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さよなら厄災竜
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あ、あいしてる……!?
パーシヴァルからの思わぬ言葉に、俺はすっかり動揺してしまった。
まさか、真面目なパーシヴァルから愛してるって言われる日が来るなんて、そんな事を考えたこともなかった!
人生二回目を歩んでいる最中の俺だが、俺に愛してるだなんて言った人は母親ぐらいだ。
だけど、俺も子供じゃない。パーシヴァルの愛しているが、母親の愛してると同じじゃないことぐらいはわかる。俺にとってパーシヴァルは仲間で将来の伴侶。接吻だってする仲なんだし、当然特別な相手だ。
そもそもパーシヴァルの愛しているは、酒屋の看板娘を口説こうとしている連中の愛しているとは訳が違う。だからこそ、いきなり愛してるって言われても、それを受け止める心の準備ってものが……
じわじわと恥ずかしさと照れ臭さが込み上げてくる。きっと今の俺は、すごく間抜けな顔をしているはずだ。パーシヴァルに抱きしめられてて、顔が見られていないのは幸いだった。
「……あー、えーっと、その……と、とにかく、パパッと片付けてすぐ戻ってくるから! 心配しないで待ってて! お……俺も愛してる!」
照れ臭さにパーシヴァルの顔を見ることができなくて、俺は言い逃げ同然にインサニアメトゥスの元へと転移した。
夜の闇よりも黒い漆黒の竜が、木々を薙ぎ倒しながら移動している。
それほど長い間離れていたわけじゃないのに、エト・ケテラの森はすでに酷い状態になっていた。
インサニアメトゥスの吐き出した黒い炎で、森は焼かれ濃い魔素が漂っている。この辺りで魔獣が溢れ出すのも時間の問題だろう。
「……こりゃ酷いな。アイツらは無事に逃げられたかな?」
今更、森に置き去りにしたシュテルンクルストの連中の安否が気になった。とはいえ、王太子は自業自得だから俺が心配してやる義理もない。あいつらも運が良ければ助かるだろうが、助かったところで明るい未来はないだろうけど。
とにかく、これ以上被害が広がらないよう、さっさと竜を倒さないとな。
「ユニサス!」
俺は召喚だしたユニサスの背中に跨ると、インサニアメトゥスを追う。竜は適当に動き回っているわけでもなく、時折鼻先を空に向けて行先を定めている。森からはそう近くはないが、竜の向かっている方向はエト・ケテラの都だ。当然行かせる訳がない。
「ユニサス、あいつの目の前を飛んで」
ユニサスは俺の指示に従って、竜の頭の周りを旋回する。
念の為、ユニサスには二重の防壁魔法を張った。うっかり黒い炎を浴びでもしたら洒落にならないからな。
「やぁ、インサニアメトゥス。150年ぶりだな。せっかく復活したところ悪いけど、今度は永遠に消えてもらうよ。そもそも、お前はこの世界にあってはならない存在なんだ」
インサニアメトゥスを挑発するように、顔を目掛けて雷を何発か落とす。当然、この程度では傷一つ与えられない。
まずはこいつを森から誘い出して、人のいない平地に誘導する。できるだけ退治の際に被害が出ないようにしなくちゃね。
インサニアメトゥスは目の前を飛び回る俺を鬱陶しく感じたのだろう。思ったよりも簡単に挑発に乗った。大きな口を開け、炎を吐きながら俺を追いかけてくる。
「いいぞ、ユニサス。このまま、平地まで誘い出そう!」
ユニサスは俺の意図を汲んで、インサニアメトゥスが途中で気を逸らすことのないよう、鮮やか且つ器用な動きで飛び回る。時には、食われるギリギリまで近づいては、直前でその牙を躱わすなんてこともやってのける。しかも、どこか楽しんでいるように見えなくもない。
ユニサスは慎重な性格だと思っていたけど、案外血気盛んな奴だったんだな。知らなかった……
ユニサスの以外な一面に驚きながらも、なんとかインサニアメトゥスを森の外に誘いだし平地までやってきた。
周囲に村や集落がないかを十分に確認する。うっかり巻き込んでしまったら大変だ。
「それじゃ、さっさと片付けちゃおうか」
俺は杖を振り上げると、ユニサスを追いかけてきたインサニアメトゥスの足元に穴を掘る。インサニアメトゥスがすっぽりと入ってしまう大きくて深い穴だ。
目の前のユニサスに食らいつこうとしたインサニアメトゥスは、突然足元に現れた穴に全く気がつく事なく転がり落ちていく。地響きと咆哮が暗い平地に響き渡った。
簡単に這い上がってこないよう、井戸のように真っ直ぐで深い穴を掘ったけど、その巨体で暴れるものだから早くも穴が崩れはじめている。
インサニアメトゥスが飛竜じゃなくてよかったな。この破壊力でそこらじゅう飛び回られたら、倒すのになかなか骨が折れたことだろう。
「急いで仕上げにかからないとな」
炎を吐き出しながらもがいているインサニアメトゥスの上に、岩や石を降り注ぐ。体の半分ほど埋まると、さすがのインサニアメトゥスも動きが鈍くなった。それでも、穴の底から俺に向けて黒い炎を吐き出してくる。
こいつの黒い鱗はめちゃくちゃ頑丈だ。当然、人の鍛えた剣では傷ひとつつけられない。150年前の俺も、倒すのに相当苦労したもんだ。
だけど、今の俺にはこのトライコーンの杖があるし、それに策もある。
150年前、インサニアメトゥスの骸は火の山の釜に放り込まれたってアウローラは言っていた。それで俺は閃いた。だったら、最初から火の山の釜に放り込めばいいじゃないかと。退治と後始末がいっぺんにできちゃう素晴らしいアイディアだけど、残念ながら今世の俺は火の山の釜には行ったことがない。
それならどうする? だったら、ここに火の山の釜を作ればいいんじゃない? ってね。
俺はトライコーンの杖を振ると、穴に向けて極大魔法を放つ。勢いよく渦を巻く青白い豪炎が、周囲を真昼のように照らし出した。やっぱり、フォルティスの時よりも強い炎だ。これなら、確実にインサニアメトゥスを燃やせる。すごいぞ、トライコーンの杖!
青白い炎は穴の中で渦を巻き、インサニアメトゥスの様子はわからない。時折火のついた石が飛びだしてくるけれど、ユニサスが危なげなく避けてくれた。
しかしこんな奴、いくら魔法使いがいたって倒しきれないぞ。本当に、あの王太子はとんでもないものを復活させたものだ。大体、何を根拠にこの厄災そのものを意のままに従わせることができると思ったんだろう?
服の趣味も最悪だったし、愚か者の考えることは常人には理解し難いものだ。
穴から柱のように吹き上がった炎が落ち着いた頃、すっかり焼け焦げているている地上に降りた俺は、防壁魔法で熱から身を守ると釜を覗き込んだ。中はぐつぐつと煮えたぎっていて、そこにインサニアメトゥスの姿はない。すっかり燃え尽きたんだろう。
「厄災竜の煮込みの出来上がりってところか……」
俺は釜の中に竜の心の臓を探す。王太子の話だと燃え尽きないらしいからな。再び愚か者の手に渡らないよう、回収して処分しないと。
それらしいものが浮いていないか、釜の中をもっとよく見ようと身を乗り出した時だ。突然溶岩の表面が盛りあがったかと思うと、なんとも悍ましい姿のインサニアメトゥスが浮き上がってきた。
肉が焼け落ち半ば骨になってるっていうのに、血のような紅い眼が俺を睨みつけると、黒い炎を吐き出した。
「おっと、」
巻かれる前に炎を風で払い、竜の脳天に雷を落す。
頭蓋を砕かれたインサニアメトゥスは断末魔の叫びをあげながら、再び即席火の山の釜に沈んでいく。今度こそ、本当に息の根を止めたはずだ。それにしても、あんなになっても浮き上がってくるなんて、なかなか根性がある奴だな。
俺が感心していれば、大きな泡と一緒に南瓜ほどの大きさの塊がぷかりと浮かび上がってきた。
「あれだ……」
旋風を起こし、浮いている塊を巻き上げて地上に引き上げた。
足元にゴロリと転がったそれは、黒ずんだ紅色の石の塊で、なんとも禍々しい気を立ち上らせている。
「しかし、こんなのどうやって始末すればいいんだろ? 砕けばいいのかな?」
少し考えて、俺は試しにクロウラーを召喚だす。
「ねぇ、クロウラー。君、こういうのも食べる?」
尋ねてみると、クロウラーは石の塊に乗り上がりゴリゴリと音を立てて食べ始めた。
「あ、食べるんだ」
さすが、なんでも食べるクロウラーだ。インサニアメトゥスの心の臓さえも、ものともせず食べちゃうんだな。だけど、食べ始めて間も無くクロウラーの体が淡く光り始めた。
「クロウラー?」
心配になって体に触れると、もともと天鵞絨のような心地よい肌触りが、より一層滑らかなになっている。まるで、天にでも昇るような撫で心地だ。
「わぁ……すごい……」
なんだかよくわからないけど、インサニアメトゥスの心の臓を食べたことによって、クロウラーはちょっと調子が良くなったみたい。厄災ばかりじゃなく、多少は良い効果もあるんだな。厄災に比べたら、ごくごく細やかな影響だけど。
それにしても、大陸を滅ぼすと言われた厄災竜の最後はクロウラーのおやつだとはね……だけど、これで厄災竜が現れることは二度とない。
「さてと、そろそろ後片付けをして帰りますか」
インサニアメトゥスの心の臓を食べて光るクロウラーをしばらく見守った俺は、即席火の山の釜を埋め戻す作業を始めた。他国の地で大穴を開けて、そのままにして帰るわけには行かないからね。
厄災竜の後始末が終わる頃には、東の空が白み始めていた。もうすぐ夜明けだ。
周囲は多少焦げ付いてはいるものの、ほとんど元通り。ここに大穴があったなんて、誰も思わないだろう。まずは帰ってひと寝入りしたい。さすがに疲れた。
俺はおやつを食べ終えて満足しているご機嫌なクロウラーを幻獣界に帰すと、ヴァンダーウォールへと戻った。
一晩中起きて動き回っていたからだろう。急激に眠気に襲われた俺は、着いたその場でひっくりかえると眠りに落ちた。
……何か忘れている気がするけど、今は眠くて考えられないや。とりあえず、おやすみ。
パーシヴァルからの思わぬ言葉に、俺はすっかり動揺してしまった。
まさか、真面目なパーシヴァルから愛してるって言われる日が来るなんて、そんな事を考えたこともなかった!
人生二回目を歩んでいる最中の俺だが、俺に愛してるだなんて言った人は母親ぐらいだ。
だけど、俺も子供じゃない。パーシヴァルの愛しているが、母親の愛してると同じじゃないことぐらいはわかる。俺にとってパーシヴァルは仲間で将来の伴侶。接吻だってする仲なんだし、当然特別な相手だ。
そもそもパーシヴァルの愛しているは、酒屋の看板娘を口説こうとしている連中の愛しているとは訳が違う。だからこそ、いきなり愛してるって言われても、それを受け止める心の準備ってものが……
じわじわと恥ずかしさと照れ臭さが込み上げてくる。きっと今の俺は、すごく間抜けな顔をしているはずだ。パーシヴァルに抱きしめられてて、顔が見られていないのは幸いだった。
「……あー、えーっと、その……と、とにかく、パパッと片付けてすぐ戻ってくるから! 心配しないで待ってて! お……俺も愛してる!」
照れ臭さにパーシヴァルの顔を見ることができなくて、俺は言い逃げ同然にインサニアメトゥスの元へと転移した。
夜の闇よりも黒い漆黒の竜が、木々を薙ぎ倒しながら移動している。
それほど長い間離れていたわけじゃないのに、エト・ケテラの森はすでに酷い状態になっていた。
インサニアメトゥスの吐き出した黒い炎で、森は焼かれ濃い魔素が漂っている。この辺りで魔獣が溢れ出すのも時間の問題だろう。
「……こりゃ酷いな。アイツらは無事に逃げられたかな?」
今更、森に置き去りにしたシュテルンクルストの連中の安否が気になった。とはいえ、王太子は自業自得だから俺が心配してやる義理もない。あいつらも運が良ければ助かるだろうが、助かったところで明るい未来はないだろうけど。
とにかく、これ以上被害が広がらないよう、さっさと竜を倒さないとな。
「ユニサス!」
俺は召喚だしたユニサスの背中に跨ると、インサニアメトゥスを追う。竜は適当に動き回っているわけでもなく、時折鼻先を空に向けて行先を定めている。森からはそう近くはないが、竜の向かっている方向はエト・ケテラの都だ。当然行かせる訳がない。
「ユニサス、あいつの目の前を飛んで」
ユニサスは俺の指示に従って、竜の頭の周りを旋回する。
念の為、ユニサスには二重の防壁魔法を張った。うっかり黒い炎を浴びでもしたら洒落にならないからな。
「やぁ、インサニアメトゥス。150年ぶりだな。せっかく復活したところ悪いけど、今度は永遠に消えてもらうよ。そもそも、お前はこの世界にあってはならない存在なんだ」
インサニアメトゥスを挑発するように、顔を目掛けて雷を何発か落とす。当然、この程度では傷一つ与えられない。
まずはこいつを森から誘い出して、人のいない平地に誘導する。できるだけ退治の際に被害が出ないようにしなくちゃね。
インサニアメトゥスは目の前を飛び回る俺を鬱陶しく感じたのだろう。思ったよりも簡単に挑発に乗った。大きな口を開け、炎を吐きながら俺を追いかけてくる。
「いいぞ、ユニサス。このまま、平地まで誘い出そう!」
ユニサスは俺の意図を汲んで、インサニアメトゥスが途中で気を逸らすことのないよう、鮮やか且つ器用な動きで飛び回る。時には、食われるギリギリまで近づいては、直前でその牙を躱わすなんてこともやってのける。しかも、どこか楽しんでいるように見えなくもない。
ユニサスは慎重な性格だと思っていたけど、案外血気盛んな奴だったんだな。知らなかった……
ユニサスの以外な一面に驚きながらも、なんとかインサニアメトゥスを森の外に誘いだし平地までやってきた。
周囲に村や集落がないかを十分に確認する。うっかり巻き込んでしまったら大変だ。
「それじゃ、さっさと片付けちゃおうか」
俺は杖を振り上げると、ユニサスを追いかけてきたインサニアメトゥスの足元に穴を掘る。インサニアメトゥスがすっぽりと入ってしまう大きくて深い穴だ。
目の前のユニサスに食らいつこうとしたインサニアメトゥスは、突然足元に現れた穴に全く気がつく事なく転がり落ちていく。地響きと咆哮が暗い平地に響き渡った。
簡単に這い上がってこないよう、井戸のように真っ直ぐで深い穴を掘ったけど、その巨体で暴れるものだから早くも穴が崩れはじめている。
インサニアメトゥスが飛竜じゃなくてよかったな。この破壊力でそこらじゅう飛び回られたら、倒すのになかなか骨が折れたことだろう。
「急いで仕上げにかからないとな」
炎を吐き出しながらもがいているインサニアメトゥスの上に、岩や石を降り注ぐ。体の半分ほど埋まると、さすがのインサニアメトゥスも動きが鈍くなった。それでも、穴の底から俺に向けて黒い炎を吐き出してくる。
こいつの黒い鱗はめちゃくちゃ頑丈だ。当然、人の鍛えた剣では傷ひとつつけられない。150年前の俺も、倒すのに相当苦労したもんだ。
だけど、今の俺にはこのトライコーンの杖があるし、それに策もある。
150年前、インサニアメトゥスの骸は火の山の釜に放り込まれたってアウローラは言っていた。それで俺は閃いた。だったら、最初から火の山の釜に放り込めばいいじゃないかと。退治と後始末がいっぺんにできちゃう素晴らしいアイディアだけど、残念ながら今世の俺は火の山の釜には行ったことがない。
それならどうする? だったら、ここに火の山の釜を作ればいいんじゃない? ってね。
俺はトライコーンの杖を振ると、穴に向けて極大魔法を放つ。勢いよく渦を巻く青白い豪炎が、周囲を真昼のように照らし出した。やっぱり、フォルティスの時よりも強い炎だ。これなら、確実にインサニアメトゥスを燃やせる。すごいぞ、トライコーンの杖!
青白い炎は穴の中で渦を巻き、インサニアメトゥスの様子はわからない。時折火のついた石が飛びだしてくるけれど、ユニサスが危なげなく避けてくれた。
しかしこんな奴、いくら魔法使いがいたって倒しきれないぞ。本当に、あの王太子はとんでもないものを復活させたものだ。大体、何を根拠にこの厄災そのものを意のままに従わせることができると思ったんだろう?
服の趣味も最悪だったし、愚か者の考えることは常人には理解し難いものだ。
穴から柱のように吹き上がった炎が落ち着いた頃、すっかり焼け焦げているている地上に降りた俺は、防壁魔法で熱から身を守ると釜を覗き込んだ。中はぐつぐつと煮えたぎっていて、そこにインサニアメトゥスの姿はない。すっかり燃え尽きたんだろう。
「厄災竜の煮込みの出来上がりってところか……」
俺は釜の中に竜の心の臓を探す。王太子の話だと燃え尽きないらしいからな。再び愚か者の手に渡らないよう、回収して処分しないと。
それらしいものが浮いていないか、釜の中をもっとよく見ようと身を乗り出した時だ。突然溶岩の表面が盛りあがったかと思うと、なんとも悍ましい姿のインサニアメトゥスが浮き上がってきた。
肉が焼け落ち半ば骨になってるっていうのに、血のような紅い眼が俺を睨みつけると、黒い炎を吐き出した。
「おっと、」
巻かれる前に炎を風で払い、竜の脳天に雷を落す。
頭蓋を砕かれたインサニアメトゥスは断末魔の叫びをあげながら、再び即席火の山の釜に沈んでいく。今度こそ、本当に息の根を止めたはずだ。それにしても、あんなになっても浮き上がってくるなんて、なかなか根性がある奴だな。
俺が感心していれば、大きな泡と一緒に南瓜ほどの大きさの塊がぷかりと浮かび上がってきた。
「あれだ……」
旋風を起こし、浮いている塊を巻き上げて地上に引き上げた。
足元にゴロリと転がったそれは、黒ずんだ紅色の石の塊で、なんとも禍々しい気を立ち上らせている。
「しかし、こんなのどうやって始末すればいいんだろ? 砕けばいいのかな?」
少し考えて、俺は試しにクロウラーを召喚だす。
「ねぇ、クロウラー。君、こういうのも食べる?」
尋ねてみると、クロウラーは石の塊に乗り上がりゴリゴリと音を立てて食べ始めた。
「あ、食べるんだ」
さすが、なんでも食べるクロウラーだ。インサニアメトゥスの心の臓さえも、ものともせず食べちゃうんだな。だけど、食べ始めて間も無くクロウラーの体が淡く光り始めた。
「クロウラー?」
心配になって体に触れると、もともと天鵞絨のような心地よい肌触りが、より一層滑らかなになっている。まるで、天にでも昇るような撫で心地だ。
「わぁ……すごい……」
なんだかよくわからないけど、インサニアメトゥスの心の臓を食べたことによって、クロウラーはちょっと調子が良くなったみたい。厄災ばかりじゃなく、多少は良い効果もあるんだな。厄災に比べたら、ごくごく細やかな影響だけど。
それにしても、大陸を滅ぼすと言われた厄災竜の最後はクロウラーのおやつだとはね……だけど、これで厄災竜が現れることは二度とない。
「さてと、そろそろ後片付けをして帰りますか」
インサニアメトゥスの心の臓を食べて光るクロウラーをしばらく見守った俺は、即席火の山の釜を埋め戻す作業を始めた。他国の地で大穴を開けて、そのままにして帰るわけには行かないからね。
厄災竜の後始末が終わる頃には、東の空が白み始めていた。もうすぐ夜明けだ。
周囲は多少焦げ付いてはいるものの、ほとんど元通り。ここに大穴があったなんて、誰も思わないだろう。まずは帰ってひと寝入りしたい。さすがに疲れた。
俺はおやつを食べ終えて満足しているご機嫌なクロウラーを幻獣界に帰すと、ヴァンダーウォールへと戻った。
一晩中起きて動き回っていたからだろう。急激に眠気に襲われた俺は、着いたその場でひっくりかえると眠りに落ちた。
……何か忘れている気がするけど、今は眠くて考えられないや。とりあえず、おやすみ。
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