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第四章 私たちが歩む道

73.新部署で

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 社長が芸能部門を立ち上げることにしてから数日、私たちは社内と社外の対応に追われてバタバタとしていた。
 マスコミにも取り上げられるし、話題性はバッチリだったから社長の思惑通りの展開にはなったみたい。

 拠点を橘コーポレーションビルから、十五分少々離れた新築のビルの五階というどちらかと言えば一般的なビルへとお引越しした。
 それでも五階ワンフロアは全て借り切っているのだから、私からしたらすごいんだけどな。
 社長はまだまだだからと恥ずかしそうに笑っていたっけ。

 芸能部門だと言って立ち上げた社長率いる音楽事務所は、ポイボスという名前だ。
 音楽の神様のアポロンの別名らしいけど、語感が少し可愛らしい感じ。
 本当は橘コーポレーションから完全に離れて独立したかったみたいだけど、ご家族からは猛反対されたらしい。
 
 橘の血筋の男性が今現在、社長しかいないからというのが最大の理由で、息子とどういう形でも敵対するようなことをしたくなかったんだって。
 いくら関わりのない分野といっても、いつどうなるかが分からないし。
 社長に最終的に全てを譲るつもりだったのに、いなくなられては困るって奥様も泣いてしまったとか。
 
 もう一度考え直すことにして、社長自身も悩んだ結果が別部署ってことみたい。
 でも結局この部門でもトップは社長だから、環境は変わっても関係性は変わらない。
 呼び名も別に変わらないから、変わらず社長って呼んじゃうし。

「ことりちゃーん。別に俺のことは好きに呼んでくれていいんだよ? 弟なんだしさー」
「仕事場で? できない相談です。プライベートでも呼びづらいんですから」
「どうでもいいことを強要するな。口ではなく手を動かせ。自分でやると言ったことは責任を持ってだな――」

 相変わらず社長の机を囲んで、三人で話しているのもほぼ変わらない。
 秦弥さんの説教モードが始まる前に、ストップ! と、大きめの声がかかった。
 社長が必死に手を振って、秦弥さんを妨害し始める。

「分かってるって! 明日も雑誌の写真撮影が入ってるし、俺も暇してないから!」
「そうですね。少しずつですがポイボスに移籍したい、入って活躍してみたいという声が増えてきていますし」
「モデルと歌手も、所属者が増えてきている。思っていたより順調で一安心だな」

 まだまだ弱小だけど、橘兄妹のカリスマ性もあるし。
 なんたって宣伝のポスターも社長と華音さんが映っているポスターだから、町の人も立ち止まってくれる率が高い。
 若い子たちは撮ったポスターをSNSで発信してくれているから、タダで宣伝もできちゃってるし。

「一度でいいからアイドル育成! みたいなことしてみたかったんだよね。願いが叶って嬉しいよ」
「昔からアプリのゲームで遊んでいたからな。意外とゲーマーというか、ミーハーというか」
「アプリゲームするんですね。私も牧場を育てるゲームとか好きですよ」

 何気ない話だけど、またこうして三人で話すことができて嬉しい。
 育休の栞央里しおりさんを含めたら、四人だ。
 社長は栞央里さんも自分の傍に呼ぶって言ってたし。
 その時が来るのも楽しみだな。
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