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閑話:とあるご令嬢達の午後 その1
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「せっかくの雨で残念ね……」
「ええ、本当に」
今日は人気のアクセサリーのお店に行く予定だったのに、あいにくの雨。朝から空の様子が怪しくて、どうかお天気が保ちますようにと女神様にお祈りしたけれど、残念ながら私の細やかなお願いは聞き届けられなかった。
だけど、女神様もこんな些細なお願いを一々聞いていたら大変だもの、仕方がないわ。
「はぁ、限定のフルーツケーキは明日までだったのに」
「そうね。学院のカフェテラスのケーキでは、少しも気分は盛り上がらないわ……」
友人のソフィリアが溜息をつく。
本当にね。今日の放課後は素敵なレース編みのリボンをお揃いで選んで、それからカフェで楽しいひと時を楽しむはずだったのに、学園のカフェテリアでありきたりのお茶とお菓子。でも、雨の中を出かけるなんてできないもの、仕方がないわ。
それにしても、今日はカフェテリアの一角がやけに騒がしいわね。あんなに大きな声で話しているなんて。ここは静かに食事やお茶を楽しむ場所なのに。少しマナーがなっていないのではないかしら。
本当に今日はついていないわ。
「そういえば、もうすぐ到達度テストね」
ソフィリアがため息と共に呟く。
「その話はやめて頂戴。そうじゃなくても雨で憂鬱なのに、思い出させないで」
「そうだけど……私、魔法実技が一番心配なのよ」
「……実は、私もよ」
ソフィリアに同意するように、私は大きく頷く。私も魔法は苦手。魔力はあるけれど、だからと言って誰もが魔法を自由自在に使えるわけじゃない。魔法使い、なんて呼ばれるような人はほんの一握り。大体の人は、ちょっと明かりを灯せるとか、小さな火を起こせるとか。お花にあげられる程度の水を出したりとか、その程度だわ。だけど、私もソフィリアも、その程度が本当に大変なの。
今学院では杖を使う子が多くなってる。授業でも杖を使えば魔力操作が楽になるって教わったけど、あまり使う人がいなかった。だけど、あるお方が杖を使っている事で、同じように杖を使う学院生が増えた。ほんのちょっとの魔法のために杖を使うなんて、なんだか大袈裟なような気もするし、手間だわと思っていたけれど。でも、彼の方のように優雅に杖を振れたら、とても素敵でしょうね。
「私も杖を使おうかしら……」
「私も使おうかと考えているの。それにしても、Cクラスの皆様はいいわよね。彼のお方に魔法を教わっているそうなのよ」
「まぁ、そうなの?」
それはなんて羨ましいのかしら。私だって、彼のお方から魔法を教えて頂ければ、もっと上手に魔法が使えるように頑張れるのに。
「ええ、Cクラスに友人がいるのだけれど、とても分かりやすく丁寧に教えて……くれる、そうなのよ」
ソフィリアが急に言葉を切って、ちらちらと私に何か目配せをしてくる。
あら、一体何かしら?
「ソフィリア? どうしたの?」
よくわからなくて問い掛ければ、今度は頻りに瞬きを繰り返す。
何かを伝えようとしているようなのだけれど、ちゃんと言葉にしてくれないとわからないわ。
首を傾げていれば、今まで空席だった隣のテーブルに人が座った気配がしたので、そちらに視線が向く。
「っ!」
驚きすぎて、息が止まるかと思ったわ。だって、今まさに話題に上がっていた、彼のお方がいるんですもの!
ソフィリアの不可解な態度の意味がようやく分かったわ。
お二人が放課後のお時間に、カフェテリアでよく寛いでいらっしゃるのは知っていたわ。いつもは遠くのお席のお二人を、そっと伺うだけだったのに。
それなのに……
それなのに! こんなお近くで拝見できるなんて! なんという、幸運かしら!
お二人は、一部の学院生の間では、太陽の騎士様と宵闇の精霊様と呼ばれている。そのお姿が、まさに騎士様と精霊様のようだから。
太陽の騎士ベリサリオ様と宵闇の精霊サフィラス様を密かに見つめている方達は、私たち以外にもいるわ。近くのテーブルに座っている方達も、そっとお二人を伺っている。
こうして近くで拝見すると、本当に麗しい方達だわ。
サフィラス様は透き通るような白い肌に、深い湖の底を思わせる神秘的な濃紺の瞳をお持ちで、漆黒の闇のような御髪が夜を連想させるお方。儚げに立つそのお姿は、まさに宵闇の精霊様そのもの。まるで女神の寵愛を一身に受けたように、お綺麗なのよ。うっかり触れれば、消えてしまうのではないかと不安になってしまうわ。
そして、ベリサリオ様は、その精霊様を守る麗しの騎士様。いつもサフィラス様の側にそっと寄り添っているの。
ベリサリオ様もまた大変お美しいお方で、太陽のような金の御髪に、晴れ渡る空の色の明るい瞳をお持ちなの。王国の盾と剣と言われるヴァンダーウォール辺境伯家のご子息としての自覚がしっかりとおありのようで、いつも鍛えていらっしゃるだけあって、サフィラス様の儚さとは対照的にしっかりとしたお姿をしている。その上、立ち居振る舞いもとても紳士的なの。
そのお二人が並んでいる姿は、神殿に描かれている絵のようで、思わずため息が出てしまう。
そっと伺い見るだけでも幸福だというのに、こんなお近くでお二人を見る事ができるなんて! 感動と緊張でお茶も喉を通らないわ。
だけど、こんな機会は滅多にないもの。お二人の美しさを十分堪能させて頂かなければ! だけど、不自然な態度がお二人に気付かれてもいけない。私もソフィリアも懸命に、普通を装う。
席に着いたお二人が二言、三言、言葉を交わすと、ついさっきまで難しそうなお顔だったベリサリオ様が微笑まれた。近くでうっかりその微笑みを見てしまった私は、心の臓が止まりそうになった。
なんて優しげな微笑みなの! あんなお顔は、きっとサフィラス様にしかお向けにならないのでしょうね。物腰は穏やかだけれど、真面目で寡黙なベリサリオ様は普段あまり表情を崩されない。だけど、サフィラス様といらっしゃる時の雰囲気は、いつものそれとは全く違うの。ベリサリオ様のサフィラス様に向けられる眼差しは、いつだって柔らかくて温かいわ。遠くから眺めているだけでも、それがよく分かる。ベリサリオ様はサフィラス様の事を、とても大切に想っておられるのだわ。
サフィラス様には色々と深いご事情がおありのようで、そのことであれこれとおっしゃられる方もいるけれど。私はそんな事、ちっとも気にならないわ。だって、サフィラス様自身はとても良い方だと思うもの。
魔法演技でCクラスの代表の方がステッラ賞を取ったのは、サフィラス様のお陰だと聞いている。
Cクラスの魔法は、今まで見たどの魔法演技とも違っていた。あまりにも美しい演技に、私は言葉を忘れてしまったわ。本当に夢でも見ているような光景で、その美しさに気がついたら涙が溢れていたの。魔法であんな素敵な事ができるだなんて。
魔法は便利なだけではなく、戦うためだけでもなく、心を動かすものでもあるんだってCクラスの魔法演技に教えてもらった。きっとそう感じたのは、私だけでは無いはず。
魔法で夢のような光景を作り出せるのだと教えてくださったサフィラス様は、本当に精霊様なのではないかしら。
「ええ、本当に」
今日は人気のアクセサリーのお店に行く予定だったのに、あいにくの雨。朝から空の様子が怪しくて、どうかお天気が保ちますようにと女神様にお祈りしたけれど、残念ながら私の細やかなお願いは聞き届けられなかった。
だけど、女神様もこんな些細なお願いを一々聞いていたら大変だもの、仕方がないわ。
「はぁ、限定のフルーツケーキは明日までだったのに」
「そうね。学院のカフェテラスのケーキでは、少しも気分は盛り上がらないわ……」
友人のソフィリアが溜息をつく。
本当にね。今日の放課後は素敵なレース編みのリボンをお揃いで選んで、それからカフェで楽しいひと時を楽しむはずだったのに、学園のカフェテリアでありきたりのお茶とお菓子。でも、雨の中を出かけるなんてできないもの、仕方がないわ。
それにしても、今日はカフェテリアの一角がやけに騒がしいわね。あんなに大きな声で話しているなんて。ここは静かに食事やお茶を楽しむ場所なのに。少しマナーがなっていないのではないかしら。
本当に今日はついていないわ。
「そういえば、もうすぐ到達度テストね」
ソフィリアがため息と共に呟く。
「その話はやめて頂戴。そうじゃなくても雨で憂鬱なのに、思い出させないで」
「そうだけど……私、魔法実技が一番心配なのよ」
「……実は、私もよ」
ソフィリアに同意するように、私は大きく頷く。私も魔法は苦手。魔力はあるけれど、だからと言って誰もが魔法を自由自在に使えるわけじゃない。魔法使い、なんて呼ばれるような人はほんの一握り。大体の人は、ちょっと明かりを灯せるとか、小さな火を起こせるとか。お花にあげられる程度の水を出したりとか、その程度だわ。だけど、私もソフィリアも、その程度が本当に大変なの。
今学院では杖を使う子が多くなってる。授業でも杖を使えば魔力操作が楽になるって教わったけど、あまり使う人がいなかった。だけど、あるお方が杖を使っている事で、同じように杖を使う学院生が増えた。ほんのちょっとの魔法のために杖を使うなんて、なんだか大袈裟なような気もするし、手間だわと思っていたけれど。でも、彼の方のように優雅に杖を振れたら、とても素敵でしょうね。
「私も杖を使おうかしら……」
「私も使おうかと考えているの。それにしても、Cクラスの皆様はいいわよね。彼のお方に魔法を教わっているそうなのよ」
「まぁ、そうなの?」
それはなんて羨ましいのかしら。私だって、彼のお方から魔法を教えて頂ければ、もっと上手に魔法が使えるように頑張れるのに。
「ええ、Cクラスに友人がいるのだけれど、とても分かりやすく丁寧に教えて……くれる、そうなのよ」
ソフィリアが急に言葉を切って、ちらちらと私に何か目配せをしてくる。
あら、一体何かしら?
「ソフィリア? どうしたの?」
よくわからなくて問い掛ければ、今度は頻りに瞬きを繰り返す。
何かを伝えようとしているようなのだけれど、ちゃんと言葉にしてくれないとわからないわ。
首を傾げていれば、今まで空席だった隣のテーブルに人が座った気配がしたので、そちらに視線が向く。
「っ!」
驚きすぎて、息が止まるかと思ったわ。だって、今まさに話題に上がっていた、彼のお方がいるんですもの!
ソフィリアの不可解な態度の意味がようやく分かったわ。
お二人が放課後のお時間に、カフェテリアでよく寛いでいらっしゃるのは知っていたわ。いつもは遠くのお席のお二人を、そっと伺うだけだったのに。
それなのに……
それなのに! こんなお近くで拝見できるなんて! なんという、幸運かしら!
お二人は、一部の学院生の間では、太陽の騎士様と宵闇の精霊様と呼ばれている。そのお姿が、まさに騎士様と精霊様のようだから。
太陽の騎士ベリサリオ様と宵闇の精霊サフィラス様を密かに見つめている方達は、私たち以外にもいるわ。近くのテーブルに座っている方達も、そっとお二人を伺っている。
こうして近くで拝見すると、本当に麗しい方達だわ。
サフィラス様は透き通るような白い肌に、深い湖の底を思わせる神秘的な濃紺の瞳をお持ちで、漆黒の闇のような御髪が夜を連想させるお方。儚げに立つそのお姿は、まさに宵闇の精霊様そのもの。まるで女神の寵愛を一身に受けたように、お綺麗なのよ。うっかり触れれば、消えてしまうのではないかと不安になってしまうわ。
そして、ベリサリオ様は、その精霊様を守る麗しの騎士様。いつもサフィラス様の側にそっと寄り添っているの。
ベリサリオ様もまた大変お美しいお方で、太陽のような金の御髪に、晴れ渡る空の色の明るい瞳をお持ちなの。王国の盾と剣と言われるヴァンダーウォール辺境伯家のご子息としての自覚がしっかりとおありのようで、いつも鍛えていらっしゃるだけあって、サフィラス様の儚さとは対照的にしっかりとしたお姿をしている。その上、立ち居振る舞いもとても紳士的なの。
そのお二人が並んでいる姿は、神殿に描かれている絵のようで、思わずため息が出てしまう。
そっと伺い見るだけでも幸福だというのに、こんなお近くでお二人を見る事ができるなんて! 感動と緊張でお茶も喉を通らないわ。
だけど、こんな機会は滅多にないもの。お二人の美しさを十分堪能させて頂かなければ! だけど、不自然な態度がお二人に気付かれてもいけない。私もソフィリアも懸命に、普通を装う。
席に着いたお二人が二言、三言、言葉を交わすと、ついさっきまで難しそうなお顔だったベリサリオ様が微笑まれた。近くでうっかりその微笑みを見てしまった私は、心の臓が止まりそうになった。
なんて優しげな微笑みなの! あんなお顔は、きっとサフィラス様にしかお向けにならないのでしょうね。物腰は穏やかだけれど、真面目で寡黙なベリサリオ様は普段あまり表情を崩されない。だけど、サフィラス様といらっしゃる時の雰囲気は、いつものそれとは全く違うの。ベリサリオ様のサフィラス様に向けられる眼差しは、いつだって柔らかくて温かいわ。遠くから眺めているだけでも、それがよく分かる。ベリサリオ様はサフィラス様の事を、とても大切に想っておられるのだわ。
サフィラス様には色々と深いご事情がおありのようで、そのことであれこれとおっしゃられる方もいるけれど。私はそんな事、ちっとも気にならないわ。だって、サフィラス様自身はとても良い方だと思うもの。
魔法演技でCクラスの代表の方がステッラ賞を取ったのは、サフィラス様のお陰だと聞いている。
Cクラスの魔法は、今まで見たどの魔法演技とも違っていた。あまりにも美しい演技に、私は言葉を忘れてしまったわ。本当に夢でも見ているような光景で、その美しさに気がついたら涙が溢れていたの。魔法であんな素敵な事ができるだなんて。
魔法は便利なだけではなく、戦うためだけでもなく、心を動かすものでもあるんだってCクラスの魔法演技に教えてもらった。きっとそう感じたのは、私だけでは無いはず。
魔法で夢のような光景を作り出せるのだと教えてくださったサフィラス様は、本当に精霊様なのではないかしら。
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