1 / 64
第一章 レトロ喫茶のマスター、はじめます
1.決意
しおりを挟む
大学在学中は、将来のことを漠然と考えていた。
周りが就職活動をしている中、自分も動かないといけないと思って流されるようにいくつか会社の面接を受けた。
結果は勿論、全て落ちた。
それはそうだ。
本当に就職したいかどうかも分かっていないのに、何となくで受けても受かるはずがない。
就職先も決まらないまま大学卒業を迎えようとしていた春のある日、その報せは俺を悲しみのどん底へ突き落とした。
俺の大好きだったじいちゃんが……いなくなった。
+++
「俺、決めたよ。後を継ぐ」
「蒼樹、あなた急に何を」
「元々考えてはいたんだ。だけど……俺には勇気がなかった。でも、もう決めたんだ。俺があの喫茶店を継ぐよ」
猛反対する両親を押し切って、俺――永瀬蒼樹はじいちゃんの遺したレトロな喫茶店プラムコレクトを継ぐことにした。
+++
俺は小さいころからじいちゃんの喫茶店が大好きだった。
古めかしいレトロな雰囲気の店内、漂うコーヒーの香ばしい香り。
常連さんたちがやっておしゃべりしている明るい声や、静かにコーヒーを飲みながら過ごせる穏やかな時間も俺にとって心地の良い大好きなものばかりだ。
両親が共働きだったから家にいても一人でつまらなかった。
だから俺はいつもじいちゃんの喫茶店で、カウンター席に座りながらじいちゃんとおしゃべりしていた。
じいちゃんも邪魔だと言わずに俺の話にずっと付き合ってくれていたけど、子どもの相手は仕事をしながらじゃ面倒だっただろうな。
じいちゃんが病気で入院するまで、俺は毎日のように変わらず喫茶店で時間を過ごしていた。
常連さんとも仲良くしてたし、自分の家にいるより喫茶店にいる時間の方が長かったかもしれない。
じいちゃんにコーヒーを淹れるやり方は教わっていたから、じいちゃんのやり方に限るけど珈琲を淹れることは得意だ。
ただ、俺はコーヒーを甘くしないと飲めない。
大人になった今も、ミルクをたっぷりと入れたカフェオレじゃないとダメだったりする。
更に言えば、コーヒーより紅茶の方が好きで紅茶を淹れるのも得意だ。
このお店はメインがコーヒーだけど、紅茶もメニューにあるから淹れられること自体は無駄ではない。
+++
喫茶店を継ぐことを決めてからすぐに、俺は二人の友人を喫茶店に呼び出した。
二人の目の前に、淹れたてのコーヒーを出す。
今日の豆はブラジルだ。
バランスもいいし、飲みやすいコーヒーだと思う。
自分用にミルクと砂糖も用意してから、俺も席へ着いた。
「はぁっ? お前本気で言ってんの?」
「冗談でこんなこと言う訳ないだろ。書類のやり取りは無事終わったし。もう少しで店を始められそうなんだ」
「始めるったって……許可証とか平気? あおちゃんって料理得意だっけ?」
「んー……料理は普通。調理に関しては誰か人を雇おうと思ってる」
俺の目の前に座っている幼なじみの一路鷺羽は、頭を抱え始める。
見た目は猫顔の金髪で髪を軽く結っているせいかチャラ男だと思われがちな鷺羽こととっきーだが、軽い口調とは裏腹に情に熱いタイプだ。
とっきーは昔から俺たちの中でおかんポジだから、俺が店を継ぐって言ったらこういう反応だろうなって予測はしていた。
「そうか。俺は応援する。応援だけじゃなく、俺のことを雇ってもらって一緒に働かせてほしい」
「おいおい……玄暉まで何言ってんだよ! この脳筋野郎!」
とっきーが指さした先の向坂玄暉も俺のおさななじみだ。
男らしい精悍な顔つきで、ガン飛ばしてるってよく勘違いされてたけど実際はただ目が悪いだけだ。
黒髪のショートも昔から弄らない感じで、眉上の短い髪が良く似合ってるんだよな。
とっきーと俺は大学も一緒だったけど、げんちゃんは料理人になりたいって言って専門学校に通っていた。
俺たちより先に卒業して、ついでにパティシエも目指すって意気込んでたな。
順調って言ってたし、詳しく聞いてないけどデザートも作れそうな気がする。
周りが就職活動をしている中、自分も動かないといけないと思って流されるようにいくつか会社の面接を受けた。
結果は勿論、全て落ちた。
それはそうだ。
本当に就職したいかどうかも分かっていないのに、何となくで受けても受かるはずがない。
就職先も決まらないまま大学卒業を迎えようとしていた春のある日、その報せは俺を悲しみのどん底へ突き落とした。
俺の大好きだったじいちゃんが……いなくなった。
+++
「俺、決めたよ。後を継ぐ」
「蒼樹、あなた急に何を」
「元々考えてはいたんだ。だけど……俺には勇気がなかった。でも、もう決めたんだ。俺があの喫茶店を継ぐよ」
猛反対する両親を押し切って、俺――永瀬蒼樹はじいちゃんの遺したレトロな喫茶店プラムコレクトを継ぐことにした。
+++
俺は小さいころからじいちゃんの喫茶店が大好きだった。
古めかしいレトロな雰囲気の店内、漂うコーヒーの香ばしい香り。
常連さんたちがやっておしゃべりしている明るい声や、静かにコーヒーを飲みながら過ごせる穏やかな時間も俺にとって心地の良い大好きなものばかりだ。
両親が共働きだったから家にいても一人でつまらなかった。
だから俺はいつもじいちゃんの喫茶店で、カウンター席に座りながらじいちゃんとおしゃべりしていた。
じいちゃんも邪魔だと言わずに俺の話にずっと付き合ってくれていたけど、子どもの相手は仕事をしながらじゃ面倒だっただろうな。
じいちゃんが病気で入院するまで、俺は毎日のように変わらず喫茶店で時間を過ごしていた。
常連さんとも仲良くしてたし、自分の家にいるより喫茶店にいる時間の方が長かったかもしれない。
じいちゃんにコーヒーを淹れるやり方は教わっていたから、じいちゃんのやり方に限るけど珈琲を淹れることは得意だ。
ただ、俺はコーヒーを甘くしないと飲めない。
大人になった今も、ミルクをたっぷりと入れたカフェオレじゃないとダメだったりする。
更に言えば、コーヒーより紅茶の方が好きで紅茶を淹れるのも得意だ。
このお店はメインがコーヒーだけど、紅茶もメニューにあるから淹れられること自体は無駄ではない。
+++
喫茶店を継ぐことを決めてからすぐに、俺は二人の友人を喫茶店に呼び出した。
二人の目の前に、淹れたてのコーヒーを出す。
今日の豆はブラジルだ。
バランスもいいし、飲みやすいコーヒーだと思う。
自分用にミルクと砂糖も用意してから、俺も席へ着いた。
「はぁっ? お前本気で言ってんの?」
「冗談でこんなこと言う訳ないだろ。書類のやり取りは無事終わったし。もう少しで店を始められそうなんだ」
「始めるったって……許可証とか平気? あおちゃんって料理得意だっけ?」
「んー……料理は普通。調理に関しては誰か人を雇おうと思ってる」
俺の目の前に座っている幼なじみの一路鷺羽は、頭を抱え始める。
見た目は猫顔の金髪で髪を軽く結っているせいかチャラ男だと思われがちな鷺羽こととっきーだが、軽い口調とは裏腹に情に熱いタイプだ。
とっきーは昔から俺たちの中でおかんポジだから、俺が店を継ぐって言ったらこういう反応だろうなって予測はしていた。
「そうか。俺は応援する。応援だけじゃなく、俺のことを雇ってもらって一緒に働かせてほしい」
「おいおい……玄暉まで何言ってんだよ! この脳筋野郎!」
とっきーが指さした先の向坂玄暉も俺のおさななじみだ。
男らしい精悍な顔つきで、ガン飛ばしてるってよく勘違いされてたけど実際はただ目が悪いだけだ。
黒髪のショートも昔から弄らない感じで、眉上の短い髪が良く似合ってるんだよな。
とっきーと俺は大学も一緒だったけど、げんちゃんは料理人になりたいって言って専門学校に通っていた。
俺たちより先に卒業して、ついでにパティシエも目指すって意気込んでたな。
順調って言ってたし、詳しく聞いてないけどデザートも作れそうな気がする。
1
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる