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どんな道だろうが、俺がいるからいるから大丈夫!

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 「騎士さまの大切な人は、雪じゃなくて光の精霊様だったのね!」

 静まり返ったその場に、女の子の声が響く。パーシヴァルに抱き上げられている女の子が目をキラキラとさせていた。それをきっかけに周囲がわっと盛り上がる。精霊が現れただとかあっちこちで聞こえてくるけど、俺は精霊じゃなくてただの魔法使いだ。トライコーンの杖がちょっと派手なだけで。
 それからすぐに、警邏中の騎士と警備兵がやってきた。パーシヴァルが何が起きたのかを説明すると、騎士たちが後を引き継いでくれることになった。男たちには、女の子と店を壊された店主にきっちり弁償するように忘れずに伝える。露店を一つ壊しているからな。それなりの額を支払うことになるだろうけど、それは自業自得だ。大男が4人も揃ってるんだから、それくらい稼げるだろう。だけど、女の子が真心を込めて作った冠には値段はつけられない。一つ小さな白銅貨一枚だったかもしれないけど。

 「それから、お前たちが踏み潰した冠は彼女が真心を込めて作った品物なんだぞ。この小さな手で柊を編むのがどれだけ大変だったか、よく考えて反省しろ。酒は飲んでも飲まれるなと肝に銘じるように」

 前世では酒に飲まれて愚かな死に方をした俺が何を言ってるんだって話だが、だからこその助言だ。意識のない仲間を前に男2人は神妙な顔をしていたので、十分に反省はしているだろう。
 ちなみに。倒れている男2人は、明日まで起きることはない。何しろ、結構な魔力を込めて殴ったからな。
 俺が酔っ払いを殴り倒したところを見ていた人たちが、精霊様、精霊様と騒ぎ始めたので、俺とパーシヴァルは急いでその場を離れた。まだまだ見たいものや食べたいものが沢山あるから、足止めされるわけには行かないのだ。



 「なんだか、思わぬ騒ぎに巻き込まれちゃったね」

 「ああ、そうだな」

 だけどこれだけの規模の祭りなら、酔っ払いの喧嘩なんて一晩でいくつも起きるだろう。警邏の人たちも大変だよな。
 
 「おや、お前さん。今夜は随分と可愛い祝福を身につけているね」

 雑踏の中、聞き覚えのある声に話しかけられて足を止めた。

 「ノマドのお婆さん、」

 縁があったんだろう、案外早くお婆さんと再開した。お婆さんの前にある木箱を重ねた台にはクロスがかけられ、水晶と使い込まれたタロットカードが置かれている。今夜の売り物は、小物ではなく占いのようだ。

 「拙いが、なかなかいいお守りじゃないか」

 お婆さんは俺の頭に乗せた柊の冠を指差す。女の子は幸せになる祈りを込めてこの冠を作ったと言っていた。もしかしたら、彼女は僅かだけど白魔法が使えるのかもしれないな。その魔法が彼女自身を幸せにしてくれるといいんだけど。そんなことを考えていれば、お婆さんは俺の隣に立つパーシヴァルをじっと見つめていた。

 「……お前さん今夜の記念に一つ占ってゆくかい? もちろんタダで見てあげるよ」

 「いいえ。有難いですが、結構です。例えこの先にどんな選択や困難が待っていたとしても、俺は自身の力で道を選び、切り拓きたいと考えているので」

 さすがパーシヴァル。しっかりしているなぁ。俺だったらできるだけ楽をしたいし、面倒臭い選択は誰かに任せたいって思うのに。

 「おや、若いのになかなかいい覚悟を持っているじゃないか。ならば、年寄りがわざわざ余計な事を言う必要はないね。これからもお前さんの信念に従って進んでおゆき。ただし、その道は決して易くはないよ」

 「はい。もとより承知の上です」

 パーシヴァルは真剣な顔で頷く。
 決して易くはない道、か。だけどパーシヴァルがどんな道を行こうとも、俺が一緒だから大丈夫。

 「心配ないよ! パーシヴァルには俺がいるんだから、どんな道だろうと恐るるに足らずだ!」

 「サフィラス……」

 「……確かにお前さんなら、どんな道でも気にせずに歩いてゆくだろうね」

 お婆さんはちょっと呆れたように言ったけど、俺には女神直々に授けられた強運の加護がある。どんな険しい道でもへっちゃらに決まっている。

 「当然だよ! な、パーシヴァル!」

 「ああ、そうだな」

 パーシヴァルが表情を緩める。俺たちは仲間なんだから、どんな困難も一緒に乗り越えてゆこう。
 お婆さんにいとまを告げて、屋台を覗きながらそぞろ歩く。縁があったら会えるだろうとお婆さんは言ったけれど、きっとまた会うんじゃないかと思う。お婆さんと俺たちは、なんらかの縁があるような気がするんだよな。

 何件かの屋台で珍しいものを食べて、アウローラへのお土産に硝子でできた星型のオーナメントを買った。とっても綺麗だけど、公爵令嬢のアウローラに渡すには些か庶民的すぎる品物だ。でも、お土産は気持ちだから。安物だから壊れても惜しくないし、窓にでもぶら下げておけば部屋に光が反射して綺麗だと思うんだ。

 「広場には店だけではなく旅芸人や吟遊詩人も来ているんだ。見に行ってみるか?」

 「うん、行こう!」

 折角だから、楽しめるものは全部楽しまなきゃね。それに、ちょっとお腹もいっぱいになってきたし。
  
 「サフィラス殿!」

 広場に行けば、キングスリーさんとその部隊の人達がエールを飲んでいた。広場でも飲んで食事ができるようになっていて、どのテーブルも人でいっぱいだ。キングスリーさん達のテーブルにも、所狭しと料理の皿が並んでいる。みんな既に赤ら顔になっていて、随分お酒が進んでいるみたいだ。

 「キングスリーさん、随分盛り上がっていますね」

 「もちろんですとも! 今日この日の為に働いておりますからな! 城と此処を往復しておりますよ」

 どう言う事かと首を傾げていれば、城でも軍の人たちを中心としたパーティが行われているんだそうだ。そういえば、アデライン夫人が言ってたな。新年まで続くパーティがあるって。
 ヴァンダーウォールの軍に所属する者なら誰でも参加できるみたいだけど、当然上官もいるので思い切り羽目を外すわけにも行かないらしく、城のパーティに参加しない人もいる。キングスリーさんは、そのパーティに参加しない兵士達とも飲むために、城と此処を掛け持ちしているらしい。キングスリーさんらしいけど、移動するだけでも大変じゃない?

 「今年はサフィラス殿のおかげで、良い年末が迎えられましたぞ! なぁ、皆んな!」

 キングスリーさんがそう言うと、その場にいた兵士達がおー!っと声を上げる。

 「せっかくパーシヴァル殿とサフィラス殿がいらしたのだ、改めて乾杯をしようじゃないか!」

 キングスリーさんは俺たちがいようといまいと、関係なく乾杯するんじゃないのかな。あれよあれよと言う間に、みんなに新たなジョッキが配られる。

 「お二人には、葡萄の果汁をどうぞ」

 盛り上がっている場だし、水を差す事もないか。それに、味の濃いものばかり食べていたから、ちょっと喉が渇いているし。俺は差し出された洋盃を受け取る。

 「では、ヴァンダーウォールと我らが盟友サフィラス殿に乾杯!」

 キングスリーさんの声に、みんな一斉にエールを呷った。俺もそれに倣って一気に果汁を飲み干す。
 
 「サフィラス! まて!」

 何故かパーシヴァルが慌てて俺の手から洋盃を取り上げたけど、果汁は既に俺のお腹の中だ。
 一体どうした? 滅多に無いほど、パーシヴァルが顔を青くしている。
 あれ? あれ、れ? なんだかお腹がカッカと熱い。それに頭がくらくらしてきた。ぐるぐる視界は回るけれど、ふわふわと気分がいいな!

 「遅かったか……」

 え? 何が遅かったって?

 「これは葡萄の果汁じゃない、葡萄酒だ」

 「なんですとっ! 誰か早く水を持って来い!」

 なんだ、葡萄酒だったのか。気がつかずに一気に飲んじゃった。
 キングスリー殿が水だ水だと慌てているけれど、毒じゃないんだから大丈夫でしょう。葡萄の果汁みたいに甘くて美味しい葡萄酒だったし、なんならもう一杯欲しいくらいだ。
 ぐるぐると広場のランタンも踊ってる。せっかくのお祭りだ。俺も花を添えようじゃないか。

 「よーし! きぶんがいいから、どーんと派手に打ち上げようか!」

 俺はさっと杖を抜くと、空に向かって突き上げた。勢いがつき過ぎて、足がふらつく。

 「おっと、とと」

 「サフィラス、いいから大人しくしていろ!」

 「だーいじょうぶ、だいじょうぶ!」

 パーシヴァルは相変わらず心配性だな。前世ではお酒の飲める年齢だったんだから、葡萄酒の一杯ぐらいなんて事ないよ。

 「ヴァンダーウォールに幸いあれ!」

 空いっぱいに色とりどりの花火が打ち上がれば、広場のみんなが歓声を上げた。そんなに喜んでもらえるなら、もう一発!
 ぐるぐると杖を回して、再び花火を打ち上げる。今度はもっと大きくて、たくさんの花火だ!
 みんな楽しんでるかい! 俺は楽しんでるよ!
 まるで苔の上を歩いているみたいに地面がふわふわするなぁ。俺まで空に昇って行きそうだ。花火もぐるぐる回ってる。
 
 「サフィラス!」

 パーシヴァル、空を見てくれよ。せっかく綺麗な花火を打ち上げたんだから。
 なんだかお腹だけじゃなく顔も熱くなってきた……
 もう一発、花火を打ち上げようか? 今度は太陽みたいなやつ。パーシヴァルみたいに、眩しいの。
 あれ、なんか足元が……地面が沈んでない?


 暗転。
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