地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる

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第三章 自分のこと、これからのこと

47.私の答え

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 大したことじゃないのに、ちょっとドキドキしてしまった。
 静かにシュガーポットが私の前に押し出されたので、黙々と砂糖を入れる。

「タイミングが悪かったな、すまない」
「いえいえ、何だか過剰反応してしまって」

 苦笑しながらカップの中に落としたスプーンをくるりと回す。
 生クリームが崩れないように回していると、氷室さんがじっと手元を見ているのに気づく。

「私、また変なことしてます?」
「いや、そんなことはない。丁寧だなと思っただけだ」

 向かい合わせに座っているから、見るものはあまりないんだろうけど……やっぱり見られるのは気になっちゃう。
 氷室さんもよくないと思ったのか、少し視線をそらしてカップに口を付ける。

 私もさっき見すぎちゃったし、手元に視線を戻して自分のコーヒーを飲んだ。
 生クリームの甘さと、香ばしいコーヒーで気持ちが落ち着いてくる。

「氷室さんが気に入っているのが分かります。癒やされますね」
「そうか。私もコーヒーを飲む時間は癒やされているかもしれないな」

 静かな場所でゆっくりと過ごすのは、リラックスできるし。
 こういう時間も大切だから、今日来られて良かった。
 変なドキドキも落ち着いてきたところで、食事も運ばれてくる。
 
「ホントに美味しそう!」
「ああ、それは間違いないからまずは食べるとしよう」

 オムライスを写真に撮ってから、早速食べ始める。
 ふわふわの卵を崩していく瞬間も楽しい。
 
 氷室さんも上品にナポリタンを食べ始めたので、私も食べることに集中する。

 +++

 お腹も膨れると、気持ちも満たされて単純に嬉しくなる。
 私の満足そうな顔を見てから、氷室さんが改めて、と話を切り出した。

「今もきっと混乱しているはずだ。海音が言ったことも含めて、小鳥さんが最終的に決めることだが……私の思ったことを言ってもいいだろうか?」
「はい、それは大丈夫です」

 氷室さんは頷いて、静かに話を続ける。

「君は家族を得た方がいいだろうと、理性ではそう思った。だが、君は今のままでいいのかもしれない」
「氷室さんは……家族だと証明するべき派かなと思っていたので、意外です」
「正直、一人で生きていく大変さは経験のない私では到底理解できない。だが、海音がいる世界に縛り付けられてしまうのも何か違う気がする」
「氷室さん……」

 ここまで真剣に考えてくれているとは思っていなかった。
 本当に私の力になりたいという気持ちが伝わってきて、心の中が温かくなる。

 私は家族がいて欲しいと、心の底では願っていたんだと思う。
 だけど、氷室さんの言う通りだ。
 お金があったとしても自分の道をなかなか自由には選べない責任のある世界では、私は私として生きていけない気がしていたから。

 私にも家族がいたんだと分かっただけで、それだけで嬉しい。
 何か迷惑がかかると言うのならば、一切関係ありませんって書面を交わしてもいいと思っているくらいだし。
 悩んではいるけれど、やっぱり私の中の答えは決まっている。
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