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恋人だった記憶がないって本当?
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彼が事故にあったと聞いて、俺は慌てて病室に駆け付けた。
最後に彼と連絡を取っていたのが俺だったらしい。
無事で良かったと彼を抱きしめたら、居心地悪そうに身体を動かされる。
痛かったのかと身体を離すと、彼はごめんと謝ってからここ一年の記憶がないと教えてくれた。
俺との関係も覚えてないと言われてしまって、二人の間に気まずい空気が流れる。
彼が助かったことを喜ぶべきなのに、俺はどうしても確かめずにいられなかった。
「恋人だった記憶がないって本当?」
「悪い、全く覚えてなくて。今の俺にとっては初めましてなんだけど……」
「そっか……いきなり抱きしめたりして悪かったな。じゃあ、改めて自己紹介してもいいかな」
俺は少しでも思い出してほしくて、簡単な自己紹介をしてから彼との出会いから今までのことを話した。
彼は一生懸命話を聞いてくれていたけど、やっぱり思い出せないと申し訳なさそうに言ってきた。
「いや、急に言われても困るよな。俺の方こそごめん」
「俺は覚えてないけど、君が良いヤツなことは分かるよ。だから……また話を聞かせて欲しい」
俺は辛い気持ちを隠すように、笑いながら頷いた。
+++
彼は少し頭を打ってしまったけど、検査をして異常がなければ早めに退院できるらしい。
俺は彼が退院するまで毎日通って、俺たちの話をし続けた。
最初は辛いだけだったけど、一から彼との関係を築くのも悪くない。
だけど……。
「……そっか。もうすぐ退院できるのか。良かった」
「ありがとう。けど、何だか嬉しそうじゃないな」
「そんなことないよ」
俺は笑ってごまかしたけど、これ以上彼の顔を見ているのが辛くなって適当な言い訳をしてから背を向ける。
「どうしたんだよ、具合悪い?」
彼に腕を掴まれてしまい、逃げられないと腹を括ってゆっくりと振り返った。
最初は楽しかったけど、今では後悔している。
こんなことするべきじゃなかったんだって。
「どうしたんだよ」
「……謝るのは俺の方なんだ。だって俺は……」
俺は……嘘をついた。
彼と付き合っていたのは俺じゃない。
俺の片想いで、彼には付き合っていた別の彼氏がいた。
だけど、最近二人の仲がうまくいっていないと相談を受けていたから記憶がないと聞いて自分が彼氏のフリをしてしまった。
俺は、最低なヤツだ。
「知ってたよ」
「え……?」
「思い出したんだ、君のこと。だけど、君と一緒に過ごして分かったんだ。俺も君に甘えてたなってさ」
彼は恥ずかしそうに笑ってから、ありがとうと笑ってくれた。
俺が泣き始めると、今度は彼が慰めるように俺を強く抱きしめてくれる。
「改めて、よろしく。俺の恋人さん」
彼の優しい声に甘えるように、俺は小さく頷いた。
最後に彼と連絡を取っていたのが俺だったらしい。
無事で良かったと彼を抱きしめたら、居心地悪そうに身体を動かされる。
痛かったのかと身体を離すと、彼はごめんと謝ってからここ一年の記憶がないと教えてくれた。
俺との関係も覚えてないと言われてしまって、二人の間に気まずい空気が流れる。
彼が助かったことを喜ぶべきなのに、俺はどうしても確かめずにいられなかった。
「恋人だった記憶がないって本当?」
「悪い、全く覚えてなくて。今の俺にとっては初めましてなんだけど……」
「そっか……いきなり抱きしめたりして悪かったな。じゃあ、改めて自己紹介してもいいかな」
俺は少しでも思い出してほしくて、簡単な自己紹介をしてから彼との出会いから今までのことを話した。
彼は一生懸命話を聞いてくれていたけど、やっぱり思い出せないと申し訳なさそうに言ってきた。
「いや、急に言われても困るよな。俺の方こそごめん」
「俺は覚えてないけど、君が良いヤツなことは分かるよ。だから……また話を聞かせて欲しい」
俺は辛い気持ちを隠すように、笑いながら頷いた。
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彼は少し頭を打ってしまったけど、検査をして異常がなければ早めに退院できるらしい。
俺は彼が退院するまで毎日通って、俺たちの話をし続けた。
最初は辛いだけだったけど、一から彼との関係を築くのも悪くない。
だけど……。
「……そっか。もうすぐ退院できるのか。良かった」
「ありがとう。けど、何だか嬉しそうじゃないな」
「そんなことないよ」
俺は笑ってごまかしたけど、これ以上彼の顔を見ているのが辛くなって適当な言い訳をしてから背を向ける。
「どうしたんだよ、具合悪い?」
彼に腕を掴まれてしまい、逃げられないと腹を括ってゆっくりと振り返った。
最初は楽しかったけど、今では後悔している。
こんなことするべきじゃなかったんだって。
「どうしたんだよ」
「……謝るのは俺の方なんだ。だって俺は……」
俺は……嘘をついた。
彼と付き合っていたのは俺じゃない。
俺の片想いで、彼には付き合っていた別の彼氏がいた。
だけど、最近二人の仲がうまくいっていないと相談を受けていたから記憶がないと聞いて自分が彼氏のフリをしてしまった。
俺は、最低なヤツだ。
「知ってたよ」
「え……?」
「思い出したんだ、君のこと。だけど、君と一緒に過ごして分かったんだ。俺も君に甘えてたなってさ」
彼は恥ずかしそうに笑ってから、ありがとうと笑ってくれた。
俺が泣き始めると、今度は彼が慰めるように俺を強く抱きしめてくれる。
「改めて、よろしく。俺の恋人さん」
彼の優しい声に甘えるように、俺は小さく頷いた。
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