23 / 35
お題系ポスノベ
おもちゃの日
しおりを挟む
今日も星が夜空にきらきらと輝いている。
夜は僕が自由になれる時間だ。
僕はしがない兵隊で、いつもお屋敷の門の前に立っている門番の一人だ。
昼は自由に動くことはできないけれど、夜は開放されてそっと見つめることができる。
城に住んでいるお嬢様は淡いピンクの花のドレスが良く似合う素敵な方で、いつも笑顔を絶やさずに僕たちのような下々の者たちでも気を配ってくださる方だ。
お嬢様を慕う者は大勢いるし僕もその一人だけれど、僕にとっては尊敬すべき人物というだけで恋慕の気持ちはない。
僕はその隣にいつも控えている執事さんに恋焦がれている。
彼は若いのに執事長で、元執事長だったお父様の仕事を見事に引き継ぎこの家を支えている立派な人だ。
お嬢様も花が咲き誇るように美しい方だけれど、執事さんも男性だというのに綺麗な人だった。
お嬢様の美しいブロンドの緩やかなウェーブの髪とは対照的な黒の艶やかな黒い髪。
蒼い瞳のお嬢様と、ブロンドの瞳の執事さん。
立場が違えば、二人は結ばれていると言っても過言ではないほどに隣にいるのがしっくりくる。
「今日も遅くまで仕事なのかな……」
夜は空き時間もあるから、散歩という名目で執事さんのいる部屋を見上げるのが癖になってしまった。
ふと見上げると、空気の入れ替えのためなのか窓際までやってきた執事さんと目が合ってしまった。
「あ……」
勝手に恥ずかしくなって目を逸らす。
僕の顔なんて知られている訳もないのに、何を一人で恥ずかしがっているのか。
その時の僕はこれから起こることを何も知らなかった。
+++
今日はガーデンパーティーが開かれていた。
お客様のために音楽も披露していたけれど、一人が急に体調不良になってしまったので代わりに僕がトランペットを吹くことになってしまった。
一応楽器を吹けるからということで抜擢されたけれど、知っている曲じゃなかったら大変なことになっていただろう。
「君、今日は助かったよ。まさか音楽を嗜んでいたなんて」
「いえ、たまたまです。趣味で吹くことがあって友人に呼ばれて出向くことがあるんです」
執事さんが困っていた時に協力できて良かった。
今、こうして話す機会までもらえたのだから僕はとても幸運だ。
代わりの人が来るまでの繋ぎだったとはいえ、お役に立てたことが嬉しい。
「そうだ。少し時間はあるか?」
「あ、はい」
僕たちは人気のない裏庭へやってきた。
ここはひっそりとしていて、僕もとても好きな場所だった。
「あ……花が咲いてる」
「ブルーローズ。今日は不可能が可能になる日かもしれないな」
「ふふ。そんな奇跡があるのなら素敵ですね」
花言葉? 僕にとっては執事さんと話していることが奇跡みたいなものだ。
花を眺めていると、会場からまた音楽が聞こえてくる。
「少し踊らないか?」
「え? 急に何を……」
笑った執事さんに手を引っ張られると、急にダンスが始まった。
いつの間にかやってきた黒猫とお嬢様の飼っている可愛い子豚までやってきて、僕たちを祝福するように鳴き始める。
まるで、曲に合わせて歌っているみたいだ。
「君の髪はふわふわしているな。羊の毛もこんな感じだろうか」
「羊かどうかは分かりませんけど……ただのくせ毛ですよ」
「くるくるとしていて可愛いなと思っていたんだ。一度触れてみたいと」
「え!? な、なんで……」
僕が変な声を出すと、クスクスと執事さんに笑われてしまった。
一体どういう意味なのかさっぱり分からない。
ドキドキと胸が高鳴る夢のような時間が終わらないといいなと思ったけれど、幸せな時間は長く続かない。
自由な時間は夜だけなのだから。
「今日はありがとう。また夜に会えるといいな」
「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」
ダンスは終わり、僕たちは各々のいる場所へ戻る。
素敵な夜の時間は優しく過ぎていった。
+++
「あら、またお人形ごっこ? 本当に好きね」
「うん! だって可愛いもん!」
明るい日が差す一室で、女の子は二体のお人形を持って母親に向かって笑いかけた。
彼女の手には、ピンクの花の淡いドレスを着た女の子とタキシードを着た男の子の人形が握られている。
「あら、今日も兵隊さんがお家を守ってるのね」
「兵隊さんと、猫さんと、豚さんも一緒なの!」
「そうね。みんな一緒で楽しいわね。あら、お庭は片付けたの? 偉いわね」
人形用の家の前には、巻き毛の兵隊が一人佇んでいる。
家の中には黒猫と豚のフィギュアが飾られていた。
そう。彼らが自由になれる時間は、女の子が寝静まる夜だけだ。
夜は僕が自由になれる時間だ。
僕はしがない兵隊で、いつもお屋敷の門の前に立っている門番の一人だ。
昼は自由に動くことはできないけれど、夜は開放されてそっと見つめることができる。
城に住んでいるお嬢様は淡いピンクの花のドレスが良く似合う素敵な方で、いつも笑顔を絶やさずに僕たちのような下々の者たちでも気を配ってくださる方だ。
お嬢様を慕う者は大勢いるし僕もその一人だけれど、僕にとっては尊敬すべき人物というだけで恋慕の気持ちはない。
僕はその隣にいつも控えている執事さんに恋焦がれている。
彼は若いのに執事長で、元執事長だったお父様の仕事を見事に引き継ぎこの家を支えている立派な人だ。
お嬢様も花が咲き誇るように美しい方だけれど、執事さんも男性だというのに綺麗な人だった。
お嬢様の美しいブロンドの緩やかなウェーブの髪とは対照的な黒の艶やかな黒い髪。
蒼い瞳のお嬢様と、ブロンドの瞳の執事さん。
立場が違えば、二人は結ばれていると言っても過言ではないほどに隣にいるのがしっくりくる。
「今日も遅くまで仕事なのかな……」
夜は空き時間もあるから、散歩という名目で執事さんのいる部屋を見上げるのが癖になってしまった。
ふと見上げると、空気の入れ替えのためなのか窓際までやってきた執事さんと目が合ってしまった。
「あ……」
勝手に恥ずかしくなって目を逸らす。
僕の顔なんて知られている訳もないのに、何を一人で恥ずかしがっているのか。
その時の僕はこれから起こることを何も知らなかった。
+++
今日はガーデンパーティーが開かれていた。
お客様のために音楽も披露していたけれど、一人が急に体調不良になってしまったので代わりに僕がトランペットを吹くことになってしまった。
一応楽器を吹けるからということで抜擢されたけれど、知っている曲じゃなかったら大変なことになっていただろう。
「君、今日は助かったよ。まさか音楽を嗜んでいたなんて」
「いえ、たまたまです。趣味で吹くことがあって友人に呼ばれて出向くことがあるんです」
執事さんが困っていた時に協力できて良かった。
今、こうして話す機会までもらえたのだから僕はとても幸運だ。
代わりの人が来るまでの繋ぎだったとはいえ、お役に立てたことが嬉しい。
「そうだ。少し時間はあるか?」
「あ、はい」
僕たちは人気のない裏庭へやってきた。
ここはひっそりとしていて、僕もとても好きな場所だった。
「あ……花が咲いてる」
「ブルーローズ。今日は不可能が可能になる日かもしれないな」
「ふふ。そんな奇跡があるのなら素敵ですね」
花言葉? 僕にとっては執事さんと話していることが奇跡みたいなものだ。
花を眺めていると、会場からまた音楽が聞こえてくる。
「少し踊らないか?」
「え? 急に何を……」
笑った執事さんに手を引っ張られると、急にダンスが始まった。
いつの間にかやってきた黒猫とお嬢様の飼っている可愛い子豚までやってきて、僕たちを祝福するように鳴き始める。
まるで、曲に合わせて歌っているみたいだ。
「君の髪はふわふわしているな。羊の毛もこんな感じだろうか」
「羊かどうかは分かりませんけど……ただのくせ毛ですよ」
「くるくるとしていて可愛いなと思っていたんだ。一度触れてみたいと」
「え!? な、なんで……」
僕が変な声を出すと、クスクスと執事さんに笑われてしまった。
一体どういう意味なのかさっぱり分からない。
ドキドキと胸が高鳴る夢のような時間が終わらないといいなと思ったけれど、幸せな時間は長く続かない。
自由な時間は夜だけなのだから。
「今日はありがとう。また夜に会えるといいな」
「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」
ダンスは終わり、僕たちは各々のいる場所へ戻る。
素敵な夜の時間は優しく過ぎていった。
+++
「あら、またお人形ごっこ? 本当に好きね」
「うん! だって可愛いもん!」
明るい日が差す一室で、女の子は二体のお人形を持って母親に向かって笑いかけた。
彼女の手には、ピンクの花の淡いドレスを着た女の子とタキシードを着た男の子の人形が握られている。
「あら、今日も兵隊さんがお家を守ってるのね」
「兵隊さんと、猫さんと、豚さんも一緒なの!」
「そうね。みんな一緒で楽しいわね。あら、お庭は片付けたの? 偉いわね」
人形用の家の前には、巻き毛の兵隊が一人佇んでいる。
家の中には黒猫と豚のフィギュアが飾られていた。
そう。彼らが自由になれる時間は、女の子が寝静まる夜だけだ。
10
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。



思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる