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Veil of Night
6.権能
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クーゲルが最奥のホールに辿り着くと、暗がりの中ガードマンたちがわめきながら混乱していた。
一旦物陰に身を隠し暗視ゴーグルで様子を確認すると、コウモリたちがガードマンの視界を塞ぐように飛び回っているのが見える。
アンノウンが仕事をしやすくするために、狙いの宝石が入っているケースからガードマンを遠ざけているようだ。
(ガードマンさえいればどうとでもなると? こちらとしてはありがたいが、警備体制が甘すぎてやりがいもない)
クーゲルは馬鹿にしたような表情でサイレンサー付きの銃を構え、混乱しているガードマンたちへ麻酔弾を打ち込んでいく。
一人、また一人と倒れていくと別方向からの襲撃に気づき、ガードマンがクーゲルの方へおびき寄せられる。
アンノウンは混乱に乗じて変化を解いて姿を現し、悠然とガラスケースの鍵を外して宝石を奪い取った。
「おい、どうなっている! 警備システムは?」
「あと数分で復旧だ! クソ、電源の再稼働が遅すぎる」
アンノウンはクーゲルへひらりと手を振る余裕すら見せ付け、二階から屋上へ逃れようとしていたが――
「アンノウンは上にいる! よく見ろバカ者!」
後から部屋に飛び込んできた資産家が、迷いなく二階に上ったアンノウンの居場所を指さす。
人間の姿をした特殊能力持ちか人外でもないと居場所の特定は難しいが、資産家はかなり夜目が利くらしい。
(どちらにせよ、人数を減らしてヤツを仕留めるしかない)
資産家と共にやってきたガタイの良いガードマンたちも、一斉に臨戦態勢へ切り替わる。
ガードマンの銃が一斉にアンノウンの方へ向けられ、何発も撃ちこまれていく。
アンノウンはマントを翻して弾をかわすが、長くはもたなそうだ。
クーゲルも麻酔銃を構えて更に何発か撃ち込むが、オーガなどの屈強な種族は一発当たった程度では倒れない。
今は変身能力が使えないと悟ったアンノウンは一旦柱の裏へと隠れ、難を逃れたようだ。
「私がアンノウンを追いかける! お前たちはもう一人の侵入者を探し出せ!」
「分かりました! おい、お前は夜目が利くはずだ。賊の位置を教えろ!」
オーガらしき男が狼獣人に声をかけると、狼獣人は辺りを見回し始めた。
クーゲルは一旦隠れるが、このままではターゲットも逃してしまう。
(仕方ない、奥の手だ)
クーゲルは暗視ゴーグルを外し、素早く両目を閉じる。
数秒集中してから目を開くと、濃紺だった瞳が輝く金色に切り替わり視界が一気に広がる。
(なるべく使いたくなかったが、俺の食いぶちをみすみす逃す訳にはいかない)
愛用のリボルバーマグナムをショルダーホルスターから引き抜き、麻酔銃と持ち替えて狼獣人の方へ狙いを定めた。
「今、何か光りました! あの柱の影だ!」
狼獣人は素早い身のこなしで床を蹴り、一気にクーゲルの元へ距離を詰める。
本来ならば獣人の鋭い爪でクーゲルは引き裂かれるところだったのだが、クーゲルは獣人より早く動きに対応していた。
狼獣人が襲いかかってくる前に距離を取り、マグナムの弾を装填した分全て腹へ撃ち込む。
クーゲルは神の目という権能使いだ。
能力を開放すると視界が広がり時間の流れが限りなくゆっくりと見え、未来予測ができる。
そのため相手の運動能力がクーゲルより勝っていたとしても、先手を取ることも可能になる。
ただし、制限時間は三分間で使える回数も一日に数回のみ。
無理をすればクーゲルの目から血が流れ落ち、下手をすれば失明に繋がってしまうため乱発はできない。
権能のおかげで、多少の無茶をしても三分間は有利な状態を保つことができる。
火薬の香りと銃声、薬莢の落ちる音がホール内へ響くと狼獣人は床へ崩れ落ちた。
「そんなバカな! あの距離で人間が反応できるわけ……」
クーゲルはオーガが慌てている隙に弾をこめ直し、オーガの心臓にも銃弾を撃ち込んでいく。
反動を受け止めながら流れるように撃ち、弾がなくなれば相手との距離を取りながら高速で弾を込める。
「あれが人間の動きなのか?」
「いや、あれはただの人間じゃ……」
クーゲルは数で勝るガードマンたちを次々と撃ち抜き、辺りが空の薬莢だらけになる頃にはガードマンたちはほぼ沈黙した。
生きているものは戦意をなくし降参するか、恐れをなして逃げ出していく。
(そろそろ権能を解除していいだろう。さすがに目が疲れた)
クーゲルは長いようで短い三分を有効に使いきると、短く息を吐き出しまた両目を閉じる。
ゆっくりと瞼を開いた時には、元々の濃紺の瞳に戻っていた。
一旦物陰に身を隠し暗視ゴーグルで様子を確認すると、コウモリたちがガードマンの視界を塞ぐように飛び回っているのが見える。
アンノウンが仕事をしやすくするために、狙いの宝石が入っているケースからガードマンを遠ざけているようだ。
(ガードマンさえいればどうとでもなると? こちらとしてはありがたいが、警備体制が甘すぎてやりがいもない)
クーゲルは馬鹿にしたような表情でサイレンサー付きの銃を構え、混乱しているガードマンたちへ麻酔弾を打ち込んでいく。
一人、また一人と倒れていくと別方向からの襲撃に気づき、ガードマンがクーゲルの方へおびき寄せられる。
アンノウンは混乱に乗じて変化を解いて姿を現し、悠然とガラスケースの鍵を外して宝石を奪い取った。
「おい、どうなっている! 警備システムは?」
「あと数分で復旧だ! クソ、電源の再稼働が遅すぎる」
アンノウンはクーゲルへひらりと手を振る余裕すら見せ付け、二階から屋上へ逃れようとしていたが――
「アンノウンは上にいる! よく見ろバカ者!」
後から部屋に飛び込んできた資産家が、迷いなく二階に上ったアンノウンの居場所を指さす。
人間の姿をした特殊能力持ちか人外でもないと居場所の特定は難しいが、資産家はかなり夜目が利くらしい。
(どちらにせよ、人数を減らしてヤツを仕留めるしかない)
資産家と共にやってきたガタイの良いガードマンたちも、一斉に臨戦態勢へ切り替わる。
ガードマンの銃が一斉にアンノウンの方へ向けられ、何発も撃ちこまれていく。
アンノウンはマントを翻して弾をかわすが、長くはもたなそうだ。
クーゲルも麻酔銃を構えて更に何発か撃ち込むが、オーガなどの屈強な種族は一発当たった程度では倒れない。
今は変身能力が使えないと悟ったアンノウンは一旦柱の裏へと隠れ、難を逃れたようだ。
「私がアンノウンを追いかける! お前たちはもう一人の侵入者を探し出せ!」
「分かりました! おい、お前は夜目が利くはずだ。賊の位置を教えろ!」
オーガらしき男が狼獣人に声をかけると、狼獣人は辺りを見回し始めた。
クーゲルは一旦隠れるが、このままではターゲットも逃してしまう。
(仕方ない、奥の手だ)
クーゲルは暗視ゴーグルを外し、素早く両目を閉じる。
数秒集中してから目を開くと、濃紺だった瞳が輝く金色に切り替わり視界が一気に広がる。
(なるべく使いたくなかったが、俺の食いぶちをみすみす逃す訳にはいかない)
愛用のリボルバーマグナムをショルダーホルスターから引き抜き、麻酔銃と持ち替えて狼獣人の方へ狙いを定めた。
「今、何か光りました! あの柱の影だ!」
狼獣人は素早い身のこなしで床を蹴り、一気にクーゲルの元へ距離を詰める。
本来ならば獣人の鋭い爪でクーゲルは引き裂かれるところだったのだが、クーゲルは獣人より早く動きに対応していた。
狼獣人が襲いかかってくる前に距離を取り、マグナムの弾を装填した分全て腹へ撃ち込む。
クーゲルは神の目という権能使いだ。
能力を開放すると視界が広がり時間の流れが限りなくゆっくりと見え、未来予測ができる。
そのため相手の運動能力がクーゲルより勝っていたとしても、先手を取ることも可能になる。
ただし、制限時間は三分間で使える回数も一日に数回のみ。
無理をすればクーゲルの目から血が流れ落ち、下手をすれば失明に繋がってしまうため乱発はできない。
権能のおかげで、多少の無茶をしても三分間は有利な状態を保つことができる。
火薬の香りと銃声、薬莢の落ちる音がホール内へ響くと狼獣人は床へ崩れ落ちた。
「そんなバカな! あの距離で人間が反応できるわけ……」
クーゲルはオーガが慌てている隙に弾をこめ直し、オーガの心臓にも銃弾を撃ち込んでいく。
反動を受け止めながら流れるように撃ち、弾がなくなれば相手との距離を取りながら高速で弾を込める。
「あれが人間の動きなのか?」
「いや、あれはただの人間じゃ……」
クーゲルは数で勝るガードマンたちを次々と撃ち抜き、辺りが空の薬莢だらけになる頃にはガードマンたちはほぼ沈黙した。
生きているものは戦意をなくし降参するか、恐れをなして逃げ出していく。
(そろそろ権能を解除していいだろう。さすがに目が疲れた)
クーゲルは長いようで短い三分を有効に使いきると、短く息を吐き出しまた両目を閉じる。
ゆっくりと瞼を開いた時には、元々の濃紺の瞳に戻っていた。
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