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閑話:ある日の午後〜ちょっと未来の2人の話〜
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「……急いでベリサリオ様を呼んできた方がよろしいのではなくて?」
不意に聞こえてきた己の名に足を止め振り返る。
見覚えのある2人の令嬢が顔を寄せて囁きあっていた。確か彼女達は月に数度、サフィラスとサロンでお茶会をしているご令嬢だ。小声で会話をしていた令嬢達は俺に気がつくと、慌てた様子でこちらに走り寄ってくる。
「ベリサリオ様! ちょうどよかった!」
「たった今、ベリサリオ様をお呼びした方がいいのではと話していたところですの」
「何かあったのですか?」
「サフィラス様が中庭で午睡をされているのですが……」
「お伴の召喚獣をお側に置いているとはいえ、少々危ないのではと」
眉を寄せて代わる代わるに訴える令嬢達に、おおよその状況を理解した。
「わかりました。知らせてくれて感謝します」
礼を述べ足早に中庭へと向かう。
中庭はサフィラスが気に入っている場所の一つだ。カフェテリアに居なければ、大体中庭で過ごしている。以前は格好よく見える杖の振り方というものを追求して杖を振り回していたが、最近はすっかりその姿を見なくなった。彼なりの納得する型が決まったのだろう。
そもそもサフィラスは杖を必要としない魔法使いだが、杖に美学を見出してからは常に身につけている。そんな彼の影響を受けて、この学院には杖を使う学生が多い。
強力な上級魔法を使いこなすサフィラスが堂々と杖を振っているのだ。特に彼は派手な身振りで杖を抜く。その姿が、これまで誰もが抱いていた、杖は未熟な魔法使いの為の魔法具という考えをすっかり塗り替えた。
サフィラス曰く、魔力が強く魔法が得意な者こそ杖を使った方がいいそうだ。相性の良い杖を使えば、魔力の流れが格段に良くなるらしい。サフィラスほどの魔法使いが言うのだからそうなのだろう。
彼の世間の常識に捉われない柔軟な考え方にはいつも感服させられる。その度に、俺もその姿勢を見習わねばと思う。
令嬢達の言う通り、午後の陽射しが降り注ぐその場所で、手足を投げ出したサフィラスがクー・シーの腹を枕に熟睡していた。クー・シーは俺が近づくと目を開けて頭を擡げたけれど、直ぐに揃えた前脚に顎を戻し、興味なさげに目を閉じる。
それにしても、幻獣を呼び出したまま眠っていられるのだから、彼の魔力の無尽蔵さを見せつけられるようだ。いつぞやは巨大な召喚獣を四体も呼び出したまま、一月以上も平気な顔で過ごしていたこともあった。それを知った時は肝を冷やしたが、そんな事も今となっては懐かしい。
俺はサフィラスを起こさないように、傍にそっと座る。
絹のように細く艶やかな黒髪に、透けるような白皙の肌。淡くけむるような陽の中で眠るサフィラスは、うっかり触れれば消えてしまいそうだ。
「まさに眠れる精霊だな……」
元々整った容姿をしているサフィラスだったが、第三学年に進級した頃からまるで纏っていたヴェールを脱いだかの様に一層美しくなった。
あどけなさが抜けて大人びたせいか、神秘的なその容貌は、本人が望むと望まざるとにかかわらず、男女を問わず多くの者の心を魅了する。けれど本人に人目を引く自覚が全くなく、その無頓着さが隙に見えるようだ。
学院は基本的に安全な場所ではあるが、残念ながら良からぬ事を考える者が全く居ないとは言えない。
昨年ごろから他国との文化交流がより盛んになり、近隣諸国の貴族が留学生としてこの学院にやってくるようになった。留学生の中には俺の婚約者である事を知っていながらも、サフィラスに懸想する者もいる。流石に辺境伯家の婚約にあからさまな横槍を入れようとする者はいないが、優秀な魔法使いである彼をなんとしても迎え入れたいと、あの手この手で近づこうとしているのだ。
当然彼等はサフィラスの為人を知らず、見た目の儚さから大人しく従順な人物だと思い込んでいる。
サフィラスの本質は、その儚げな容姿とは真逆のものだ。何よりも自由で強かで逞しい。どんな災いや脅威さえも、僅かにも怖じる事なく一人で立ち向かい一掃してしまう。
その上、情に厚い一面も持ち合わせていて、それ故に懐に迎え入れた者全てを当たり前のように守ろうとするのだ。並の胆力では、破天荒な彼と共に立つことはできないだろう。
今も離れた場所からこちらを伺っている気配はあるが、大きな妖精犬に近づく度胸のある者はいない。
彼を女神の寵児と呼ぶ者もいるが、まさしくそうなのだろう。本来ならば、只人の俺が伴侶になれるような人ではないのかもしれない。それでも俺はサフィラスと共に在ると決めた。
心の赴くままにどこまでも進むサフィラスが、立ち止まり振り返る必要がないように、そのために俺がいる。
「……サフィラス」
そっと呼びかけるも、青い星を隠す瞼は開かない。余程深く眠っているのだろう。額にかかる髪を指で払いながら、サフィラスの白い額にそっとくちびるを落とす。
「ん……パーシヴァル?」
気怠げな声が名を呼ぶ。まだ夢を見ているような茫洋とした青い宝玉が俺を映す。どうやら口付けが眠れる精霊を目覚めさせたようだ。
「こんなところで寝ていたら、危ないぞ」
「大丈夫だよ……クー・シーがいる。それに……」
まだ眠そうなサフィラスは、つい最近何処かで見つけてきたと言う古い本を夜遅くまで読んでいたのだろう。遺跡級の珍しいものだと興奮していた。程よいところで止めなければ、倒れるまでのめり込む。そろそろ夜はしっかりと寝るように注意しなければならないだろう。
「それに?」
「今はパーシヴァルが居る……」
サフィラスは細く白い指で俺の頬に触れると、甘えるように鼻先を擦り合わせた。俺の前でだけ、時折り見せてくれる甘い仕草に心が震える。
ああ……これだから堪らない。
出会った時から誰に頼ることなく1人で立っていたサフィラスが、漸く俺の前でこんな姿を見せてくれるようになったのだ。
けれど、そんな至福も僅かな時間だった。俺の頬に触れていた手から力が抜けて、パタリと落ちる。サフィラスは既に瞼を閉じていて、穏やかな寝息を立てていた。
「ふっ……仕方がないな、」
俺は上着を脱ぐと、再び寝入ってしまったサフィラスにそっと掛ける。
長いまつ毛に溢れる光はいつまでも見つめていたい程に美しいが、少し日差しが眩しそうだ。サフィラスの顔に直接陽光が当たらない様、体をずらし自身の影を日除けにする。
「にゃっ! 妖精の犬め! どうしてお前がいるにゃ!」
しばし穏やかな空気に浸っていれば、不意に場にそぐわない大きな声が響いたかと思うと、小さな黒い猫が元気よくこちらに走ってきた。
サフィラスの小さな相棒、ケット・シーだ。次元の隙間とやらからこちらにやってきたのだろう。
彼がクー・シーに対し一方的に突っかかている姿をよく見かけるが、サフィラス曰く仲が悪いわけでは無いらしい。普段ならそれも微笑ましい姿だが。
無用な騒ぎを起こそうとしているケット・シーを手で制し、口の前で人差し指を立てた。俺の仕草にケット・シーがピタリと足を止める。賢い召喚獣だ。それだけですぐに察したらしい。
「……ご主人は寝てるのかにゃ?」
ケット・シーがサフィラスの顔を覗き込む。
「ああ、そうだ。疲れている様だから、休ませてやって欲しい」
「……仕方にゃいにゃ」
ケット・シーは小さな前脚でサフィラスの頬に数度触れたかと思うと、何を思ったのか今度はクー・シーの鼻先を思い切り叩いた。突然叩かれたクー・シーは驚いて顔を上げたけれど、腹にサフィラスの頭が乗っているからか立ち上がることは無かった。
「ケット・シー」
咎めるように名を呼べば、ケット・シーはピシリピシリと尾を振った。
「にゃんだかイラッとしたにゃ」
……なるほど。
それは恐らく嫉妬だろう。召喚獣が契約者に執着すると言う話は聞いたことがない。召喚獣は、契約者との魔力が断たれれば互いに干渉することはないと聞く。だから、召喚されていないケット・シーとサフィラスの間に、今現在はなんの繋がりもない。けれど、勝手にこちら側に渡ってくる彼は、いつだって必ずサフィラスの元にやってくるのだ。
サフィラスは召喚獣を使役するのではなく、常に対等に接し尊重している。彼等とは魔力を与えるだけの関係ではなく、確かな絆で繋がっているのだろう。
「ケット・シーも此処でサフィラスを守ってはくれないか? 俺とクー・シーだけでは心許ない」
「にゃにゃ。それは仕方がないにゃ」
ケット・シーはするりとサフィラスの側に寄り添うと何度か座り直し、くるりと丸くなってふぅとため息をつく。そうしていると普通の猫にしか見えないが、これで強力な召喚獣だ。自分よりも遥かに大きい魔獣にも怯むことなく飛びかかってゆくその気質は、どこかサフィラスと相通じるものがある。似た者同士、より気が合うのかもしれない。
穏やかに眠るサフィラスと召喚獣達の姿は実に微笑ましい光景だ。この長閑な時間をとても愛おしく思う。
慈悲深き運命の女神フォルティーナよ。俺の声は聞こえているだろうか。
今こそ貴女に誓おう。
俺は何があろうと、決してサフィラスを1人にはしない。彼の剣となり盾となり、どんな無様を演じようとも生き足掻いてみせる。
この世界での人生を余すことなく謳歌し、十分満ち足りたサフィラスが貴女の元へと無事に還る姿を見届けるまで、彼方の国に向かう船に乗ることはない。
だからどうか。
俺の運命が、サフィラスの人生の一部で在らんことを。
不意に聞こえてきた己の名に足を止め振り返る。
見覚えのある2人の令嬢が顔を寄せて囁きあっていた。確か彼女達は月に数度、サフィラスとサロンでお茶会をしているご令嬢だ。小声で会話をしていた令嬢達は俺に気がつくと、慌てた様子でこちらに走り寄ってくる。
「ベリサリオ様! ちょうどよかった!」
「たった今、ベリサリオ様をお呼びした方がいいのではと話していたところですの」
「何かあったのですか?」
「サフィラス様が中庭で午睡をされているのですが……」
「お伴の召喚獣をお側に置いているとはいえ、少々危ないのではと」
眉を寄せて代わる代わるに訴える令嬢達に、おおよその状況を理解した。
「わかりました。知らせてくれて感謝します」
礼を述べ足早に中庭へと向かう。
中庭はサフィラスが気に入っている場所の一つだ。カフェテリアに居なければ、大体中庭で過ごしている。以前は格好よく見える杖の振り方というものを追求して杖を振り回していたが、最近はすっかりその姿を見なくなった。彼なりの納得する型が決まったのだろう。
そもそもサフィラスは杖を必要としない魔法使いだが、杖に美学を見出してからは常に身につけている。そんな彼の影響を受けて、この学院には杖を使う学生が多い。
強力な上級魔法を使いこなすサフィラスが堂々と杖を振っているのだ。特に彼は派手な身振りで杖を抜く。その姿が、これまで誰もが抱いていた、杖は未熟な魔法使いの為の魔法具という考えをすっかり塗り替えた。
サフィラス曰く、魔力が強く魔法が得意な者こそ杖を使った方がいいそうだ。相性の良い杖を使えば、魔力の流れが格段に良くなるらしい。サフィラスほどの魔法使いが言うのだからそうなのだろう。
彼の世間の常識に捉われない柔軟な考え方にはいつも感服させられる。その度に、俺もその姿勢を見習わねばと思う。
令嬢達の言う通り、午後の陽射しが降り注ぐその場所で、手足を投げ出したサフィラスがクー・シーの腹を枕に熟睡していた。クー・シーは俺が近づくと目を開けて頭を擡げたけれど、直ぐに揃えた前脚に顎を戻し、興味なさげに目を閉じる。
それにしても、幻獣を呼び出したまま眠っていられるのだから、彼の魔力の無尽蔵さを見せつけられるようだ。いつぞやは巨大な召喚獣を四体も呼び出したまま、一月以上も平気な顔で過ごしていたこともあった。それを知った時は肝を冷やしたが、そんな事も今となっては懐かしい。
俺はサフィラスを起こさないように、傍にそっと座る。
絹のように細く艶やかな黒髪に、透けるような白皙の肌。淡くけむるような陽の中で眠るサフィラスは、うっかり触れれば消えてしまいそうだ。
「まさに眠れる精霊だな……」
元々整った容姿をしているサフィラスだったが、第三学年に進級した頃からまるで纏っていたヴェールを脱いだかの様に一層美しくなった。
あどけなさが抜けて大人びたせいか、神秘的なその容貌は、本人が望むと望まざるとにかかわらず、男女を問わず多くの者の心を魅了する。けれど本人に人目を引く自覚が全くなく、その無頓着さが隙に見えるようだ。
学院は基本的に安全な場所ではあるが、残念ながら良からぬ事を考える者が全く居ないとは言えない。
昨年ごろから他国との文化交流がより盛んになり、近隣諸国の貴族が留学生としてこの学院にやってくるようになった。留学生の中には俺の婚約者である事を知っていながらも、サフィラスに懸想する者もいる。流石に辺境伯家の婚約にあからさまな横槍を入れようとする者はいないが、優秀な魔法使いである彼をなんとしても迎え入れたいと、あの手この手で近づこうとしているのだ。
当然彼等はサフィラスの為人を知らず、見た目の儚さから大人しく従順な人物だと思い込んでいる。
サフィラスの本質は、その儚げな容姿とは真逆のものだ。何よりも自由で強かで逞しい。どんな災いや脅威さえも、僅かにも怖じる事なく一人で立ち向かい一掃してしまう。
その上、情に厚い一面も持ち合わせていて、それ故に懐に迎え入れた者全てを当たり前のように守ろうとするのだ。並の胆力では、破天荒な彼と共に立つことはできないだろう。
今も離れた場所からこちらを伺っている気配はあるが、大きな妖精犬に近づく度胸のある者はいない。
彼を女神の寵児と呼ぶ者もいるが、まさしくそうなのだろう。本来ならば、只人の俺が伴侶になれるような人ではないのかもしれない。それでも俺はサフィラスと共に在ると決めた。
心の赴くままにどこまでも進むサフィラスが、立ち止まり振り返る必要がないように、そのために俺がいる。
「……サフィラス」
そっと呼びかけるも、青い星を隠す瞼は開かない。余程深く眠っているのだろう。額にかかる髪を指で払いながら、サフィラスの白い額にそっとくちびるを落とす。
「ん……パーシヴァル?」
気怠げな声が名を呼ぶ。まだ夢を見ているような茫洋とした青い宝玉が俺を映す。どうやら口付けが眠れる精霊を目覚めさせたようだ。
「こんなところで寝ていたら、危ないぞ」
「大丈夫だよ……クー・シーがいる。それに……」
まだ眠そうなサフィラスは、つい最近何処かで見つけてきたと言う古い本を夜遅くまで読んでいたのだろう。遺跡級の珍しいものだと興奮していた。程よいところで止めなければ、倒れるまでのめり込む。そろそろ夜はしっかりと寝るように注意しなければならないだろう。
「それに?」
「今はパーシヴァルが居る……」
サフィラスは細く白い指で俺の頬に触れると、甘えるように鼻先を擦り合わせた。俺の前でだけ、時折り見せてくれる甘い仕草に心が震える。
ああ……これだから堪らない。
出会った時から誰に頼ることなく1人で立っていたサフィラスが、漸く俺の前でこんな姿を見せてくれるようになったのだ。
けれど、そんな至福も僅かな時間だった。俺の頬に触れていた手から力が抜けて、パタリと落ちる。サフィラスは既に瞼を閉じていて、穏やかな寝息を立てていた。
「ふっ……仕方がないな、」
俺は上着を脱ぐと、再び寝入ってしまったサフィラスにそっと掛ける。
長いまつ毛に溢れる光はいつまでも見つめていたい程に美しいが、少し日差しが眩しそうだ。サフィラスの顔に直接陽光が当たらない様、体をずらし自身の影を日除けにする。
「にゃっ! 妖精の犬め! どうしてお前がいるにゃ!」
しばし穏やかな空気に浸っていれば、不意に場にそぐわない大きな声が響いたかと思うと、小さな黒い猫が元気よくこちらに走ってきた。
サフィラスの小さな相棒、ケット・シーだ。次元の隙間とやらからこちらにやってきたのだろう。
彼がクー・シーに対し一方的に突っかかている姿をよく見かけるが、サフィラス曰く仲が悪いわけでは無いらしい。普段ならそれも微笑ましい姿だが。
無用な騒ぎを起こそうとしているケット・シーを手で制し、口の前で人差し指を立てた。俺の仕草にケット・シーがピタリと足を止める。賢い召喚獣だ。それだけですぐに察したらしい。
「……ご主人は寝てるのかにゃ?」
ケット・シーがサフィラスの顔を覗き込む。
「ああ、そうだ。疲れている様だから、休ませてやって欲しい」
「……仕方にゃいにゃ」
ケット・シーは小さな前脚でサフィラスの頬に数度触れたかと思うと、何を思ったのか今度はクー・シーの鼻先を思い切り叩いた。突然叩かれたクー・シーは驚いて顔を上げたけれど、腹にサフィラスの頭が乗っているからか立ち上がることは無かった。
「ケット・シー」
咎めるように名を呼べば、ケット・シーはピシリピシリと尾を振った。
「にゃんだかイラッとしたにゃ」
……なるほど。
それは恐らく嫉妬だろう。召喚獣が契約者に執着すると言う話は聞いたことがない。召喚獣は、契約者との魔力が断たれれば互いに干渉することはないと聞く。だから、召喚されていないケット・シーとサフィラスの間に、今現在はなんの繋がりもない。けれど、勝手にこちら側に渡ってくる彼は、いつだって必ずサフィラスの元にやってくるのだ。
サフィラスは召喚獣を使役するのではなく、常に対等に接し尊重している。彼等とは魔力を与えるだけの関係ではなく、確かな絆で繋がっているのだろう。
「ケット・シーも此処でサフィラスを守ってはくれないか? 俺とクー・シーだけでは心許ない」
「にゃにゃ。それは仕方がないにゃ」
ケット・シーはするりとサフィラスの側に寄り添うと何度か座り直し、くるりと丸くなってふぅとため息をつく。そうしていると普通の猫にしか見えないが、これで強力な召喚獣だ。自分よりも遥かに大きい魔獣にも怯むことなく飛びかかってゆくその気質は、どこかサフィラスと相通じるものがある。似た者同士、より気が合うのかもしれない。
穏やかに眠るサフィラスと召喚獣達の姿は実に微笑ましい光景だ。この長閑な時間をとても愛おしく思う。
慈悲深き運命の女神フォルティーナよ。俺の声は聞こえているだろうか。
今こそ貴女に誓おう。
俺は何があろうと、決してサフィラスを1人にはしない。彼の剣となり盾となり、どんな無様を演じようとも生き足掻いてみせる。
この世界での人生を余すことなく謳歌し、十分満ち足りたサフィラスが貴女の元へと無事に還る姿を見届けるまで、彼方の国に向かう船に乗ることはない。
だからどうか。
俺の運命が、サフィラスの人生の一部で在らんことを。
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