地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる

文字の大きさ
76 / 85
第四章 私たちが歩む道

75.どうしても止められなくて

しおりを挟む
 いくら人気がないからって、会社で抱きしめられるだなんて。
 秦弥さんの性格からしたら考えられないんだけど、今、抱きしめられているし。
 逞しい腕とスーツの下の鍛えられている胸板とか、近くで感じてしまうと心臓のドキドキが止まらない。

「え、ええと……」
「小さくてか細くて、心配になる」

 聞こえてきた声は本当に心配そうな声色だったから、やっぱり突き放すなんてできない。
 少しの間じっとしていると、やんわりと身体が離される。
 まだ両腕はしっかりと掴まれたままなので、身動きは取れない。

「安心しましたか?」
「そうだな。今はこれで我慢しておこう」

 フッと笑った顔は、涼しげなのに妙に色気があって。
 何か反論したくても、見惚れてしまうだけで何も言葉は出てこない。
 私、さっきから黙ってばっかりだ。
 
「もう用事は終わったし、帰りましょう?」
「そうだな」

 今度こそ大丈夫だと安心して、ホッと息を吐き出した。
 上から呼気で笑う気配がして、ムッとした顔で秦弥さんを見上げる。

「キャラじゃないことはしないでください。心臓がいくつあっても足りませんから」
「風音にも乙女なところがあって安心した」
「失礼ですね。そういうこと言うと、私は可愛くないことしか言えませんけど」

 プイッと顔を背けて、踵を返そうとすると今度は左腕を取られた。
 反論しようとすると、あっという間に影が下りてきて唇にふわりと柔らかいものが触れた。
 一瞬すぎて分からなかったけど……もしかして、キスされた?

「先ほどし損ねた分だ。後は帰ってからしようか」
「もうっ! 絶対悪影響受けてるじゃないですかっ! 帰ってからって……何が?」

 どういう顔をしていいか分からないまま、腕を振り払ってじっと見つめると、近距離のまま小声で呟かれる。

「今日は家へ来る日だろう。だから、帰ってからゆっくりと」
「ゆっくりと……って、だから低音で囁くの禁止です! 分かっててやってるでしょう?」

 妙に積極的な秦弥さんに転がされっぱなしで、本当に腹が立っちゃう!
 私だって楽しみにしてるけど、改めて言われると逆に動揺する。
 コピー用紙の束を秦弥さんにグッと押し付けて、今度こそ振り返らずに扉まで向かう。

 笑う気配はするけど、大人しくついてきてくれているみたいだし。
 気にせず扉を開けて、さっさと自分の席へ戻る。
 
 恋愛的な駆け引きは苦手なのかと思えば、たまにグイグイくるから止められない。
 いくつ心臓があっても足りないけど、つまらないよりかは刺激的なのもアリなのかな。
 
 でも、ゆっくりと少しずつだと思ってたのになんだか調子が狂うというか。
 別に、仲良くする分には構わないんだけど……このままだと全部、主導権握られちゃう気がする。
 もう少し優位でいられると思ったのに、ちょっと残念な気持ちと、ドキドキする気持ちとがせめぎ合う。
 これはこれで楽しいって思っちゃう時点で、私も駆け引きにハマっちゃってるのかも。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

【完結】薬屋たぬきの恩返し~命を救われた子狸は、茅葺屋根の家で竜と愛を育む~

ジュレヌク
恋愛
たぬき獣人であるオタケは、生贄にされそうになった所を、冒険者のリンドヴルムに助けられる。 彼は、竜人族最強を目指すため、世界中を巡り自分より強い竜を探し求めていた。 しかし、敵を倒してしまった彼は、家族を亡くした上に仲間に生贄にされた彼女を置いていくことができず、母国に連れ帰ることにする。 そこでオタケは、夜行性であることと、母より受け継いだ薬草の知識があることから、「茅葺き屋根の家」を建てて深夜営業の「薬屋たぬき」を営み始める。 日中は気づくものがいないほど目立たない店だが、夕闇と共に提灯を灯せば、客が一人、また一人と訪れた。 怪我の多い冒険者などは、可愛い看板娘兼薬師のオタケを見ようと、嬉々として暖簾をくぐる。 彼女の身元引受人になったリンドヴルムも、勿論薬屋の上顧客になり、皆に冷やかされながらも足繁く通うようになった。 オタケは、教会が行う「ヒール」に似た「てあて」と言う名の治癒魔法が使えることもあり、夜間の治療院代わりも担う。 特に怪我の多いリンドヴルムに対しては、助けてもらった恩義と密かな恋心があるからか、常に献身的だ。 周りの者達は、奥手な二人の恋模様を、焦れったい思いで見守っていた。 そんなある日、リンドヴルムは、街で時々起こる「イタズラ」を調査することになる。 そして、夜中の巡回に出かけた彼が見たのは、様々な生き物に姿を変えるオタケ。 どうやら、彼女は、ただの『たぬき獣人』ではないらしい……。

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

冷たい外科医の心を溶かしたのは

みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。 《あらすじ》 都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。 アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。 ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。 元々ベリカに掲載していました。 昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~

松本ユミ
恋愛
デザイン事務所で働く伊藤香澄は、ひょんなことから副社長の身の回りの世話をするように頼まれて……。 「君に好意を寄せているから付き合いたいってこと」 副社長の低く甘い声が私の鼓膜を震わせ、封じ込めたはずのあなたへの想いがあふれ出す。 真面目OLの恋の行方は?

処理中です...