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第一章 レトロ喫茶のマスター、はじめます
1.決意
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大学在学中は、将来のことを漠然と考えていた。
周りが就職活動をしている中、自分も動かないといけないと思って流されるようにいくつか会社の面接を受けた。
結果は勿論、全て落ちた。
それはそうだ。
本当に就職したいかどうかも分かっていないのに、何となくで受けても受かるはずがない。
就職先も決まらないまま大学卒業を迎えようとしていた春のある日、その報せは俺を悲しみのどん底へ突き落とした。
俺の大好きだったじいちゃんが……いなくなった。
+++
「俺、決めたよ。後を継ぐ」
「蒼樹、あなた急に何を」
「元々考えてはいたんだ。だけど……俺には勇気がなかった。でも、もう決めたんだ。俺があの喫茶店を継ぐよ」
猛反対する両親を押し切って、俺――永瀬蒼樹はじいちゃんの遺したレトロな喫茶店プラムコレクトを継ぐことにした。
+++
俺は小さいころからじいちゃんの喫茶店が大好きだった。
古めかしいレトロな雰囲気の店内、漂うコーヒーの香ばしい香り。
常連さんたちがやっておしゃべりしている明るい声や、静かにコーヒーを飲みながら過ごせる穏やかな時間も俺にとって心地の良い大好きなものばかりだ。
両親が共働きだったから家にいても一人でつまらなかった。
だから俺はいつもじいちゃんの喫茶店で、カウンター席に座りながらじいちゃんとおしゃべりしていた。
じいちゃんも邪魔だと言わずに俺の話にずっと付き合ってくれていたけど、子どもの相手は仕事をしながらじゃ面倒だっただろうな。
じいちゃんが病気で入院するまで、俺は毎日のように変わらず喫茶店で時間を過ごしていた。
常連さんとも仲良くしてたし、自分の家にいるより喫茶店にいる時間の方が長かったかもしれない。
じいちゃんにコーヒーを淹れるやり方は教わっていたから、じいちゃんのやり方に限るけど珈琲を淹れることは得意だ。
ただ、俺はコーヒーを甘くしないと飲めない。
大人になった今も、ミルクをたっぷりと入れたカフェオレじゃないとダメだったりする。
更に言えば、コーヒーより紅茶の方が好きで紅茶を淹れるのも得意だ。
このお店はメインがコーヒーだけど、紅茶もメニューにあるから淹れられること自体は無駄ではない。
+++
喫茶店を継ぐことを決めてからすぐに、俺は二人の友人を喫茶店に呼び出した。
二人の目の前に、淹れたてのコーヒーを出す。
今日の豆はブラジルだ。
バランスもいいし、飲みやすいコーヒーだと思う。
自分用にミルクと砂糖も用意してから、俺も席へ着いた。
「はぁっ? お前本気で言ってんの?」
「冗談でこんなこと言う訳ないだろ。書類のやり取りは無事終わったし。もう少しで店を始められそうなんだ」
「始めるったって……許可証とか平気? あおちゃんって料理得意だっけ?」
「んー……料理は普通。調理に関しては誰か人を雇おうと思ってる」
俺の目の前に座っている幼なじみの一路鷺羽は、頭を抱え始める。
見た目は猫顔の金髪で髪を軽く結っているせいかチャラ男だと思われがちな鷺羽こととっきーだが、軽い口調とは裏腹に情に熱いタイプだ。
とっきーは昔から俺たちの中でおかんポジだから、俺が店を継ぐって言ったらこういう反応だろうなって予測はしていた。
「そうか。俺は応援する。応援だけじゃなく、俺のことを雇ってもらって一緒に働かせてほしい」
「おいおい……玄暉まで何言ってんだよ! この脳筋野郎!」
とっきーが指さした先の向坂玄暉も俺のおさななじみだ。
男らしい精悍な顔つきで、ガン飛ばしてるってよく勘違いされてたけど実際はただ目が悪いだけだ。
黒髪のショートも昔から弄らない感じで、眉上の短い髪が良く似合ってるんだよな。
とっきーと俺は大学も一緒だったけど、げんちゃんは料理人になりたいって言って専門学校に通っていた。
俺たちより先に卒業して、ついでにパティシエも目指すって意気込んでたな。
順調って言ってたし、詳しく聞いてないけどデザートも作れそうな気がする。
周りが就職活動をしている中、自分も動かないといけないと思って流されるようにいくつか会社の面接を受けた。
結果は勿論、全て落ちた。
それはそうだ。
本当に就職したいかどうかも分かっていないのに、何となくで受けても受かるはずがない。
就職先も決まらないまま大学卒業を迎えようとしていた春のある日、その報せは俺を悲しみのどん底へ突き落とした。
俺の大好きだったじいちゃんが……いなくなった。
+++
「俺、決めたよ。後を継ぐ」
「蒼樹、あなた急に何を」
「元々考えてはいたんだ。だけど……俺には勇気がなかった。でも、もう決めたんだ。俺があの喫茶店を継ぐよ」
猛反対する両親を押し切って、俺――永瀬蒼樹はじいちゃんの遺したレトロな喫茶店プラムコレクトを継ぐことにした。
+++
俺は小さいころからじいちゃんの喫茶店が大好きだった。
古めかしいレトロな雰囲気の店内、漂うコーヒーの香ばしい香り。
常連さんたちがやっておしゃべりしている明るい声や、静かにコーヒーを飲みながら過ごせる穏やかな時間も俺にとって心地の良い大好きなものばかりだ。
両親が共働きだったから家にいても一人でつまらなかった。
だから俺はいつもじいちゃんの喫茶店で、カウンター席に座りながらじいちゃんとおしゃべりしていた。
じいちゃんも邪魔だと言わずに俺の話にずっと付き合ってくれていたけど、子どもの相手は仕事をしながらじゃ面倒だっただろうな。
じいちゃんが病気で入院するまで、俺は毎日のように変わらず喫茶店で時間を過ごしていた。
常連さんとも仲良くしてたし、自分の家にいるより喫茶店にいる時間の方が長かったかもしれない。
じいちゃんにコーヒーを淹れるやり方は教わっていたから、じいちゃんのやり方に限るけど珈琲を淹れることは得意だ。
ただ、俺はコーヒーを甘くしないと飲めない。
大人になった今も、ミルクをたっぷりと入れたカフェオレじゃないとダメだったりする。
更に言えば、コーヒーより紅茶の方が好きで紅茶を淹れるのも得意だ。
このお店はメインがコーヒーだけど、紅茶もメニューにあるから淹れられること自体は無駄ではない。
+++
喫茶店を継ぐことを決めてからすぐに、俺は二人の友人を喫茶店に呼び出した。
二人の目の前に、淹れたてのコーヒーを出す。
今日の豆はブラジルだ。
バランスもいいし、飲みやすいコーヒーだと思う。
自分用にミルクと砂糖も用意してから、俺も席へ着いた。
「はぁっ? お前本気で言ってんの?」
「冗談でこんなこと言う訳ないだろ。書類のやり取りは無事終わったし。もう少しで店を始められそうなんだ」
「始めるったって……許可証とか平気? あおちゃんって料理得意だっけ?」
「んー……料理は普通。調理に関しては誰か人を雇おうと思ってる」
俺の目の前に座っている幼なじみの一路鷺羽は、頭を抱え始める。
見た目は猫顔の金髪で髪を軽く結っているせいかチャラ男だと思われがちな鷺羽こととっきーだが、軽い口調とは裏腹に情に熱いタイプだ。
とっきーは昔から俺たちの中でおかんポジだから、俺が店を継ぐって言ったらこういう反応だろうなって予測はしていた。
「そうか。俺は応援する。応援だけじゃなく、俺のことを雇ってもらって一緒に働かせてほしい」
「おいおい……玄暉まで何言ってんだよ! この脳筋野郎!」
とっきーが指さした先の向坂玄暉も俺のおさななじみだ。
男らしい精悍な顔つきで、ガン飛ばしてるってよく勘違いされてたけど実際はただ目が悪いだけだ。
黒髪のショートも昔から弄らない感じで、眉上の短い髪が良く似合ってるんだよな。
とっきーと俺は大学も一緒だったけど、げんちゃんは料理人になりたいって言って専門学校に通っていた。
俺たちより先に卒業して、ついでにパティシエも目指すって意気込んでたな。
順調って言ってたし、詳しく聞いてないけどデザートも作れそうな気がする。
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