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横取りした手柄の返礼が濡れ衣、だと? ちゃんと乾かしてから持って来い
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今日はパーシヴァル先生による芸術の授業はお休みだ。
彼には剣の鍛錬もあるので、毎日俺に付き合ってもらう訳にはいかない。昨日はなんだか様子がおかしかったから体調が悪いのかなと心配したけど、剣が振るえるなら特に具合が悪い訳じゃないだろう。ちゃんと食事もしていたしね。
それにしてもパーシヴァルは剣術だけじゃなくて、芸術もその他の教科もそつなくこなすんだからもう万能だ。全方位隙無しの男は全方位で努力を惜しまない男でもあった。
俺は左手を上げて、中指で光る指輪を眺める。
「……絆の証、か。んふふ」
自然と笑みが浮かんでしまう。パーシヴァルと一緒に冒険に出る日が楽しみだな。信頼できる仲間との旅は、困難すら楽しいものだ。
俺は足取り軽く裏庭に向かう。芸術なんて1人じゃ勉強する気にもならないので、杖を回す練習に勤しむ事にしたのだ。芸術以外の教科に関しては、試験前にサラッと流せば問題ない……多分ね。
実は、もう少し派手に杖を回そうと目論んでいる。まだ技としては未完成だから、練習場所を選ぶ。すっぽ抜けた杖が人に当たったりしたら大変だし、ましてや部屋なんかで杖を回して窓でも割ったら事だ。裏庭なら滅多に人は来ないし、杖をすっ飛ばしてスゴスゴと拾いにゆく格好悪いところを誰かに見られなくて済む。
「……ん? なんか落ちてる」
人気のない日陰の裏庭に何かが落ちている。誰かの忘れ物かなと、近づいてみればそれは壊れた笛だった。
「これは……竜笛だな、」
呪いでもかかっていたら嫌なので触らずに眺めていれば、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あいつです。あいつが竜笛を吹いたに違いありません。あの竜笛こそが揺るがぬ証拠です」
「はぁ?」
おいおい、何を言っているんだ? 俺は立ち上がると振り返る。
そこには、数人の騎士を引き連れたウェリタスがいた。
「……俺は竜笛なんか吹いていないけど?」
「嘘を言うな。ならば、その足元に落ちているものはなんだ?」
「これは、ここに来たら既にあったんだよ」
「それはどうだろうな? それならば何故お前は、こんな人気のないところでコソコソとしているんだ?」
逆になんでウェリタスは俺がここにいることを知っているんだ? しかも、ご丁寧に騎士まで引き連れてくるなんて、用意周到だな。
「どこで何をしようと俺の勝手では?」
「ほら見ろ。何をしているか言えないではないか。現に証拠もあるんだ。言い逃れはできないぞ」
ここで格好良い杖の回し方を練習するところでしたって言っても、信じて貰えるかどうか。それに、優雅に湖面に浮かぶ白鳥は、水面下で必死に水を掻いているところを見ている者に悟らせないものだろ?
「……悪いが、一緒に来てくれるだろうか」
騎士に両脇を固められ、同行を促される。
「はぁ、わかりました」
俺は渋々と頷く。ここで抵抗してもあまり意味がないからな。しかし、なんだか面倒臭い事になってきたぞ。格好いい杖回しは、まだ完璧に身についていないから、練習しないと感覚を忘れちゃうんだけど、今日は杖回しの練習はできそうにない。
ウェリタスが得意げに、こいつは転移が出来るからいくらでも裏工作ができるだの、いつも裏庭でコソコソと何かをしているだのと、したり顔で話している。
なんだウェリタスの奴、隠れて俺の事見張っていたのか? それは気持ちが悪いな。
俺は学院の一室に連れて行かれて、教師立ち会いの元、3名の騎士から話を聞かれた。当然、俺は裏庭に落ちていた笛の事は知らないと答える。
一昨日はカフェテリアにいたので、その場に居た人たちに聞いてもらえれば、俺が笛を吹いていないことはわかるのでは? と伝えた。俺の話を聞いて、騎士の1人が部屋を出てゆく。きっと確認を取りに行ってくれたのだろう。
まぁ、あの場に居た人たちが証言してくれたとして、それを信じて貰えるかわからないけどね。やっていない事の証明は証拠が残らないから、やった事を証明するよりも難しい。でも、やってないのだから、やっていないと言うしかないよな。
夕食までに解放してくれるのかな、とか、騎士団の留置所に連れて行かれたら、差し入れに美術図録でも差し入れてもらおうかな、とかそんな事を考える。
「安心したまえ、サフィラス君。我々は君が笛を吹いたとは思っていないよ」
3人の騎士の中で一番偉そうな人がそう言った。
「……え、そうなんですか?」
そういえば騎士達の雰囲気は、これから取り調べを行うにしては随分と和やかだ。
「ああ、これはあくまでも彼を納得させるための形式的なものだ。何しろ彼は魔法師団相談役のご子息だから、ないがしろにはできなくてね」
「ブルームフィールド公爵家の後ろ盾を得ているサフィラス君が、そんな迂闊な事をするとは考え難い。それに、君のことは第二騎士団の連中から聞いているよ。我々の仲間を助けてくれたそうじゃないか」
なんだ、そうだったのか。最初から俺を疑っていたわけじゃないんだ。騎士だって暇じゃないのに、本当にご苦労様だな。
特に取り調べを受けるでもなく、他愛のない雑談をしていれば、さっき出て行った騎士が戻ってきた。
「彼の主張は間違いありませんでした。ワイバーンの襲撃がある前から、カフェテリアに居たそうです。多くの学院生が証言してくれました」
「そうか。これで彼も納得してくれるだろう。サフィラス君、時間を取って悪かったね。もう帰ってもらって結構だよ」
「そうですか。では」
席を立って部屋を出ると、ウェリタスが待ち構えていた。俺の顔を見るなり口の端を引き上げ、底意地の悪そうな笑みを浮かべる。俺はこの元兄に何かしたかな? 寧ろ俺がされていた方だと思うけど。
「こいつは今後どのように?」
今や他人な上に全く親しくないのに、こいつ呼ばわりするとは貴族子息にあるまじき無礼さ加減だ。何より俺を犯人と決めつけているのが気に入らない。
「彼はあの笛とは無関係でしたよ」
「……は? そんなはずはない! こいつ以外に竜笛を吹ける奴はいないはずです!」
「……逆に聞くが、何故彼が竜笛を吹いたと思うのだね?」
「あんな人気の無いところに居るなんて不自然だ! 事実、これは笛を持っていたではないですか!」
こいつがとうとう、これになった。そういえば伯爵家に居た頃はそう呼ばれていたっけ。
それにしても、ここまで必死に俺を犯人にしようとするなんて、ウェリタスが関わっていると暴露しているようなものだと思うけどな。
「いや、持ってないけど。落ちていたものを眺めていただけだ」
俺が言い返せば、ウェリタスがぎろりと俺を睨む。だから、なんでそんなに敵意を向けられなきゃならないの? 解せぬ。
大体、俺を陥れる為の根拠がそれだけだなんて些か弱いだろう。だけど、もし騎士団が相談役側の人間だったら、それだけでも俺を拘束するに十分な理由となっていただろう。伯爵の人望の無さが幸いしたな。
「サフィラス君に怪しいところはなかった。あの日、カフェテリアにいた学院生達が証言してくれたよ。彼らの証言に不自然なところは一つもなかったが?」
「ならば、こいつの部屋を調べてください。他に証拠となるものが出てくるはずです」
おや? やけに自身ありげだな。もしかして、第4寮棟の不用心さに付け込んで、俺の部屋に何か仕込もうとしているのかな? だが、残念。最近はそこそこ高価な私物を持つ身になったので、俺もそれなりに警戒している。そう簡単に侵入は許さないぞ。何しろ部屋を空けている間は、大食漢のクロウラーに留守番をさせている。見た目はちょっとあれだけど、なんでも好き嫌いなく食べてくれるイイ子だ。俺の部屋で悪さをしようとしている共犯者が居るなら、今頃悲鳴を上げて逃げ出しているだろうな。
「わざわざワイバーンを呼び寄せて、学院を混乱させなければならない理由が俺にはありませんが?」
「ふん、この間は随分と活躍したそうじゃないか。自作自演で自分の評価を上げたかったのでは無いか?」
お前じゃあるまいし、そんなことするか。
「サフィラス!」
「パーシヴァル?」
パーシヴァルが足早にこちらにやってくる。余程急いできたのだろう、鍛錬着のままで、汗も拭いていないのか金色の髪が額に張り付いている。
「大丈夫か?! 騎士に連れていかれたと聞いたが」
「うん、大丈夫だよ。竜笛を吹いた疑いが掛かっていたんだけど、カフェテリアに居たみんなが証言してくれたって」
「それならば、俺も証言しよう。あの日は午後の授業が終わった後は、サフィラスとずっと一緒だった。竜笛など吹けるはずがない」
「ふん、ベリサリオがお前と良い仲であることは誰もが知っている。そんな人物の証言が当てになるとでも? 大方、その顔と体で籠絡したんだろうがな。探せばお前に誑かされた奴は他にもいるんじゃないか? 学院を辞めることになったら、そっちの道に進んだらどうだ? お前にはお似合いだろう」
今の下品な発言を、パーシヴァルにではなく俺に向けて言い放ったのは正解だ。三男とはいえ、パーシヴァルは辺境伯家のご子息だからな。だからといって、その内容が失礼な事に変わりはないが。
「ペルフェクティオ先輩、それは一体どういう意味でしょうか?」
「そのままの意味だが? 他に何があると?」
ウェリタスが鼻で笑う。ざっと、パーシヴァルの纏う雰囲気が変わった。ちらりと横に立つパーシヴァルの顔を伺えば、その表情は無だ。
うわ、これは相当怒っている。そりゃ、そうだろう。肉欲に惑わされて証言するような奴だと言われているんだからな。
俺の事は好きに言えばいいさ。だけど、パーシヴァルは高潔な男だ。その彼を侮辱するような発言は看過できるものじゃないぞ。
決別した家族ではあるが、不本意ながら血の繋がっている兄弟だ。手柄横取りの件は黙っておいてやろうと思ったが、気が変わった。そもそもやられっぱなしは、俺の性分じゃない。
やってないことの証明は難しいが、やった事の証明は案外簡単なんだよ。
彼には剣の鍛錬もあるので、毎日俺に付き合ってもらう訳にはいかない。昨日はなんだか様子がおかしかったから体調が悪いのかなと心配したけど、剣が振るえるなら特に具合が悪い訳じゃないだろう。ちゃんと食事もしていたしね。
それにしてもパーシヴァルは剣術だけじゃなくて、芸術もその他の教科もそつなくこなすんだからもう万能だ。全方位隙無しの男は全方位で努力を惜しまない男でもあった。
俺は左手を上げて、中指で光る指輪を眺める。
「……絆の証、か。んふふ」
自然と笑みが浮かんでしまう。パーシヴァルと一緒に冒険に出る日が楽しみだな。信頼できる仲間との旅は、困難すら楽しいものだ。
俺は足取り軽く裏庭に向かう。芸術なんて1人じゃ勉強する気にもならないので、杖を回す練習に勤しむ事にしたのだ。芸術以外の教科に関しては、試験前にサラッと流せば問題ない……多分ね。
実は、もう少し派手に杖を回そうと目論んでいる。まだ技としては未完成だから、練習場所を選ぶ。すっぽ抜けた杖が人に当たったりしたら大変だし、ましてや部屋なんかで杖を回して窓でも割ったら事だ。裏庭なら滅多に人は来ないし、杖をすっ飛ばしてスゴスゴと拾いにゆく格好悪いところを誰かに見られなくて済む。
「……ん? なんか落ちてる」
人気のない日陰の裏庭に何かが落ちている。誰かの忘れ物かなと、近づいてみればそれは壊れた笛だった。
「これは……竜笛だな、」
呪いでもかかっていたら嫌なので触らずに眺めていれば、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あいつです。あいつが竜笛を吹いたに違いありません。あの竜笛こそが揺るがぬ証拠です」
「はぁ?」
おいおい、何を言っているんだ? 俺は立ち上がると振り返る。
そこには、数人の騎士を引き連れたウェリタスがいた。
「……俺は竜笛なんか吹いていないけど?」
「嘘を言うな。ならば、その足元に落ちているものはなんだ?」
「これは、ここに来たら既にあったんだよ」
「それはどうだろうな? それならば何故お前は、こんな人気のないところでコソコソとしているんだ?」
逆になんでウェリタスは俺がここにいることを知っているんだ? しかも、ご丁寧に騎士まで引き連れてくるなんて、用意周到だな。
「どこで何をしようと俺の勝手では?」
「ほら見ろ。何をしているか言えないではないか。現に証拠もあるんだ。言い逃れはできないぞ」
ここで格好良い杖の回し方を練習するところでしたって言っても、信じて貰えるかどうか。それに、優雅に湖面に浮かぶ白鳥は、水面下で必死に水を掻いているところを見ている者に悟らせないものだろ?
「……悪いが、一緒に来てくれるだろうか」
騎士に両脇を固められ、同行を促される。
「はぁ、わかりました」
俺は渋々と頷く。ここで抵抗してもあまり意味がないからな。しかし、なんだか面倒臭い事になってきたぞ。格好いい杖回しは、まだ完璧に身についていないから、練習しないと感覚を忘れちゃうんだけど、今日は杖回しの練習はできそうにない。
ウェリタスが得意げに、こいつは転移が出来るからいくらでも裏工作ができるだの、いつも裏庭でコソコソと何かをしているだのと、したり顔で話している。
なんだウェリタスの奴、隠れて俺の事見張っていたのか? それは気持ちが悪いな。
俺は学院の一室に連れて行かれて、教師立ち会いの元、3名の騎士から話を聞かれた。当然、俺は裏庭に落ちていた笛の事は知らないと答える。
一昨日はカフェテリアにいたので、その場に居た人たちに聞いてもらえれば、俺が笛を吹いていないことはわかるのでは? と伝えた。俺の話を聞いて、騎士の1人が部屋を出てゆく。きっと確認を取りに行ってくれたのだろう。
まぁ、あの場に居た人たちが証言してくれたとして、それを信じて貰えるかわからないけどね。やっていない事の証明は証拠が残らないから、やった事を証明するよりも難しい。でも、やってないのだから、やっていないと言うしかないよな。
夕食までに解放してくれるのかな、とか、騎士団の留置所に連れて行かれたら、差し入れに美術図録でも差し入れてもらおうかな、とかそんな事を考える。
「安心したまえ、サフィラス君。我々は君が笛を吹いたとは思っていないよ」
3人の騎士の中で一番偉そうな人がそう言った。
「……え、そうなんですか?」
そういえば騎士達の雰囲気は、これから取り調べを行うにしては随分と和やかだ。
「ああ、これはあくまでも彼を納得させるための形式的なものだ。何しろ彼は魔法師団相談役のご子息だから、ないがしろにはできなくてね」
「ブルームフィールド公爵家の後ろ盾を得ているサフィラス君が、そんな迂闊な事をするとは考え難い。それに、君のことは第二騎士団の連中から聞いているよ。我々の仲間を助けてくれたそうじゃないか」
なんだ、そうだったのか。最初から俺を疑っていたわけじゃないんだ。騎士だって暇じゃないのに、本当にご苦労様だな。
特に取り調べを受けるでもなく、他愛のない雑談をしていれば、さっき出て行った騎士が戻ってきた。
「彼の主張は間違いありませんでした。ワイバーンの襲撃がある前から、カフェテリアに居たそうです。多くの学院生が証言してくれました」
「そうか。これで彼も納得してくれるだろう。サフィラス君、時間を取って悪かったね。もう帰ってもらって結構だよ」
「そうですか。では」
席を立って部屋を出ると、ウェリタスが待ち構えていた。俺の顔を見るなり口の端を引き上げ、底意地の悪そうな笑みを浮かべる。俺はこの元兄に何かしたかな? 寧ろ俺がされていた方だと思うけど。
「こいつは今後どのように?」
今や他人な上に全く親しくないのに、こいつ呼ばわりするとは貴族子息にあるまじき無礼さ加減だ。何より俺を犯人と決めつけているのが気に入らない。
「彼はあの笛とは無関係でしたよ」
「……は? そんなはずはない! こいつ以外に竜笛を吹ける奴はいないはずです!」
「……逆に聞くが、何故彼が竜笛を吹いたと思うのだね?」
「あんな人気の無いところに居るなんて不自然だ! 事実、これは笛を持っていたではないですか!」
こいつがとうとう、これになった。そういえば伯爵家に居た頃はそう呼ばれていたっけ。
それにしても、ここまで必死に俺を犯人にしようとするなんて、ウェリタスが関わっていると暴露しているようなものだと思うけどな。
「いや、持ってないけど。落ちていたものを眺めていただけだ」
俺が言い返せば、ウェリタスがぎろりと俺を睨む。だから、なんでそんなに敵意を向けられなきゃならないの? 解せぬ。
大体、俺を陥れる為の根拠がそれだけだなんて些か弱いだろう。だけど、もし騎士団が相談役側の人間だったら、それだけでも俺を拘束するに十分な理由となっていただろう。伯爵の人望の無さが幸いしたな。
「サフィラス君に怪しいところはなかった。あの日、カフェテリアにいた学院生達が証言してくれたよ。彼らの証言に不自然なところは一つもなかったが?」
「ならば、こいつの部屋を調べてください。他に証拠となるものが出てくるはずです」
おや? やけに自身ありげだな。もしかして、第4寮棟の不用心さに付け込んで、俺の部屋に何か仕込もうとしているのかな? だが、残念。最近はそこそこ高価な私物を持つ身になったので、俺もそれなりに警戒している。そう簡単に侵入は許さないぞ。何しろ部屋を空けている間は、大食漢のクロウラーに留守番をさせている。見た目はちょっとあれだけど、なんでも好き嫌いなく食べてくれるイイ子だ。俺の部屋で悪さをしようとしている共犯者が居るなら、今頃悲鳴を上げて逃げ出しているだろうな。
「わざわざワイバーンを呼び寄せて、学院を混乱させなければならない理由が俺にはありませんが?」
「ふん、この間は随分と活躍したそうじゃないか。自作自演で自分の評価を上げたかったのでは無いか?」
お前じゃあるまいし、そんなことするか。
「サフィラス!」
「パーシヴァル?」
パーシヴァルが足早にこちらにやってくる。余程急いできたのだろう、鍛錬着のままで、汗も拭いていないのか金色の髪が額に張り付いている。
「大丈夫か?! 騎士に連れていかれたと聞いたが」
「うん、大丈夫だよ。竜笛を吹いた疑いが掛かっていたんだけど、カフェテリアに居たみんなが証言してくれたって」
「それならば、俺も証言しよう。あの日は午後の授業が終わった後は、サフィラスとずっと一緒だった。竜笛など吹けるはずがない」
「ふん、ベリサリオがお前と良い仲であることは誰もが知っている。そんな人物の証言が当てになるとでも? 大方、その顔と体で籠絡したんだろうがな。探せばお前に誑かされた奴は他にもいるんじゃないか? 学院を辞めることになったら、そっちの道に進んだらどうだ? お前にはお似合いだろう」
今の下品な発言を、パーシヴァルにではなく俺に向けて言い放ったのは正解だ。三男とはいえ、パーシヴァルは辺境伯家のご子息だからな。だからといって、その内容が失礼な事に変わりはないが。
「ペルフェクティオ先輩、それは一体どういう意味でしょうか?」
「そのままの意味だが? 他に何があると?」
ウェリタスが鼻で笑う。ざっと、パーシヴァルの纏う雰囲気が変わった。ちらりと横に立つパーシヴァルの顔を伺えば、その表情は無だ。
うわ、これは相当怒っている。そりゃ、そうだろう。肉欲に惑わされて証言するような奴だと言われているんだからな。
俺の事は好きに言えばいいさ。だけど、パーシヴァルは高潔な男だ。その彼を侮辱するような発言は看過できるものじゃないぞ。
決別した家族ではあるが、不本意ながら血の繋がっている兄弟だ。手柄横取りの件は黙っておいてやろうと思ったが、気が変わった。そもそもやられっぱなしは、俺の性分じゃない。
やってないことの証明は難しいが、やった事の証明は案外簡単なんだよ。
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