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Veil of Night
4.理由
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クーゲルが賞金首を狙うのは、宝石を盗んだ後だ。
獲物は怪盗アンノウンを捕まえようと躍起になっているはずで、クーゲルも重々承知しているからだ。
アンノウンを捕まえたとなれば、世の話題をかっさらうことができ経済効果もプラスになるに違いない。
表向き事業をこなしている資産家にとっても、自身の力で世を騒がす怪盗を捕まえたということをアピールしたいはず。
であれば、自然と姿を現すほかない。
(ターゲットが講釈を垂れている時もチャンスだったが、ここまで距離が近いと逆に狙いづらい。それに協力しないといけない約束だったな)
正直なところ口約束を守る理由などないのだが、以前ロウが酔った時にポロリと零した話にクーゲルが少々同情したのも理由の一つだった。
+++
「どうしてそこまで宝石に拘る? 盗むのが目的なら美術品であれば何でも構わないはずだろう」
「僕は盗みがしたい訳じゃない。探し物をするのに都合がいい形を取っているだけだ」
「探し物?」
「そう。僕は父親が純血のヴァンパイアで母親は人間のヴァンパイアハーフ。ダンピールだ。母親は父親の眷属ではなく、二人は恋をして結ばれた。母は今でも普通の人間だ。だが、母が不治の病にかかったせいで父親が苦悩し始めた」
別に話せと言った訳じゃないのに、ロウはクーゲルに淡々と身の上話を始めたのだ。
母親はあくまで人間としての生を全うしたいと願っているのに対し、父親は母親を愛しているため願いを叶えたいと思う反面自分の眷属にして永遠の命を与えたいと迷っているらしい。
人気のないバーとはいえ、自分の身の上話をする者は少ない。
普通はよほど相手のことを信頼していなければ明かさないものだが、ロウはクーゲルのことを勝手に信用しているのかもしれない。
対してクーゲルは、自分自身のことを一切語っていない。
どちらかといえば、ロウの愚痴を聞いてやりながらその駄賃で酒を飲ませてもらっている体だ。
「ただ、眷属にすると母は一生父に逆らえなくなる。主従の関係だ。母の意識はある程度保たれるだろうが、命令と捉えてしまえば従属する。今の母とは別人になってしまうだろう」
「それで、お前が動いてるのか」
「そうだ。母の病はある宝石が発する光で治せるらしい。ただ、その宝石は幻だと言われていてその病気を持つものの側に置かないと反応しないらしい。詳細は何も分からない」
「だから、珍しい宝石を片っ端から盗んで試しているのか」
このお坊ちゃんは母親のために盗みを働いているらしい。
クーゲルは小さい頃からスラム街で育ち、親が誰なのかも分からないのでロウの気持ちを察することはできなかった。
(ただ、助けたいという気持ちだけは分からんでもない)
クーゲルは煙草をふかしながら、自分に生きる術を叩き込み命を繋いでくれた師匠とも呼べる爺さんのことを思い浮かべていた。
今はもうこの世にいないが、クーゲルの持つ権能について教えてくれたのもその爺さんだった。
その権能のおかげで、クーゲルは普通のバウンティーハンターよりも多少有利に動くことができる。
「正直、金のためならお前を突き出した方が効率はいいが。受けた恩は返せっていうのが育ての親の教えでな。仕方がないから、少しは協力してやる」
「おっさん、見た目と違って心が広いな。心配するな。金なら僕が工面してやるさ」
「見眼麗しい坊ちゃんから施しを受けるってのも、どうだかな」
「僕の見た目に惑わされないのは、あんたくらいだよクーゲル」
ロウはクスクスと楽し気に笑い、聞いてくれてありがとうと微笑する。
この顔ならば騙される奴も多いのだろうと、クーゲルは両目を細めながら素知らぬ顔でバーボンを煽っていた。
獲物は怪盗アンノウンを捕まえようと躍起になっているはずで、クーゲルも重々承知しているからだ。
アンノウンを捕まえたとなれば、世の話題をかっさらうことができ経済効果もプラスになるに違いない。
表向き事業をこなしている資産家にとっても、自身の力で世を騒がす怪盗を捕まえたということをアピールしたいはず。
であれば、自然と姿を現すほかない。
(ターゲットが講釈を垂れている時もチャンスだったが、ここまで距離が近いと逆に狙いづらい。それに協力しないといけない約束だったな)
正直なところ口約束を守る理由などないのだが、以前ロウが酔った時にポロリと零した話にクーゲルが少々同情したのも理由の一つだった。
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「どうしてそこまで宝石に拘る? 盗むのが目的なら美術品であれば何でも構わないはずだろう」
「僕は盗みがしたい訳じゃない。探し物をするのに都合がいい形を取っているだけだ」
「探し物?」
「そう。僕は父親が純血のヴァンパイアで母親は人間のヴァンパイアハーフ。ダンピールだ。母親は父親の眷属ではなく、二人は恋をして結ばれた。母は今でも普通の人間だ。だが、母が不治の病にかかったせいで父親が苦悩し始めた」
別に話せと言った訳じゃないのに、ロウはクーゲルに淡々と身の上話を始めたのだ。
母親はあくまで人間としての生を全うしたいと願っているのに対し、父親は母親を愛しているため願いを叶えたいと思う反面自分の眷属にして永遠の命を与えたいと迷っているらしい。
人気のないバーとはいえ、自分の身の上話をする者は少ない。
普通はよほど相手のことを信頼していなければ明かさないものだが、ロウはクーゲルのことを勝手に信用しているのかもしれない。
対してクーゲルは、自分自身のことを一切語っていない。
どちらかといえば、ロウの愚痴を聞いてやりながらその駄賃で酒を飲ませてもらっている体だ。
「ただ、眷属にすると母は一生父に逆らえなくなる。主従の関係だ。母の意識はある程度保たれるだろうが、命令と捉えてしまえば従属する。今の母とは別人になってしまうだろう」
「それで、お前が動いてるのか」
「そうだ。母の病はある宝石が発する光で治せるらしい。ただ、その宝石は幻だと言われていてその病気を持つものの側に置かないと反応しないらしい。詳細は何も分からない」
「だから、珍しい宝石を片っ端から盗んで試しているのか」
このお坊ちゃんは母親のために盗みを働いているらしい。
クーゲルは小さい頃からスラム街で育ち、親が誰なのかも分からないのでロウの気持ちを察することはできなかった。
(ただ、助けたいという気持ちだけは分からんでもない)
クーゲルは煙草をふかしながら、自分に生きる術を叩き込み命を繋いでくれた師匠とも呼べる爺さんのことを思い浮かべていた。
今はもうこの世にいないが、クーゲルの持つ権能について教えてくれたのもその爺さんだった。
その権能のおかげで、クーゲルは普通のバウンティーハンターよりも多少有利に動くことができる。
「正直、金のためならお前を突き出した方が効率はいいが。受けた恩は返せっていうのが育ての親の教えでな。仕方がないから、少しは協力してやる」
「おっさん、見た目と違って心が広いな。心配するな。金なら僕が工面してやるさ」
「見眼麗しい坊ちゃんから施しを受けるってのも、どうだかな」
「僕の見た目に惑わされないのは、あんたくらいだよクーゲル」
ロウはクスクスと楽し気に笑い、聞いてくれてありがとうと微笑する。
この顔ならば騙される奴も多いのだろうと、クーゲルは両目を細めながら素知らぬ顔でバーボンを煽っていた。
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