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第五章 レトロ喫茶の運命は如何に

42.謎のエリート紳士(仮)

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 初めての来店でカウンター前に座るお客様は、話好きか店自体に興味があるか……何かしらの意図をもって座る人が多いと思う。
 最近は、レトロ喫茶に興味を持ってくれた女の子が積極的に座ってくれることも多いかな。
 普通の暇つぶしだったら適当な席に座って、スマホを弄ったりしながらのんびりすればいいし。
 わざわざ俺が立ってるところに来ないと思うんだよな。

 で、この目の前の紳士な男の人は……俺よりは年上なんだろうけど、三十代前半くらいかな?
 髪はワックスで整えて軽く流してるみたいで、髪はキレイな黒髪。
 やっぱり何度見ても……仕事ができるエリートですって感じがするんだよな。
 所作や雰囲気が落ち着いているし、大人の余裕を醸し出してる。
 スーツだけじゃなくて身に着けてる時計もちらっと見えたんだけど、時計に詳しくない俺が見ても高そうな気がする。
 絶対、只者じゃない。

「コーヒー、お好きなんですか?」
「家では毎朝飲んでいるが、コーヒーメーカー任せだからね。目の前で淹れてもらうのはまた格別だな」
「そこまでお褒めいただくとお恥ずかしいですが、楽しんで頂けて良かったです」

 俺がお礼を言うと、綺麗に微笑んでくれた。
 レトロ喫茶のマスターの俺に向けてくれる笑顔まで爽やかで、見ているコッチが気恥ずかしくなる。
 まさに理想の上司第一位みたいな雰囲気だ。
 実際そんな気がする。

「この店はずいぶん長く続いているのかな?」
「店自体は昔からあったんですが、祖父から受け継いだ店なので。私がマスターになってからは一年経っていません。まだまだ始めたばかりなんですよ」
「そうだったのか。店自体の雰囲気が懐かしい感じだと思っていたが、君はどう見ても若いから気になってしまって」

 男の人は少し下を向いて何か考えているような仕草をしてみせる。
 なんだろう、この店のことがそんなに気になるのかな?

「君はどうしてこの店を継ごうと?」
「この店に子どもの頃からずっと通っていたんですよ。この場所で出会える人たちと、祖父が淹れてくれるコーヒーの香り……全てが私にとって大切な物なんです」
「そうか。君にとっては特別な場所なのか」

 少しだけ困ったように笑う姿を見ていると、何かが引っかかる。
 俺の話を聞いてから考え込んでいるみたいだし……店の雰囲気やコーヒーは気に入ってくれているのは分かるんだけど、どうしてこの人が困った顔をするのかが分からない。

「若いマスターさんのお名前を聞いてもいいかな?」
「あ、はい。永瀬です。永瀬 蒼樹ながせ あおいと言います」
「永瀬君か。覚えておく。私は北條ほうじょうだ。暫く通わせてもらうつもりだからよろしく頼むよ」
「北條さんですね? こちらこそ、よろしくお願いします」

 北條さんに丁寧に自己紹介されるとは思わなかった。
 これから通ってもらえるなら嬉しいんだけど、もっとお店の話が聞きたいのかな?
 別に隠してることもないし構わないけど、もしかしてレトロ喫茶の経営者だったりして。
 なんて、どうみても会社員っぽいのに違うよな。
 俺が悩んでもこれ以上分からないだろうし、後でとっきーとげんちゃんにも聞いてみようかな。
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