお嬢さんだ。俺みたいなのにまで好意を抱くとは……」
お嬢さんに聞こえないように小声でやり取りしていると、帰りましょうと楽しそうに促してくる。
俺たちはさっさと依頼を終わらせてしまうことにした。
+++
人騒がせなお嬢さんの依頼は無事終えることができ、ミューンが受けていた依頼の報酬をまとめてもらうことができた。
お嬢さんを引き剥がすのに少し苦労したが、身分不相応だと辞退させてもらい何とか宿まで戻ってきた。
ベッドへ腰かけ、装備を下ろしながら一息つく。
「貴族のお嬢さんってのは変わり者が多いのか? 思考がさっぱり分からん」
「いや、分かりやすく恋に落ちていただろう。それを利用したまでだ。シルヴァがいたからこそ無事終わらせることができた」
ミューンは笑いながら俺の隣へと腰かけて馴れ馴れしく肩を組んでくる。
俺のおかげなどと言うが、全ては計算づくで動いていたミューンがいたからこそだ。
正直俺は身体を動かしただけで、深く考えてもいなかった。
俺が俯いて考えこんでいると、両肩を掴まれじっと瞳を覗き込まれた。
「だからお前はうじうじと考えるな。迷わず動け。お前の道は必ず照らされるのだから」
「そうだな、相棒。俺は照らされた道を突き進む。それでいいよな。って、また適当なことを言って……全く仕方のないヤツだな」
ミューンの言葉は時々真っ直ぐに俺の心を捉えてくる。
普段はくどい言い回しをするというのに、俺が立ち止まると俺を導くように心強い言葉を紡ぎ出す。
その言葉一つで、俺はいつも頭の中にかかった靄が晴れていく。
月の光は、闇を照らす聡明な光だ。
「その言葉遣いが盗賊と間違えられるのではないか? もっと丁寧に受け答えをした方がいい」
「お前こそ、長ったらしく上から物を言う癖を直したらどうだ? 可愛いお嬢さんに好意を抱かれたかったらな」
「フン。調子にのるなよ? 今回は私の綿密な計画がシルヴァの持つ能力を存分に生かして……」
話はまだ続くらしい。俺はミューンの涼やかな声を聞きながら、ベッドへ身体を倒して瞳を閉じた。
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